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MonoQlog  作者: 紅サーカス
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1. 魔法が何かを理解してよね


 この世界に生きる全ての生物が、大小問わずの魔力を秘めている。ほぼ全ての生物が“魔法”を使えるのだ。しかし、例外というものもあるもので。極少数は魔法が使えない“魔力無”もいる。魔力無は総人口の1割にも満たないほど少ないというのだ。


「君たちはこれから芽を出す、優秀な魔法使いになるだろう。よく励むように!しかし、くれぐれも危ないことはしない!」とは、学園長の言葉だ。


 学園都市アラフェルシアは生き物によって造られた創造都市だ。難しい試験をパスした、ある一定以上の魔力を内外問わずに持つ魔法使いを育成するための学園。青の国の隣にあるこの人工島は中央に学園を置き、東西南北囲むように都市ができている。

 その学園の一角、学園の一年生は魔法の授業をしていた。


 至る所できゅるきゅると魔素の集まる音が聞こえる。自分の近くにも“青”の魔素が集まっているのを確認した。心を落ち着かせて唇に言葉を載せる。

 魔法を展開させるために自分の中の扉を開くイメージで。はたまた、魔式図を読み解く気持ちで。


「《青魔法》」


 自分の周りで“青”の魔法が展開されていくのを肌で感じられた。次にイメージを明確にして、起こしたい事象をはっきりとさせる。イメージを掴んだら専用の魔法語と共に自分の魔力と魔素を繋げるだけ。これが術式になるから。


「《盾》」


 魔力を解放させれば周辺の魔素と混ざり合い、結合して薄い膜を張る。薄く見える青みがかった半透明の魔法の盾は多少の攻撃では壊れない。なんと云ったって防御に適した“青”の魔法だから。

 少し触れてみると魔法の盾は嫌がるようにパキパキと音を鳴らした。生きてるみたいだなぁ、といつも思うのだ。

 うまく展開出来た魔法を解くと、拍手と共に先生の賛辞が聞こえる。


「流石だね!ロイドくん!」


 ロイド、自分の名前が呼ばれたことにより振り返る。ロイド・D(ドライ)・アーチャー。自分の名前だ。


「グラディアス先生」

「一年生……いやもしかしたら二年生でも君に敵うほどの魔法使いはいないかも」


お茶目にウィンクを飛ばすグラディアス先生はこの魔法実技学の担当教諭だ。ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら近付くこの先生が、どうしても苦手だった。

「それだけ使いこなせるなら、チームメイトのクラウドくんにも教えてあげて欲しいな」

 大嫌いなチームメイトに「指導してあげてね?」と事あるごとに頼んでくるから。


 先生が手のひらで示した先には、魔法をうまく展開出来ない銀髪の少年がいる。

 ヴィンセント・クラウド……美少女と見間違う程の美少年。入学式早々に事件を起こすほど…いや、あれは事故なのかもしれない。巻き込まれた身からすればどちらも迷惑なことこの上ないが。

 彼は自分の魔力を扱いきれず、魔法を暴走させるか不発で終わらせるかの二択しかない問題児。素行は至って普通。若くは優等。教養学習も魔法生物学も魔法史もあらゆる講義学は優秀なのに魔法実技が恐ろしく出来ない学生だ。


ーーそして僕のチームメイト。


 一年次は協調性を育てるため、魔法の暴走など何かあった時にすぐに誰かが教師を呼びに行けるように、等さまざまな理由から3人1組のチームを組むようにされている。チームは魔法石によって組み分けされる。入学式に配られた無色透明の魔法石に自分の魔力を注ぐと自分と相性のいいだろうと予測される生徒とを繋げてくれる優れものだ。

 そうやって組み分けされたチームメイトの一人が、さっきの問題児ヴィンセント・クラウド。

 もう一人がクラウドの隣で怯えながらも魔法の指導をしているルルド・アルファード。金髪の美少年。僕の同室者であり、チームメイト。


 学園都市は部外者は立ち入り禁止の都市だから生徒は自ずと全員寮に入ることになる。一人一部屋なんて贅沢は余程の金持ちか貴族じゃないと出来ないから大抵の生徒は相室になる。ルルドは同室者で入学式までにある程度仲良くなれてたから、同じチームだってわかった時にはすごく安心したんだ。


 ずっと彼ばかりにお守りをさせるのは申し訳ないから交代しようと近付くけど、クラウドと僕の相性は最悪。性格も合わないけど多分魔力的にも合わないんだと思う。彼に近付くと僕の纏う魔素も彼の纏う魔素も酷くざわつくから。


「……笑いに来たのかよ常識無し」


睨み付けるようにして侮辱的な言葉を吐くクラウド。間髪入れずに

「どっかの誰かさんが自分の魔力もコントロールできないから優秀な僕が頼まれたんだよ」

と返す。売り言葉に買い言葉。睨み合いに焦るのは板挟みになってしまったルルド。


「まぁまぁ二人とも!そんな険悪にならないでよ〜!それにロイドなら俺よりも上手く教えられるはずだから、ね?」

「……」


 渋面を浮かべるクラウドの近くにある石に座りながらおそらく彼のものであろう教科書を開く。


 彼が努力をしているのは知っている。この書き込みがひどい教科書もその努力の一部なのだから。でもいくら努力したって身を結ばなければ意味がない。


「魔力色はわかるよね?」

「馬鹿にしてんのか」


ふん、と鼻で笑って何も言わずに言葉をうながす。


「……魔法使いは己の司る色を扱う。色は赤、橙、黄、緑、青、紫、そして白と黒の8色。」

「君の“色”は?」

「黄色、と緑……と……」

「ふぅん」


僕は青と紫。ルルドは緑。問題のクラウドと僕の色は被りもしてない。


「魔法展開は出来るんだよね?」

「……」


 苦虫を噛み潰したような顔。「まさか、君や僕の周辺を漂ってる魔素も感じ取れない、なんてことないよね?」と問い掛ければだんまりの後、静かに頷かれた。

 信じられない、と言わんばかりに目を見開くルルドと、深くため息を吐く僕。君のその大量の魔力は一体なんのためにあるんだ?


「魔素って何かわかる?」

「……“普遍的にある、空気中に漂う細かな粒子。無機物、自然物、あらゆる存在から常に生まれて消えていく生命の源”」


 やはり馬鹿にしてるのか、と睨まれ渋い声で説明されたのは教科書の一文。


「そんな教科書の暗記した一文が聞きたいんじゃあない」


 パタンと教科書を閉じて彼を見れば驚いたように目を瞬かせていた。「君が、周りの魔素を、どんな風に思ってるかが聞きたいの。」言葉に刺を含ませて伝えれば、あ、とかう、という行き詰まった言葉が帰ってくる。ルルドに目線で促せば、彼は肩を竦めて話し出す。


「俺の近くにいる魔素はまぁ、緑の雰囲気を纏ってるよ。魔素は目に見えないから感覚で掴むしかない……かなぁ」


 そのあと、少し悩んで「高密集した魔素は肌がピリピリするし感じ取りやすいんじゃないか?」とアドバイスをくれる。なるほど、その手があったか。

 直ぐに周りの魔素を集め始めて、拳代サイズの魔素の集合体を作る。「よくそんな芸当しようとしたねぇ」とルルドの感心したような声が聞こえる。

 うっわ手がヒリヒリする!思わず顔をしかめるとルルドがその魔素の塊を僕の手から奪う。涼しい顔で魔素の塊を持つ彼は回復特化の“緑”の使い手。あの魔素の塊も僕よりはダメージを受けづらいんだろう。


「ほら、触ってごらん」とルルドがクラウドに魔素の塊を差し出す。恐る恐る、クラウドが魔素の塊を指で突くて眩いばかりに魔素が輝き、弾けて散っていった。


「今のが、魔素……?」

「普通はこんな反応はしないだろうけどね」


 パンパン、と掌の魔素の残りを払いながらルルドが捕捉する。


「今ならさっきより魔素を感じ取れるんじゃない?」


 見た感じ……というかなんと表現をすれば良いかはわからないが、クラウドの周りの魔素は今活性化しているのがわかる。

 む、と体に力を入れてる様子だったから思わず教科書で肩を叩く。「力を抜きなよ。そんな力込めてやるもんじゃない」不満そうにこちらを見るクラウド。なんだよ。僕が態々見てやってんのに。睨み合う僕らの間に入ってルルドが言う。


「深呼吸してみたら?ちょっと力抜けるかもよ?」


 それもそうか、と彼は数回深呼吸して目を閉じると、「あ!」と声を上げた。


「やっと感じ取れた?」

「お前は一言余計なんだよ。……これが……魔素?キラキラしてる……」


ふぅん、クラウドから見た魔素はキラキラしてるんだ。一人一人、感じ取れる魔素の感覚は違うから他人の評価は面白い。


「魔素を感じ取れたならもうすぐじゃないか!あとはさっき言ったように、魔素を頭の中に浮かべた魔式図に組み込んで出力回路を作れば魔法を使えるよ!」

「え、あ、あぁ……?」


あ、わかってない顔だな。




 魔法は感覚で掴むのも手だが、きちんとした術式でも覚える必要がある。フローチャートを頭の中にしっかりと浮かべてやらないと暴走に繋がる。

 例えば氷魔法を使う場合、『青の魔素が近くにある→YES→自分の魔力が青の魔力である→YES→魔法を発動させるにあたって魔力は足りているか→YES→近くに水はあるか→YES→周りの魔素を自分の魔力を使って水周辺の空気を0度以下まで下げれるか→YES→氷魔法の発動』というように。

 いくつものYES/NOが一部例外を除いて全てがYESだった場合のみに魔法は発動する。ルルドがうまく噛み砕いて説明をしているがわかってない顔をしている。


「感覚でやってみたらぁ?今やっと魔素が何かをわかったようなお子ちゃまには魔式図よりイメージの方がやりやすいでしょ」

「っお前……!」

「はいはいストップストップ!ロイドもそんな煽るような言い方しないの!」


 ふっ、と鼻で笑うとギリギリと歯軋りが聞こえそうなほどに睨み付けられる。こっちは付き合ってやってんだから生意気な態度は取らなきゃ良いのに。

 それでも食ってかかってこないとこを見ると魔法は使えるようになりたい様だ。


「君の手の中には鍵があります」

「は?」


 僕が子供に話すように優しく言うと不機嫌そうな声が返ってくる。


「いいから想像しなよ。その手の中には鍵があります。……あぁ、クラウド、君の得意な色はどっち?」


 二色持ち……複数の色の魔力を持つ魔法使いにも得意や良し悪しがある。僕の場合、青より紫の方が極差で扱いやすい。ただ紫ってあんまり活躍の場が無いから青ばっかり使ってしまう。“紫”は薬に特化してるから医療現場以外ではなかなか活躍しづらいのだ。

 つまり、クラウドも黄か緑か、どっちかの方が使いやすいとかがあるはずなのだ。


「得意……?」

「言い方変えようか?入学式の日に暴走させて僕を巻き込んだ魔力はどっちの色してた?」

「また煽るような言い方して!」

「事実でしょ。で、どっちなの」


 苦虫を噛み潰したような顔をしたクラウドが小さく「たぶん、黄色……」と呟いた。「そ」軽く相槌を打って続ける。


「君の手の中には黄色の鍵があります」

「黄色の、鍵」

「形は……そうだなぁ……丸いつまみのついた鍵です」


 じっと何も無い掌を見ているクラウド。


「ただ見てるんじゃない。魔素をそこに集めなよ。今なんの時間だと思ってるの?それともさっきまでやってた魔素の感じ方も忘れちゃった?」

「一言どころか三言ぐらい多いんだよお前はッ!」

「なぁに?僕はやめても良いんだよ?だって困るのは君だし。来年また一年生でもする?」

「ぐ……つ、づけてくれ」


 あーきもちいい!ムカつくやつを言い負かせるのがこんなにもきもちいいなんて!!ふふっと楽しくなってきて笑うと、ルルドが「程々にしなよ……?」と忠告してくれる。わかってるよ。


「君の手の中に黄色の鍵があります」

「鍵…」


 今度はちゃんと魔素を集めてるのがわかった。素直にやれば良いのに。口答えなんかするから長引くんだよ。


「君のすぐ目の前に扉があります」

「と、扉?」

「扉。君の魔力が入ってる部屋の、扉」


 ぱちり、虚空を見つめて瞬きをするクラウド。その見た目が美少女のようであるから随分と絵になる。


「君のその部屋の扉を開ける鍵が、その鍵です」


 恐る恐る、何かを摘んで、差し込む動きをする。ちょっと、僕まだそこまで指示出してないんだけど。まぁいいか。


「復唱して。《黄魔法、展開》」

「き、《黄魔法…展開》」


 ぶわり、と空気が変わったのが分かった。魔力放出がでかいな!?


「《青魔法》《盾》!」

「《緑魔法》!《蔦の壁》!」


咄嗟にルルドと魔法を展開させて防御壁を作る。すぐにクラウドの手を掴んで叫ぶ。


「開けすぎだよ馬鹿!!閉めろ!!」


ハッとしたように閉める動作をすると周りに飛び散っていた魔素や魔力が落ち着く。限度ってのを知らないのか!?ふぅ、とため息を吐きながら魔法の解除をする。ルルドは警戒してるのか展開を解かなかった。


「魔力回路を開きすぎた事を除けば、まぁ……魔法展開は出来たんじゃない?」

「魔力回路……?」

「さっきロイドがイメージを持たせた扉のこと。体の中の魔力を外に繋げるための通路、かな」

「今のが……魔法展開…………」


 ここまできてやっと魔法展開を覚えたのか。さっきまで座って楽してたとは思えないほど、どっと疲れが押し寄せた。この後魔法の出力とかも教えなきゃいけないのか……

 出力、と考えて首を傾げた。入学式の事件、クラウドは魔法を使ったはずだ。つまり、魔法展開も出力もしたはずなのだ。


「ねぇ、入学式の事件って君どうやって魔法を使ったのさ」

「入学式……は……勝手に……いや、ムカつくことがあって……」

「あぁ……感情が昂ぶると魔力が暴走する事があるって聞いたことあるなぁ」


ルルドの捕捉で合点が言った。「魔力の抑え方も知らないのに暴発させるなんて、君いくつなのさ」思わず呟けば「うるせぇ14だ」と帰ってくる。同い年とは到底思えなかった。

 魔法展開を教えたところで授業終了の合図がなる。全く本当に……困ったのとチームメイトになってしまったものだ。


「あぁ、クラウド。君はしばらく魔法展開禁止ね」

「はぁ!?なんでお前に指図受けなきゃいけねぇんだよ!」

「君、自分がさっきみたいに魔力暴走起こすとか考えないの?これだから身の程知らずは!いいから次の魔法実技授業で出力の練習ができるまで禁止!わかったね?」

「俺もロイドに賛成かな……魔法実技はロイドの右に出る生徒はいないし、何かあったらロイドが防御魔法を貼ってくれる。俺は治癒魔法が使えるから多少の怪我は目を瞑れるし……」


 防御特化の“青”の僕と治癒特化の“緑”のルルドがいれば多少の暴走は食い止められる。ルルドからも釘を刺されて、やっとクラウドはうなづいた。


「僕の言うことは聞けなくてもルルドの言うことは聞けるんだ。へぇ。言っておくけど、僕は事実しか言ってないから」

「お前が俺に対する態度を改めるなら考えてやってもいい」

「身の程知らずの癖に生意気言うつもり?自分の感情も魔力も操れない癖に」

「魔法界の一般常識も知らない常識知らずがよく言うよ!お前の無知さでよく今まで生きてこれたな?」

「ストップストップ!二人ともストップ!」


睨み合っているとルルドが間にはいって止めてくれる。


「これから一年間、色んな課題をこなしていくチームなんだよ?もっと仲良くしようよ……」

「嫌だ」

「嫌」


間髪入れずに否定した言葉はクラウドと揃っていて、お互いに不愉快そうに眉を潜めた。


「そういうとこは仲がいいんだから……交流を深めるために……なにか…………あ!」

よろしくお願いします

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