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MonoQlog  作者: 紅サーカス
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11. トーイ・アウフラウト


 グラディアス先生から見学のお誘いを受けた翌日、教室で友人であるトーイの姿を探した。僕は毎朝植物園に行くルルドと同じ時間に起きてクラウドの自主練に付き合うから教室に入るのは遅い方だ。だけどトーイの方がもっと遅い。彼は夜型のようで寝坊しがちで遅刻ギリギリに教室に入ってくることがままある。今日も今日とて、授業開始のギリギリの時間に逆立った金髪を跳ねさせながら駆け込んできた。うっすらと汗ばんだ肌を制服で拭いながら僕の隣へ座る。


「おはようロイド」

「おはようトーイ、今日もギリギリだね」

「今日は朝の7時には起きたんだ。その後5回寝直したけど」

「トーイ・アウフラウト、授業を始めるから私語は慎みなさい。それと、5度寝は起きたことにはならんぞ」

「はーい」


 返事を返す彼はタイガーアイの様な瞳を細めて笑った。先生の言う通り、5度寝は起きてないと思う。彼は一人部屋の為、起こしてくれる相手がいない。寮が相部屋なのはこういう、寝坊防止も兼ねてるんだろうな。

 授業を受けながらトーイを見る。逆立った様な硬い髪質に耳に空いた大量のピアス。制服を着崩し独自に赤いスカーフを使ってアレンジしているのは彼はお洒落好きだからに他ならない。だが確かに、彼は不良に見える。

 彼とは入学してすぐに仲良くなったのだが、僕らが話していたところを見たルルドが僕を助けに来たことがある。その時はルルドとも出会ったばかりでお互いに性格を掴み切れていなかったから僕の優しそうな……悪くいえば弱そうな見た目からカツアゲされているとおもったらしい。ルルドは見た目も中身も一致しているから他の生物に勘違いさせる事は無い様だ。僕やトーイはそれが一致しないからちぐはぐになってしまう。


「そんなにオレを見てどうした?照れちゃうんだけど……あ、もしかして惚れちゃった?オレもロイド好きだから両想いだな」

「もとから好きだけど改めて不良に見えるなぁって見てたの。結婚式は緑の国がいいな。黄色の薔薇のアーチがある教会が良いね」

「オレのお洒落に世界が追いついてないだけさ。緑の国ならルルドくんにおススメ聞かないとな」


 軽口を叩きながら笑う。ルルドはこういう冗談は本気で受け取ってしまうし、クラウドとはそこまで仲良くない。コタローくんは言葉が不慣れだからこちらの言い回しを正しく聞き取れない気がするからできないだろう。冗談を言い合えるこの関係が心地良いし、纏う魔素の相性も良く、僕らは仲良くなったのだ。

 先生の解析術についての話をノートに書き記しながら分析図も作成する。解析術の先生は少しクセが強くて途中の説明を省いてしまいがちなので自分で噛み砕く必要がある。初歩から中級までの解析術を教わるのはとても楽しいから苦にはならないが。


 授業が終わって次の教室に移動する間に部活について聞く。


「古代術式解析部ってどんな部活?」

「グラディアス先生ついに誘った?あの人ロイドにゾッコンだからいつ誘うんだろうとおもってた。……そうだなぁ、愉快な仲間と古文書に書かれた内容を解析してもし手帳(レシピ)があればその魔法を展開してみる、って感じだなぁ」

「……手帳(レシピ)に“禁じられた魔法”がかかれてたら?」

「さすがに“禁じ手”はやらないよ!ロイドは辺境出身で常識に疎いから教えておくけど……“禁じ手”は展開したのが見つかったら捕まるんだ」


 非道的な魔法が多いから、と彼は話す。“禁じられた魔法”は亜族内では“禁じ手”と呼ばれる魔法で蘇生魔法や合成獣作成など命を弄ぶ……この世の理を侵しかねない魔法が主だそう。合成獣、と舌で転がす。二度会ったあの合成獣たちも禁じられた魔法だった。隠し通路の檻の部屋にも居た。誰かが好奇心か何かで禁じられた魔法に手を出したとしか考えられなかった。


「この学園内でも禁じられた魔法を使った生物がいても捕まるか……」

「いや?この学園内は捕まらないんじゃないかなぁ。学園(アラフェルシア)は唯一外の世界の常識を無視出来るから。まぁそんなことしたら退学&追放だからすぐ捕まるけど」

「常識を……無視?」

「そ、例えば……半分野郎がいても殺さないでいてやる、とかな」

「半分野郎?」


 トーイは含みを持たせた笑顔は返してくれたが、言葉は返してはくれなかった。その話は終わり、という風に彼は「そういえばロイド、マドンナと仲良いよね。紹介してくれない?」と話を切り替える。マドンナとは隣のクラスのソニアの事だ。


「ソニアのこと好きなの?」

「いや?マドンナのチームのケイトちゃん。あの子が好みでさ」

「ソニアみたいな美人を足がかりにしようとするなんて罰当たりだね」

「普通に仲良くはなりたいよ!ただまぁ……それを期にケイトちゃんとお近づきになれればなぁって下心はある」


 トーイ曰くケイトちゃんは緑の国の竜族らしく、淡いアールブロンドの大人しめの子だという。


「トーイは黄の竜じゃなかった?他国の竜とそういう関係になっても大丈夫なの?」

「ロイドは亜族関係本当に疎いなぁ……」


 亜族の結婚は他の血を混ぜることを極端に嫌う傾向がある。特に竜族はそれが強い。だが竜族同士なら特に気にしないらしい。多少家族間のいざこざはあるらしいけど許容範囲内。竜の王族は血を薄めるためにも、他国との繋がりのためにも、他の色の竜と政略結婚等をすることもあるようだ。


「同じ国同士でしか結婚しない、とかは……まぁ、白と黒の竜ぐらいだよ。あそこはプライドが誰よりも高いからね」

「そうなんだね」

「そ。だからもしオレがマドンナを好きになったら一大事。親にバレたら勘当されるしマドンナは殺される」

「え!?」


 竜族同士なら色が違っても問題はない。種族が一緒だから。でも、種族が違えば色が同じでも大問題になる。同じ亜族でも竜族とエルフ族の血を混ぜるのはご法度で、どちらもプライドが高いから種族戦争になりかねないとトーイは話した。


「ロイド読んでるの魔術書ばっかじゃん?今度図書室……あー今閉鎖してるんだったな。図書室がまた再開したら歴史書読んでみなよ。種族間の泥沼戦争録めっちゃあるから」

「たしかに歴史書とか読んだ事なかったかも……ありがとう。読んでみるよ」


 昨日の隠し通路内の合成獣騒ぎのせいで図書室は立ち入り禁止となった。あの隠し部屋や合成獣部屋は……蛇のような合成獣か暴れたせいでぐちゃぐちゃになってしまったようだった。内部を調べるためにもまた一週間ほど立ち入り禁止になるだろう。


「次の授業なんだっけ」

「魔法実技実習。チーム実習だよ」


 僕がクラウドの魔法を見ないといけない授業だ。多少は良くなって来たとはいえ、早く一人でこなせる様になってほしいものだ。来月には年末試験があるというのに。


「年末試験と云えば、トーイは試験内容とか知ってるの?そういう、先輩伝てで」

「もちろん。実技試験は模擬戦だったかな?チーム対抗か個人戦かは年によるみたいだけど」

「なるほど……」


 年末試験までにはクラウドの魔法を仕上げなければならないな、と気が遠くなった。でも彼、飲み込み早いし多少詰めても大丈夫だろう。


「例の問題児くん?」

「そ。僕とルルドは問題ないよ」

「ロイドとルルドくん、優秀だもんなぁ」


 ふふ、と笑う。そうだよ。僕優秀だもの。年末試験の話をしながら廊下を歩くとルルドに出会う。珍しく一人……いや、手にラッピングされたプレゼントがあることからまた呼び出しがあったに違いない。


「ルルドくんじゃぁん」

「え?あぁ、ロイドにトーイくん?相変わらず仲良いねぇ」


 呼び止めれば彼は目を細めて笑った。友達だからね、と言おうとして今朝のことを思い出す。果たして彼は本気にしてしまうのか、と。ちょっと冗談まじりに声を弾ませ、答える。


「そりゃあそうだよ。だって僕ら結婚するんだもん」

「緑の国でおススメの式場教えてくれない?」

「え、ええ!?」


 ノリの良いトーイが冗談を繋げると普段のルルドからは考えられない大きな声が出た。あの穏やかなルルドが大きな声を出すだなんて、そのことに驚く。


「いや……えっと…………黄の国では同性婚が認められているの?珍しいね…………」


 僕らの言葉に驚いた後、真面目に返すルルドの言葉を聞いて、僕らは顔を見合わせた後に同時に吹き出してしまった。びくり、と肩を震わせ驚くルルドに「ごめんごめん」と謝る。


「冗談だよ。確かに仲は良いけど恋愛感情とかそういうモノは一切無いよ」

「そうそう。よくあるじゃれ合いみたいなもんさ。結婚どころか付き合ってすらいない」

「驚いたよ。トーイくんはともかくロイドはそういう冗談は言いそうに無いから……」


 今まで言ったことも無かったしね……。はは、と笑うとトーイはマジで?と話しかけた。


「オレには良く言って来るけどなぁ」

「それくらい君には気を許してるんだねぇ」

「ルルドも同じくらい気を許してるよ」

「それは光栄だよ」


 からからと3人で笑い合う。ルルドの持つ綺麗にラッピングされた紙袋も彼が笑うと同時に揺れた。そういえば、トーイも亜族特有の綺麗な顔をしているが、ルルドやクラウドの様にプレゼントを貰っているのを見たことがない。同じ亜族のソニアも、たまに薔薇の花束を抱えていたりとプレゼントを受け取っているのに。いや、ソニアと会う頻度はそこまで高くないのに持っている率が高いのを見ると彼女は頻繁にうけとっているのかもしれないが。


「なんだいロイドくん。オレがモテないのは不思議だなって顔だな?」

「なぁにトーイくん。よくわかったね?以心伝心ってやつ?」

「本当に仲が良いね」


 でしょ。と二人、声を揃えて返事した。僕の疑問にトーイは「貰うけど断ってるだけ。竜族以外からは受け取らないスタンスなんだよ。同性は別だけど」と返事をくれた。なるほど、さっきの種族間のアレソレに関わるのだろう。今度詳しい本を読もうと改めて決意した。

 実技実習場に着くとクラウドは先に着いていたようで僕らに気付き、近寄って来た。


「クラウド、早かったね」

「お前らが遅いんだろ……、?」


 クラウドがトーイの方を見る。そういえば彼らは初対面だったか。と思い紹介しようと口を開く前にトーイが話し出した。


「はじめまして、オレはトーイ・アウフラウト」

「あ、あぁ、俺は……」

「あ、大丈夫。覚える気は無いからさ」


 ぴり、と空気が固まった。自己紹介を遮るなんて、と眉を潜める。「トーイ」咎めるように名前を呼べば彼はにこりと人当たりの良い笑みを浮かべた。


「じゃあロイド、ルルドくん、オレはもう行くね。また明日!」


 ひらひらと左手を振り、トーイは僕らと別れた。意図的にクラウドを無視したようだ。関わらないようにしている、そんな空気を感じた。クラウドは俯き、表情は見えない。


「悪かったね。彼、普段はすごくいい奴なんだけど」

「今の、竜族か?」


 代わりと言うように謝れば、質問が問いかけられる。クラウドの事だから文句が返ってくると思ったのに。「そうだよ。黄の竜」と答えれば「アウフラウト……アウフランダーか……」とブツブツと独り言を呟いている。

 そうこうしているうちにコタローくんも合流し、僕らは実技授業の為に練習場に入った。




 トーイの先ほどの言動は普段から考えられないほどのものだった。どうして、と思わずにはいられない。考え事をしながら模擬戦をしていると、死角となった右後ろから魔法が飛んでくる。ほぼ反射的に「《盾》」と魔法を展開して防ぐ。いけない。今は授業中で魔法の模擬戦だ。集中しないと。とは言っても気になるものは気になるもので、終始上の空でいた。ふと見学をしていたトーイと目があい、手をひらひらと振られる。僕もつられて片手を上げた。

「《黄魔法》《電気の剣》」

「《紫魔法》《霧》」

 遠距離戦では勝ち目がないと思ったのか、至近距離の武器を魔法で出す。紫のもやを拡散させて視力を奪う。彼はまだ魔素の扱いが上手くないから僕の場所を辿れないはずだ。そっとその場から移動して魔素を修復する。同時に反対方向に軽く集めた魔力を投げて魔素に乱れを作った。自分の魔力を察知されないように紫魔法で空間の隠蔽をして。

 相手が投げた魔力の方へ向かっていくのを魔素と魔力の感知をしながら静かな声で氷魔法を展開する。もちろん魔力の隠蔽は忘れない。

 パキパキと凍った草が相手の方へ向かい。手探りで相手の足を掴む。

 くん、と捕まえた感覚がしたので一気に畳み掛けて下半身を凍らせた。「ひっ!?やめろっ!」と悲鳴が上がったので《霧》を解除すれば思った通り、腰まで凍り漬けにされた相手が立っていた。

「ほぅ……優秀じゃないか」

「だけど考え事をしているのは減点だなぁ」

「逆に考え事をしているのにあれほど魔法を使いこなせるということだろう?」

「確かに」

 複数の先生が僕の魔法について話しているのを聞きながら僕の気を揉ませた当竜の元へ近付く。

「オレ、試験絶対ロイドと当たりたくない」

「それは光栄。はぁ、君のせいで全然試合に集中できなかったんだけど」

「集中してなかったのにあの実力なのか。末恐ろしいな」

「集中してたら君の挨拶に手を振り返す訳がないよ」

 なるほど確かに。からりと笑う彼に溜息がでる。彼の試合の番は僕よりも前だったから横に腰を下ろした。

「それで、クラウドのことなんであんな敵をつくるようなこと言ったの?」

 ああ見えて彼、人気が高いからファンクラブに刺されるよ。と冗談を交えて言えばトーイはうーん、と悩むように首を傾げた。僕に言いたくない事、言えない事をぼかしながらも説明しようとする時の癖だ。どうにもこうにも彼は正直なのだ。

 言えないならば「言えない」の一言でいいと言うのに、言えない情報をどうにか隠しながら伝えようとしてくれるのだ。そんな優しく正直な彼が好きなのに、さっきの彼はどうにも彼らしくない刺を含んでいた。

「……ロイドの家はどうかは知らないけど。例えばルルドくん。アルフォード伯爵家はクォッカツェ国では宰相の家なんだけど」

「ちょっとまって、伯爵家とは知ってたけどそんなに位が高かったの?しかもクォッカツェ?緑の国の代表名詞じゃないか」

 僕随分と彼に生意気をきいてしまった、と冷や汗が背中を伝う。青の国のアストリア、緑の国のクォッカツェ。数多ある大陸の中で最も大きく、栄え、豊かな国だ。その国の宰相。どうしよう、と洩らすと軽快に笑われた。

「どこの誰だろうな。世界最強の竜族捕まえて“この学園は生徒であれば皆対等なんでしょ?じゃあ僕と君も種族は違えど同じ道を志す仲間じゃないか”とかなんとか言ってひょいと種族の壁を土足でよじ登ったのは」

「……よくまぁそんな、入学式前後の話を覚えているね」

「あんなにインパクトのある告白初めてだったからな」

 肩を震わせ、彼は続ける。

「そんな種族差とか気にしないアンタが人族の決めた身分差に囚われるのはらしくないぜ」

「……色々あってね」

 色々、の部分に片眉を上げたトーイに、それで、と話を促せば聞くのを諦めたのか、また時期を見て聞こうと思ったのか、さっき続きを話す。

「ライルいるじゃん。オレのチームメイトの」

「ライル・ベルバートン?あの爽やかな青年か。そう云えば彼も緑の国出身だったよね」

「そ。で、ベルバートン侯爵家とアルフォード伯爵家の仲は超最悪なの。わかるだろ、見てれば」

「あぁ……なるほど、ルルドとベルバートンがぎこちない挨拶交わすのってそういうお家事情があるんだね」

 代々仲が悪いという両家。無理に仲良くしろというのは無茶がある。知らなかった僕は口に出しこそしなかったがもっと普通に接すればよいのにとあのぎこちなさを眺めていたのだ。口に出さなくて正解だった。

「んで、オレと……というか竜族と問題児くんの関係はそういう感じ。ちょっと……いや、大分違うけどだいたいそういう“仕方ない事”だと思ってよ。問題児くんと仲良くなんて万が一、億が一、なったとしたら縁切り覚悟。そんな訳でああいう自己紹介になったのさ」

「厄介だね」

 複雑だなぁと考えながら、二人を思い浮かべる。竜族にはそんな決まりとかもあるのか。と。

「あれ」

「どうした?」

 トーイは黄の国の竜だ。クラウドの出身国も、種族も知らないが、トーイ曰く他国の竜族事情というのはどんな国でも把握しあっていると云う。白や黒の国の竜であっても。トーイがこんな風に話すというなら、つまり。

「クラウドは竜、」


「ロイド」


 僕よりも大きく、硬く節張った手が僕の口を塞ぐ。余計な事を言わせないように。僕の言葉を遮るように。目の前で僕を見つめる親友の目は酷く真剣で、いつもの軽快な色は一切無い。

「その言葉は言っちゃダメだ。竜はアイツを認めない。その言葉をオレ以外の竜族が聞いたら、きっとロイドを排除しにかかる。だから、言わないでくれ」

 真剣な顔で言われて、それも僕を思っての言葉なら、頷くしかない。コクリ、と静かに頷けばトーイはほっとしたように息を吐いて手を離した。

「この話はこれで終わりだ。これ以上は無理。いくら親友たるロイドでもダメ」

「わかったよ。親友の忠告は受け取らなきゃね」

「お、次ルルドくんの番じゃないか!応援しようぜ!」

 友人でも悪友でもない関係。なるほど確かに、親友というのは僕らの関係にしっくりときた。

 それならばこれ以上聞いて親友を困らせるのも不味いだろうと、僕は話を合わせた。

「じゃあルルドに激励でも与えてこようかな」

「いってらっしゃい」

 軽く片手を上げトーイに別れを告げてルルドの元へ行く。近付く僕に気づいたのか、緊張に引きつった顔が和らいだ。

「ロイド。さっきの試合凄かったね!途中で手を振る余裕まであるなんて」

「……あー、まぁ、ね。次はルルドでしょ?頑張ってね。とはいってもルルドも優秀だからなんとかなりそう」

「買いかぶりすぎだって。でも頑張るよ!」

 ぐ、と両手を握り気合いを入れるルルドに頑張って、と再び挨拶をして、トーイの元へ戻る。少し話したお陰で緊張が解けたのか、彼の試合は調子良く実力を発揮できた様だ。

 良かった。とその様子を観察していると目があったので笑って手を振った。

 色々評価が終わったら彼もこちらに来るだろう。

「あ、まずいな」

 ぽつりとトーイが呟く。どうかしたのと彼を見れば、顎で大きく張り出された名前を示した。

「ルルドくんの後の試合。問題児くんじゃん?対戦相手、竜族なんだよね」

「まずいの?」

「非常に」

 はぁ〜仲裁面倒くさいなぁ。と大きな溜息を吐いた。そのまま愚痴を聞くとあの家に恨まれるのは嫌だとか流石に目の前で殺されるのは後味が悪すぎるとか。まって、殺す?

「クラウドと、えぇと、エンドール?さんの試合を仲裁するんじゃないの?」

「え?いや、エンドール家とクラウド家だけど。あれ、クラウドってアイツのこと認知してんのかな。してたら生きて無さそうだけど。えー、でも今まで生きてるんだから認知してるのかなぁ」

「クラウドが死んだって良いって言ってるの!?」

「まぁ仕方ないかなぁ、くらいには。なんで怒ってんの?」

 言葉が出なくてはくはくと唇を動かす。一体どういう立ち位置なんだ、クラウドは。

「クラウド、最近やっと魔法を覚えたばかりだから手加減無しで来られたらあっという間に戦闘不能だよ。手加減して欲しいとかは……教師からも説明されるはず」

 確かあの名前の子は魔法実技の上位者だ。魔法の扱いが上手いから拙いクラウドと当てたのだと思う。

「教師は種族のいざこざには介入しないからなぁ。いや、流石に止めるかもな」

 なんで、と声を洩らした。でも、と彼は続ける。


「ロイドの頼みなら“ちゃんと”仲裁するよ。あー、でもバレたら針の筵か」

「……なんでそうなるのか良くわかってないんだけど、何が不味いのか説明してもらっていい?」

「アイツの中に“竜”の魔力があるのがまずい」

 そんなにまずいのか。僕には全く見当もつかない何か(・・)をクラウドが背負っているのはわかった。


そうこうしているうちにルルドの番が終わり、試合の土壌ににクラウドとエンドールさんが登った。


「ま、みててご覧よ。なんでまずい(・・・)のかすぐわかるからさ」

そう言われて僕は試合に目を向けた。




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