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MonoQlog  作者: 紅サーカス
15/36

15. 花畑の魔導植物


「ロイドくん!」

 左袖をぎゅ、と引っ張られる。カティアさんは顔を青ざめさせて、花の茎や葉、花びらを確認し何かを見つけると僕にもしゃがむ様指示した。

「見て……。これ」

「……!呪印……!」

 彼女の手によって捲られた葉の裏には呪印が刻まれていた。はっと顔を上げて魔素に意識を集中させると、花畑にちらほらと呪印付き(・・・・)の花があることがわかった。さっと血の気が引く。もし呪印付きの花を踏んだり、傷つけたりしたらまずいんじゃないか。

「ロイドくん、解呪式……わかりますか?」

「待って……。上に“隠蔽”下に……なにこれ……“排除”?かな……術式……は」

 多重術式になっていて知らない術式も描かれていた。解呪式はわからないけど、下の術式に“付与”の術式を刻み術式を壊した。回路を繋げない様に不純物を混ぜる。葉を恐る恐る花から切り離すと呪印は発動せずに二人で息を吐いた。


「戻りましょう、学園や皆に連絡しなきゃ…」

「そうだね」


 僕らは急足でガゼボへ戻る。ガゼボではいつの間にかトランプでジョーカー抜きをしていた。

「あ、おかえり!何か進展は……どうしたの顔色が悪いわよ!」

「二人してどうしたんだい?」

「見てこれ。花畑の至る所に刻まれてる」

 テーブルの上に葉を置くと、皆も息を飲んだ。刻まれた術式を見たからだ。

「何……“隠蔽”、“付与”“排除”“攻撃”?いや“付与”は術式を壊すために刻んだのかな?」

 ルルドが術式を読み解く。付与の件について頷く。ぱっと皆顔を上げて魔素を辿った。クラウドだけが上手く辿れない様で眉間に皺を寄せている。

「わ、本当……まわり、たくさん……ある」

「僕らでいくつか術式を壊しながら、誰か先生を呼びに行くのがいいかなって思うんだけど、どう?」

 そう提案すればソニアとブランシェさんが目線を交わした。

「ケイト、悪いんだけど学園に先生を呼びに行ってくれないかしら」

「わかりましたわ!」

 目の前で風が強く吹いたと思ったらブランシェさんが次の瞬間には竜となって佇んでいた。竜の姿初めて見た……!

 変身して直ぐにブランシェさんは地面を蹴って学園へと飛び立つ。

「この中では竜族のケイトに学園に行ってもらうのが1番早いので」

「僕竜って初めて見た」

「いつもアウフランダーを見てるだろ」

「竜の姿を初めて見たってことだよ」

 ふぅん。そうか。クラウドは軽く相槌をうって僕を見た。

「アーチャー、魔素の辿り方と術式の破壊方法教えてくれ」

「最近は魔力の扱いも安定したし、いいよ」

 素直に頼むようになったクラウドは嫌いじゃない。入学当初はもっとトゲトゲしかったし。


「それじゃあ、ロイドとクラウドはセットで、俺たちは個別に術式の破壊をしていこうか」

「アタシは花畑に来てる他の生徒に呼びかけてくるわね!」

 ルルドの言葉に頷き、各々で花畑の呪印を壊すことにした。











 「まず、魔素の辿り方。大きな魔素を辿っていくってやり方は前に教えたよね。今回は魔素が動く場所だから魔力を辿るんだ」

 右手で適当な魔素を選び、意識を集中させる。同時に目にも魔力を持っていけば周囲の魔素と体の魔力が繋がり、視覚的にも認識できる。

「手を出して。これくらいの魔力を両目に乗せるんだ」

「……失敗したら失明しないか?」

「失敗しなければいいんだよ」

 失敗したことないからわからないけれど、クラウドが弱く僕の手に魔力を流したのがわかった。一発で出来るじゃん。

「それくらい。ほら、見てご覧」

 クラウドが目に魔力を集め、魔素を選び取る。きょろきょろと辺りを見渡して、足元を見て「あ」と声を出した。

 そう、君の足元にあるんだよ。

「見るのは合格だね。次は術式の刻み方……とはいってもやり方は魔力石を作るのとそう変わらないよ。魔力をながして……こないだ習った“回復”の術式を上から被せて壊すだけ。簡単でしょ?」

「言うは易し行うは難し……」

 何それ。聞けばコタローくんの国言い回しらしい。簡単に言うけどやるのは難しいんだよってことか。ちょっと違うみたいだけど大体そう言う意味でしょ。

 

 僕が周辺の術式を三つ壊した辺りで「出来たっ!」と声が上がった。見にいけば術式を被せてちゃんと壊せていた。

「上出来。じゃああっち見てご覧」

「む……うわ、密集地帯がある」

 その通り。あれを壊すのは骨が折れそう。いや、この花畑全体の術式を壊さなきゃなんだから大変なんだけど。

 少し笑ってから、密集地帯で僕らは呪印の破壊を行い始めた。


「……さっきの、出身地の話だが」

「何」

 思ったよりも強張った声が出た。その話は嫌いなんだ。触れないでよ。そう目線で訴えたがクラウドは術式を壊すのに忙しく、僕を見もしなかった。話しかけたんだから顔くらい上げてよ。

「お前が魔法界の常識に疎いのは辺境出身だからか」

「……そうだよ」

「そうか」

 パキリ。術式を壊しながら呟く。

「僕は青の国アストリアの辺境の生まれで、そこには人族しかいなかったから他種族は学園に来てから初めて見たよ」

「……そうか」

「さっきは……ありがとう。わざと白の国出身だって話したでしょ。白の国出身だとかは……言いにくい話題だったでしょ」

「そうでもないぞ」

 やっと一つの術式を壊し終えたクラウドが顔を上げる。


「自分が生まれ育った国を嫌う訳ないだろ。だから俺は白の国出身であることは隠さない。俺の誇りだからな」


 ひゅ、と喉が張り付いた。クラウドが真っ直ぐ僕を見ていたからだ。

 己の出身地が誇りで堂々と公表するクラウドと、なんとなく……否。恥ずかしく思って隠す僕。入学当初から思っていたけれど、僕らはやはり、あまりにも違いすぎる。


「そういや、“ゴミ貯め”の奴は自分の国を隠すらしいな」

「…………“ゴミ貯め”」

「そこらへんも疎いのか。魔力無(ルーザー)が暮らす村のことだ」

 魔力無(ルーザー)。魔力を持つ生き物が世界の九割以上を占めるこの世界で、魔力を一切持たない敗者をそう呼ぶ。僕はその呼び方が嫌いだった。負け犬(ルーザー)だなんて。

 そうか。ゴミ貯めか。やはり世間では僕の村(・・・)をそう呼ぶのか。

「例えば青の国では」

「リトルバーグ、でしょ」

 被せ気味に呟けば「流石に知ってるか」とクラウドは言った。知らないわけがない。リトルバーグ(ゴミ捨て場)が僕の本当の出身地なんだから。


「そんなわけで、“ゴミ貯め”出身な訳じゃねぇんだからもっと自分の国を自信持った方がいいぞ。いくら辺境の田舎だって云っても良いとこはあるはずだ」

「……そう、だね。

 ……クラウド、純粋な疑問……なんだけど“ゴミ捨て場”に……魔力無(まりょくなし)から魔法使いが生まれることはあるの?」

「あるわけねぇじゃん。0に何掛けたって0だろ」

「そっか」

 魔力無(まりょくなし)なんて言い方、今時言わねぇぞ。とクラウドは続ける。

 そうなのか。魔力無(まりょくなし)から生まれた魔法使いが僕だなんて、クラウドは……この世界の生物はきっと思わないんだろうな。


「クラウド、あっちにもあるの辿れる?」

「待て……俺はまだお前みたいにさくさく魔力を辿れないんだ」

「ふぅん。“まだ”ってことはいづれは僕と並ぶつもりなんだ」

「追い抜いてやるから覚悟しとけ」

「それは楽しみ。学園卒業までに追い抜けるといいね?」

 見てろよ。と捨て台詞の様に吐いてクラウドは魔素を辿り始める。さっき初めてやったにしてはうまいじゃん。

 同時にクラウドの意識が術式破壊の方に向いて、出身地については流れた。


 ぎゃあ、と悲鳴が上がったのは丁度その時だった。


 ぱっと顔を上げれば花畑に来たばかりの生徒が花を摘み、術式が発動したようだ。

 うねうねと巨大な植物には水玉の模様と禍々しい呪印が刻まれていて、蔓を使って生徒を宙吊りにしていた。


「っ食生花だ!」

「食生花って何!?《青魔法》!」

「ばッ!よせ!」

「《氷の》ッ!?」


 生徒を助けようと魔法を展開し、術式を組んだ瞬間に蔓が僕を攻撃する。《盾》、と防御魔法で凌いだが結構軋んだ。なんていう強さだ!


「食生花は字の如く生物を食う花だ!魔法で攻撃すると襲いかかってくる魔道植物だよ!」

「魔道植物って何!?とりあえず攻撃はだめってことはわかったよ!《盾》!《防御壁》!」

 生徒に《盾》を張り、僕らにも防御壁を張る。

「世を呪った魔法使いが生み出した“禁じられた植物”の事だよ!教科書でも読んどけ田舎者!」

「歴史書も読むことにするよ!で、対処法は?」

「……呪印を壊すこと」

「攻撃しちゃ駄目なのに?」

 それってもう、無理くない?

「俺が惹きつける間に呪印に術式を刻んで壊せるか?一瞬しか隙ができないと思うが」

「僕を誰だと思ってるの?一学年主席のロイド・D(ドライ)・アーチャーだよ」

 《黄魔法》《刀》とクラウドが物質出現魔法で剣を出す。コタローくん直伝の構えで魔道植物に向かえば魔道植物の意識は生徒からクラウドに向いた。僕も術式を壊せる様に近づく。

 蔦がクラウドを攻撃するのを《盾》で防ぎ、四方を囲まれれば《氷の礫》で意識を僕に逸らす。

 他の蔦や葉で呪印を隠すから中々術式に刻めない。

 クラウドがぐっと魔道植物の懐に潜り込んで魔法出力を抑えた《電気》魔法を使った。

 一瞬。ほんの一瞬蔦や葉が呪印から外れた隙を狙って“付与”の術式を刻み込んだ。呪印が壊れたことによってバラバラと植物が枯れて砕けていく。


「ひとまず安心かな……」

「先生たちも来たみたいだ」

 先生たちは先程襲われた生徒の介抱とブランシェさんから状況説明を受けていた。

 中にはグラディアス先生も居て、僕に気付くと手招きをする。

「ロイドくん!良いところに」

「グラディアス先生、どうかしたんですか?」

「君なら出来るかな、と思ってね」

 くしゃりとグラディアス先生に紙を渡される。紙には空間指定魔法の使い方と範囲指定、その範囲内で術式の刻み方が書かれていた。まって、これ結構難しくない?

「まずは紫魔法で座標を指定するんだ。それで空間魔法を展開する。今回は一部の術式を壊すだけだから、更に術式が刻まれているか否かを自動で選ぶ様にして、術式が刻まれてる花にだけ新たに術式を被せる。

 出来そうだろう?」

「まず空間指定から難しそうなんですけど。……言うは易し行うは難し」

 《紫魔法》《座標指定》うーん……起点を0.0で終点を1.1にして1m四方の空間にしようかな。初めてだし。

「《空間魔法》」

 パキン、と1m四方の空間が覆えたけれど、これはちょっと平面的だなぁ。

「Z軸の指定を忘れてるよ」

「あ、そうでした。《座標指定》《空間魔法》」

 パキン。今回は綺麗に縦1m横1m、高さは花を覆えれば良いので0.3mの空間を指定した。

 次は空間で囲まれてる花の中に任意の花を選び取るように展開するから……もし花の中に術式があったら、かな。

「“付与”……うわ」

 間違えた。術式が刻まれてない方を指定してしまったから呪印のついた花ではなくついていない花に術式刻んでしまった。しれっと呪印の花の術式を壊しておく。

 素知らぬ顔で別の場所に範囲指定、空間魔法で区切って、今度は間違えない様に指定して術式を壊す。うん。うまく行った。

「2回で成功するとは思わなかったよ!いやはや教えがいがあるなぁ!」

「先生も教え方が上手いですよ」

 1回目失敗したのバレてるや。


 グラディアス先生研修で数回、その魔法の使い方をすれば徐々に慣れてくる。けれどうまく魔力出力を調整できない様で10m四方を超えるとブレてきた。今の僕の限界は10mみたいだ。悔しいなぁ。

 それでも一つ一つ壊していくよりは断然早い。ブランシェさんや先生から説明を受けた生徒たちも壊してくれてるし、日が暮れる前には全ての呪印を壊し終えた。


「それにしても……一体誰がこんな事をしたんだ?こんな広範囲にテロリズムみたいなことをして」

「現場に残ってる魔力から追うと……恐らく“黄”の魔法使いでしょう」

「図書室も”黄”でしたよね。同一犯の可能性も……」


 先生たちが話しているのを盗み聞きする。たしかに、なんでこんな事をするんだろう。まじまじと呪印を見たのは今回が初めてだったけど、結構高度な術式の刻み方がされていた。やり手の魔法使いだろう。


「あっいたいた!ロイド!クラウド!」

 遠くから手を振りながら寄ってきたのはルルド達だった。カティアさんも控えめに手を振ってくれる。淡い金髪が夕日に照らされてきらきらと輝いていて綺麗だ。

「無事に呪印が壊せて良かったよ。一部パプニングもあったみたいだけど」

「魔道植物に襲われたんですよね?遠目でしたが、活躍を拝見しました。ご無事で何よりです」

「ヴィンセントくん、上手く、出来た、よ」

 魔道植物に襲われたこともわかっているらしい。クラウドとコタローくんは魔法についてを話し合っている。仲良しだなぁ。


「せっかくのお茶会だけど、色々あったし解散にしましょうか。また改めて年明け後にお茶会しましょう」

 パン、と手を叩いてソニアが言う。それには僕も賛成。皆賛成の様で来月の中旬にまたお茶会を開くことにした。


「ロイドくん、本当にすごかったです。一瞬で術式を刻むのもそうだし、そのあとの空間魔法も。私も少しは使えるんですが、広範囲には使えなくて」

「僕もまだ10mくらいしか使えないよ!カティアさんも空間魔法使えるんだね。僕は今日実践したばかりだから、年明けに時間があれば是非教えてほしいな」

「そんな……私で、良ければ」

 恥ずかしそうに俯く彼女はやはり綺麗で可愛らしかった。こんな可愛い子がもしかしたら僕を好きだなんて、と思い出して顔が熱くなる。

 すこし気まずくて無言の時間が過ぎるが、その空間も心地よかった。魔素の相性もいいんだろう。

 気が付けば女子寮の目の前で、名残惜しい気持ちになった。

「では、ロイドくん。また年明けに。楽しい来年になります様に」

「カティアさんも、楽しい来年になります様に」


 新年のお祈りをして別れる。男子寮へ向かう途中「で?付き合うの?」なんてルルドに茶化されたけど、そんなんじゃないってば!

 というか、もしかしなくとも帰り道に僕らと距離があったのは気を遣ってくれてたってことか!


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