真打登場
龍を倒す為の足掛かりを見つけたユウ。
だが龍も、このままでは終わらない。
光さえその身を引いてしまうほどの暗雲立ち込める暗がり。
右腕に決して小さくない傷を残しながらも、黒龍は不動を崩してはいなかった。
「・・・山・・・飛弧っ!」
そこへ弧を描いた斬撃が飛ぶ。
鋼鉄程の強度と硬度を持ちながら、ムチのようにしなる尾でそれを防ぐ。
だがそこへすかさず現れた女の剣技が傷をえぐる。
流石に今のは龍も堪えたようだ。
「グゥル・・・、小僧の技を避けようと小娘の剣が儂に向かうか、厄介なことじゃ。・・・じゃがそれももう終いのようじゃの」
ポタリと、ユウの足元がまた一つ紅く染まる。
黒龍以上に、ユウの身体は限界を感じていた。
「ま、だだ・・・俺はまだ、やれるっ・・・」
奴はまだ右腕が使えなくなっただけで動けなくなったわけじゃない、今逃げても飛行能力のある奴の方が断然有利だ。
それにこんな奴を野放しにしていたらこの国は・・・。
さまざまな感情がユウの中で渦巻く。
「俺はっ、勇・・・者、なんだ、だから・・・ここで負ける訳、には、いかないっ、山飛翔!」
「いいや、終いじゃ」
渾身の、まさしく最後の一撃を込めた一撃のはずだった。
それは光を吸い込むように輝く奴の鱗を削り、肉を引き裂き、その首を胴体から切り離すはずだった。
だが、斬撃が奴を襲うことはなかった。
カランッと金属が落ちる音が響く。
龍がニヤリと笑う。
ユウの手は、もうなにも握ってはいなかった。
「な、なんで・・・」
手が震え、感覚が無くなって行く。
これは、毒?
「キャアアアアッ!!」
「やっと効いたかの」
意識した途端急速に広がる震えのなか、俺の言うことを聴かず崩れ落ちて行く身体を必死に動かして見たその先には、奴に捕まったエリカの姿があった。
「があああっ!エリカを離せぇっ!」
いくら叫ぼうとこの身体は自身の血の中で身をよじる事しか出来ない。
まるでそうなることが最初からわかっていたかのように龍は高らかに笑う。
「結構な時間を要したゆえ、儂も心配しておったのだがついに届いたかっ、儂の呪いが!」
「呪い・・・」
もはや意識さえ朦朧としてきたが、未だ龍の手の中で奴を睨みつけている彼女の前で、気を失う事は許されない。
龍はその黒々とした霧のようなものを吐き出しながらこちらを見ている。
「そう、呪いよ。この五龍王が一柱、腐敗の黒龍王が吐き出す不浄の呪い『平等なる死』は、生ある者全てが持つ肉体という概念を蝕み、急速に腐敗へと歩みを進める最強の呪いだ。何故か貴様らには掛かるのが遅かったようだかこうなって仕舞えば問題ない。
あの女魔法師も、とっくの昔に呪いに犯されているしの」
そんなチートみたいな技持ってる奴がいるなんて聞いてねぇぞ。
いくらやってもユウには睨みつけることしか出来ない。
そんなユウへ黒龍王はニヤリとした気味の悪い笑みを浮かべた。
今までその場から一歩も動かなかった龍が、初めてその場を離れ、こちらに近づいて来る。
そしてユウに問いかけた。
「なぁ、小僧。この世で一番美味いモノが何か分かるか?」
ピクリとユウの身体が痙攣する。
まさか、まさかまさかまさかまさかっ!
ユウはその笑みの意味を悟り、愕然とする。
「絶望だよ」
龍のその大きな口が大きく開かれ、刃のような牙がキラリと光る。
「やめろオオォォォォォォォォっ!?!?」
だが龍は止まらない。
ただ、その狂気に満ちた顔で、何も出来ないユウに語りかける。
「お前の努力は無駄である、お前の勇気は無駄である、貴様は無力で、無力が故に何も為さず、誰も救えぬ。
その不運にも呪いへの抵抗が強い動かぬ身体で自身の愚かさを噛み締めながら、ゆっくりと朽ち果てるがよい。
小僧、貴様は無駄だった」
その光景の一つ一つが、何故かひどくゆっくりに感じる。
彼女が迎える結末が見えているせいだろか。
「ああぁぁぁあ"ぁああ"あっ!?!?」
たからこそ、祈らずにはいられなかった、頼らずにはいられなかった。
この願いがかなうなら、俺はこのまま死んでも良い。
この身が朽ち果てても焼き切れても溶解しようとも、俺は構わない、だからっ。
・・・誰か、彼女を、助けてください・・・。
「無駄ではありませんよ」
そこへ現れたのは、一人の執事。
肉体という概念を呪いその身を破滅へと導く『平等なる死』。
バトラーはこれをどう攻略するのかっ!