私は執事です。
バトラーの前に立ち塞がる黒龍王。
果たしてバトラーの真意はっ!?
シミ一つない執事服を整え、バトラーは微笑む。
「お嬢様、無事で良かった」
「バトラぁ・・・」
エリカの顔は土埃と血で汚れ、さらには龍に捕まっているがバトラーはそれを無事と言う。
バトラーはユウが落とした剣を拾う。
何気なくたたずむバトラーに戸惑いながらも、ユウは動けない身体でもがいた。
「逃げろ、バトラー・・・アレはバケモノだっ」
だがバトラーはユウに見向きもしない。
逃げて、助けを呼んで来てくれ・・・。
思考すら鈍って来た。
「いいえ、私は執事だ。お嬢様の危機を前に、背を向ける事は許されない」
「だがっ、勇者の俺でさえ奴には勝てないんだぞっ!」
バトラーは一向に引かない、いや、さらに進んで行く。
な、なんで・・・。
アレは人が敵う相手じゃないのに。
「フッ、勇者様、いえユウ様、慢心は身を滅ぼしますよ」
彼は笑う。
優しく、少し悲しそうに。
「行ってはダメだ!」
俺の声は彼には届かない。
バトラーの前には黒龍王が立ち塞がる。
「グハハハハッ!儂に立ち向かうか、良いぞ。
無知なる貴様にも、この黒龍王が平等なる死を与えてやろうっ!
『平等なる死』」
今までとは比べ物にならない程の黒い霧、いや暗黒の炎がバトラーを包んだ。
「いやあぁぁぁあっ!!」
彼女の悲鳴が聞こえる。
その声に応えるように、炎の中から静かな声が聞こえた。
「剣聖の型・・・」
黒龍王が目を見開き、バトラーは剣を片手に深く沈みこむ。
それは泉に映る月のように静かで、美しかった。
「山飛弧、もとい山飛翔弧月一線の太刀」
その場だけ時が止まっているかのように思えたその構えから放たれた斬撃は、もはやただ斬撃とは呼べず。
その剣が振り抜かれたのが見えた時には、空間を断然する斬撃の壁が姿を現し、エリカを掴んでいた黒龍王腕と、背後の山を飛ばした。
「グッ、があああぁぁあっ!?」
黒龍王の絶叫がこだまする。
「い、今の技は!」
間違いなく剣聖の型『山飛弧』だった。
全てを腐敗させる黒炎を全身に浴び、骨も残さず消えるはずだった彼から放たれた技。
まるで違う威力、速さに目を奪われたが、俺にはわかった。
・・・剣聖の技を使えて、さらに俺より強いってことは。
バトラーは黒龍王の腕を斬りとばすと瞬時に飛び上がり、エリカを抱きかかえる。
それはまるでヒロインを救うヒーローのようで、少し焼けた。
だが主人を救ったというのにその表情は険しい。
「お嬢様、私は貴女に行ってはいけません注意した筈ですが、長い冒険者生活の中でお忘れになられましたか」
「グスッ、ごめん"なざいぃ」
安心したのか、明らかに怒っているバトラーに怯えているのか、泣き出すエリカ。
その姿に一変してバトラーは優しく静かに降ろす。
「お説教は後です、今はアレを片付けて来ます」
エリカに微笑み、そう言って剣を地面に突き刺す。
「お、おいっ、なにしてんだよ」
バトラーは剣から手を離した。
「私は執事です、殺し屋では無い。そして、殺しを愉しむ気概も無い。
私が使うのはこれです」
そう言ってバトラーはなにも持たず、脚を開いて握り込んだだけの拳を脇腹に添えるように引く。
・・・まさかっ!
「執事式拳武、基本の一『突拳』!」
そう言ったとたんバトラーの姿は消え、代わりに腕を失い未だ悶えている黒龍王の腹が円状に陥没し、吹っ飛んだ。
目の前にはバトラーがいた。
「があああぁぁあぁぁぁぁあぁぁあっ!?!?」
山を削り大地を削り、意識を失い白目になりながらもなおも進んで行くその姿。
それはもう、漆黒の流星とも言うべき光景であった。
突如、グニャリと視界が歪む。
どうやら限界が来たらしい。
魔王を倒すどころか聖剣を持つ事も出来ず終わるなんて、なんとも不甲斐ない限りだが、彼女が生き残るならそれで良いのかもしれない。
そうしてユウの意識は途切れた。
おやすみ、勇者。