冒険勇者
今日最高に良い夢を観ました。
気分最悪である。
「ハアアアアッ!」
オークの身体に斜めの線が走り、ゆっくりと崩れ落ちる。
この剣もかなりの業物らしいけど、やっぱりなんか違和感があるんだよなぁ。
早く聖剣を手に入れないと。
異世界から召喚された『勇者』こと、ユウ・チョクシガハラ。
彼は今、二人の仲間と害獣退治に来ていた。
「さっすがユウ!いつもながら凄い剣技ねっ」
己の背丈ほどもある杖を振り回しこちらへ駆け寄ってくる赤髪の美少女リーナに笑顔を返す。
この程度の相手だったら、欠伸をしても倒せてしまう。
なんの気なく、剣を何も無い方向で無造作に振ってみる。
ブウンッ!!
数メートル離れた木に切れ込みが入った。
生まれてこのかた箒か傘ぐらいしか振った事の無かった俺が、この世界に来てからはバトルモノのアニメや漫画のように斬撃を飛ばせるようにまでなってしまった。
これが『勇者の加護』と呼ばれるものらしい。
召喚時に神っぽい奴から授けられたそれは、なんでも最強の剣聖と謳われた男の力から生み出されたモノで、たとえ剣の才能がない奴でも一流を超える剣士になれるとかなんとか。
とりあえずまぁ、剣聖すげぇ。
不恰好な棍棒を担いだオークがまた一匹、よたよたとこっちに走ってきては俺に一刀両断される。
何かを意識するまでも無くやろうと思っただけで勝手に実行されるその剣術は、さしずめ格ゲーのコマンドを打っているような気分で、俺になんとも言えない万能感が広がる。
そんな俺に向けられる視線がもう一つ。
「・・・やっぱり凄いのね、勇者って」
俺が倒した倍以上の数をこなしながらも彼女、エリカの表情は暗い。
やはり小さい頃から一緒にいたというあの執事に怒鳴られたことを引きずっているのだろう。
憂う彼女の頭をそっと撫でながら、ユウは呟く。
「そんな事ないよ、俺にとってはどんな事も自分の力で乗り越えて今ここに立っている君の方が凄い」
「・・・」
この力は絶大だ。
その気になれば鉄だって切れるし、王国近衛騎士の団長にだって簡単に勝ててしまう。
たが彼女だけは違った、いくつもの剣撃を放とうと、音を切り裂く一撃をぶつけようとそれに耐えてみせた。
まるで花畑の中で踊る薔薇の精のように、宙を舞う天使の羽根のように、俺の剣は避けられ、外され、いなされた。
あの時最終的には俺が勝ったが、それは俺が使い慣れていて彼女が慣れていない練習用の木剣で戦っていたからだ。
もし今彼女が持つあの長剣で戦ったら、勝敗は分からない。
そういえばあの時からだったかもしれない、彼女が気になりだしてよく見るようになったのは。
あの時の彼女は
「はーいっ!先に進むわよ!」
ユウとエリカミーナの間をわざと抜けるようにズカズカと進んで行くエミリーナ。
ユウの手がエミリーナの頭から離れる。
何を怒っているんだろうか?
機嫌が悪い事は分かったが、何が原因なのかは分からないユウだった。
あれからさらに森の奥へ進み、偶然にも大きな洞窟を見つけた三人。
「むー、暗くてあまり中の様子は見えないわね」
10メートル程の高さのそれには最近何かが踏み入れたような形跡は無く、ひたすらに長く、暗い。
ユウはこっそりとガッツポーズをする。
これは冒険の予感!
中に入ったら偶然にも封印されていた魔剣か何かが手に入って闇の力を手に入れちゃうやつだ。
早速中に入ろうとしたユウにエリカミーナから待ったが掛かる。
「待ってユウ。こんな分かりやすい洞窟に、なんの形跡も無いなんて逆におかしいよ、普通ならゴブリンとかさっきのオークが真っ先に根城にしそうなのに。
この洞窟、なにかあるよ」
ユウは腕を組んで唸る。
確かにそれはそれで怪しいし、S級冒険者の彼女が言う事なので信憑性もある。
だが勇者ポジの俺から言わせてもらえれば、それはもう気にしたら負けと言うやつなのではないかな。
そんななか、彼女が動き出す。
「あーもう!分かったわよ、要は中に入らずに倒せばいいんでしょ」
日本どころか地球ではあり得ない握り拳程の真紅のルビーがついた杖を洞窟の前で突き出すと、呼吸を整えて呟く。
「地獄の深淵より生まれし災禍の炎よ、その姿を今ここに顕現せよ『インフェルノ』!!!
そしてもうひとつ、
大地よ、我が前に立ち上がり、揺るがぬ盾と成れ『アースウォール』」
眩い光と圧倒的な熱量を轟かせる小型の太陽のようなそれは恐ろしい速さで洞窟の闇に飲まれ、せり上がった土壁は隙間無く入口を塞ぐ。
そうして満足そうにリーナな笑った。
「これで洞窟に入らずに蹴散らせるでしょ。『インフェルノ』は火属性最上級広範囲殲滅型魔法、少しでも触れればそこを中心に縦横無尽に広がって辺りを火の海、いえ火炎地獄にするわ」
いや何かを期待するように頭を突き出してくるけど、さすがにこれはエグい。
数秒後、小さく地響きが起こる。
どうやらインフェルノが爆発したようだ。
「どうせ小物しかいないでしょうけど、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのよ!」
胸を張って頭をこちらへ向けるリーナ。
・・・カッコよく言ってもダメだぞ。
揺れはまだ続く。
それにしても、爆発による地震にしては少し長いような。
「逃げてっ!!」
唯一気を抜いて無かった彼女の叫びに咄嗟に反応して後ろへ飛び上がる。
その瞬間、土壁を突き破り黒い何かが辺りを包み込んだ。
「グロアァァァァァァァァアア!!!」
少しでも面白いと感じられたらうれしいな。
・・・さて、そろそろバトラーの能力でも考えゲフンゲフン。