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買い物

買い物兼頭を冷やしに屋敷を出たバトラー。

お嬢様の健康の為、野菜を買ってこなければ。

バトラーが出て行き、呆然とする四人。


「なっ、なんなのよあの執事は!?」


そんな中いち早く言葉を発したのはエミリーナだった。

どうやらバトラーの行動に怒りがこみ上げて来たらしい。


「なにが世界如きよっ!なにが認められないよっ!執事如きになんの決定権があるって言うのよ」

「まっ、まぁまぁ。リーナ落ち着いてくれ」


地団駄を踏むエミリーナを抑えながら、ユウは呆然と扉を見つめているエリカミーナに笑いかける。


「確かに変わった人だったけど、僕にはエリカの事をとても大切に想ってるように見えたよ」

「でも、すっごく怒ってた・・・」


まだ出会って日が浅いが、ユウにとってこんなエリカミーナを見るのは初めてだった。


あのドラゴンにも怯まない彼女がこんなに落ち込むなんて。

勇者だからって、うかうかしてられないな。


「怒っているからって世界を見捨てても良い理由にはならならわよ!それになんなのあの子供を見るような態度、黒髪黒目に黒の執事服なんて陰気くさいし見た目してるし。私は賢者なのよ、敬いなさいよっ」

「いやいやそれだと執事服以外は俺も当てはまるし、こんな辺境じゃあ賢者がどれだけ凄いのかも分からないんじゃないか?」


シンシャは一人冷める前に紅茶をすする。

すると口の中で広大な茶葉の草原を舞う春風のような味わい深い感覚が広がる。

それはシンシャが今まで飲んできた紅茶の中でも圧倒的な美味しさを誇っていた。


思わず思考が紅茶に埋め尽くされ、言葉が出なくなる。


「ひとまず彼を納得させないと、このまま旅に出ても彼女の心残りになってしまう」

「ならあの執事をボコボコにしちゃいましょうよ、私がどんなに強いのかあの根暗に教え込んでやるわ」

「一般人に剣を向けるなんて出来る訳ないだろ、それにそれは納得じゃなくて脅迫だ」

「あの、バトラーは」「ならここいらのモンスターで山でも作る?魔大陸に近いここなら、そこそこのモンスターがわんさかいるわよ」


言葉を遮られあわあわと慌てるエリカミーナだが、ユウとエミリーナはどんどん先へ話を進めて行く。


二人に話すのは諦めてシンシャの方へ振り向くが、シンシャも未だ現実へ帰ってこれてはいなかった。


「・・・うーん、じゃあ強いモンスターを討伐してバトラーさんに俺達の強さを見せるって事で。エリカ、ここら辺に強いモンスターが現れそうな場所を教えてくれるか」

「えっ、あの、確か東の山には行っちゃいけないってバトラーが言ってたような・・・」

「じゃあそこに決定だな。すぐに戻ってくるから、シンシャは残ってバトラーが帰ってきた時に事情を説明してくれ」

「はーいー・・・」


トリップしてはいるが話を聞きていられるぐらいには回復したようだ。


「いや、でも、バトラーが行っちゃダメだって・・・」







四大貴族の一家であるハイルリード公爵家は王国一の領土面積を誇り、権力、財力共にまさに最上級貴族と呼ばれる一族だ。


そもそも四大貴族とは約六百年前に起きた初代勇者と原初の魔王の戦いの際、勇者とともに戦った四人の騎士達の末裔の一族の事を指す。

魔王の討伐後、日本の知識を用いてこの世界で初めて王国を建てた勇者がもっとも愛した者達でもある彼らは、この六百年たった今でもこの国を支え続けているらしい。


バトラーはとある屋台の前で立ち止まる。


「へいらっしゃい、今日は良いもんが揃ってるよ」

「ではこのジャガイモと人参、それからあれとそれも」


見ていたのは確かに新鮮な野菜達だった。


この日も暮れそうな時間帯で、よくここまで鮮度を保っていられるものだ。


()()()()()()()なかなか珍しい物が増えていてバトラーの興味を大いに引いた。


「いやー、兄ちゃん良い買いっぷりだねって・・・おや?もしかしてあんたバトラーさんかい!?」

「もしかして今頃気付かれたのですか」


八百屋のおじさんはガハハと笑いながら汗を拭く。


「そりゃあそうだよ、なんたってもう三年も来てくんなかったろ。死んだって噂も流れてたんだから」

「それはそれは。お嬢様が冒険者に御成になる為王都に旅立って仕舞われてからは、とんと足が遠のきましたからねぇ」

「それじゃあ今日はどしたんだい?」


バトラーはとても嬉しそうに笑う。


「それがですね。お嬢様がお客様を連れてお帰りなさいまして、急遽御夕食の準備をせねばと」

「なんだ嬢ちゃんが帰ってきてんのか、それならそうと先に言ってくれよ。ならこれオマケって、持てそうか?嬢ちゃんは昔っからウチによく遊びに来てくれてたから俺もなんか返してぇんだか」


バトラーの両腕にははすでに山のような食材が乗せられている。


ふう、少々買いすぎてしまいました。


「問題ありません。『ディメンションボックス』」


バトラーがそう唱えると、数瞬の煌めきの後なにも無かったはずの空間に穴が生まれる。


そこへ持っていた食材を入れると、何事も無かったようにバトラーは八百屋からオマケの食材を貰う。


「はー、さっすがバトラー、なんでもアリだな」

「いえいえそれほどでも」


バトラーは美しく頭を下げる。


今のは魔法。

平民なら千人に一人の確率で使えるといわれる特殊な技能だ。

何故平民ならと言われるのは、魔法の元となる魔力は血によって受け継がれると言われていて、貴族なら誰もが並以上の魔力を持っており、平民でも魔力を持っている者は貴族に高く買われていく傾向にあるからだ。


だがこれは裏を返せば魔力を持たない者は貴族ではないという事。

最も多くの領土を持つハイルリード公爵家は当然王都周辺の土地も数多く持つ、それなのに何故お嬢様がこの辺境の土地で育てられ、旅立ったのか。


お嬢様には魔力が無かった。


だから彼女は、実の父親に見捨てられたのだ。

さて、勇者はこれからどうなってしまうのか。

バトラー達の長話はこれからも続くのか。


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