009 蒼き炎に焼き尽くされて死ね! 狼牙蒼炎撃!
豹牙は機功套路の動きの合間に、天剣に向けて狼牙大刀を振るい、刃気を放って、迫り来る天剣を迎撃する。
青白く光り輝く刃気が、高速で地を駆ける天剣に、次々と襲い掛かる。
天剣は身を翻して、刃気を回避し、鳳凰刀で刃気を粉砕する。
刃気への対処のせいで、天剣の突撃するスピードは、著しく落ちてしまう。
豹牙の放った刃気は、天剣を傷付けられはしなかったが、天剣に機功套路を妨害させないように、牽制するという目的は、十分に果たせた。
天剣を寄せ付けぬまま、手にした狼牙大刀の切っ先を、地面に突き立てる事に、豹牙は成功する。
機功套路を舞い終えた豹牙の身体から、虹のように美しい七色の虹気が放たれ始める。
虹気が放たれ始めたら、機動大仙が出現するまで、武術家も仙闘機も、攻撃によるダメージを受ける事は無い。
天剣は豹牙の機功套路阻止に、失敗したのだ。
虹色の光に包まれる豹牙の姿を目にして、天剣は舌打ちをする。
虹気は狼牙大刀の中に吸い込まれ、虹気を吸い込んだ狼牙大刀は、強烈な金色の光を放つ。
金色の光は豹牙の姿を飲み込み、巨大な光の球体となる。
光の球体は砕け散り、その中から、甲冑を着込んだ機械の巨人……機動大仙が、姿を現す。
人間の女性と狼が混ざった、雌の人狼の如き姿をした、機械の巨人が出現したのだ。
「機動大仙、蒼炎狼牙!」
豹牙の声が荒野に響く。
蒼炎狼牙とは、豹牙の仙闘機の名である。
機動大仙形態の蒼炎狼牙は、武器形態の際の蒼炎狼牙と同じ形状の、狼牙大刀を手にしている。
「冗談じゃない! 仙闘機無しで機動大仙相手に、戦える訳が無いだろ!」
天剣は恐怖と焦りで顔を引きつらせ、蒼炎狼牙から逃げ始める。
強気であり、自分の強さに自信を持っている天剣でも、機動大仙相手に仙闘機無しで戦えるなどとは、思っていないのだ。
軽功を駆使し、跳ね回りながら逃げる天剣を、蒼炎狼牙は追いかけ始める。
その姿は、子兎を追いかける狼のようである。
蒼炎狼牙は狼牙大刀を振り上げると、天剣に向けて振り下ろす。
巨人の如き巨体であっても、機動大仙の動きは機敏かつ正確であり、十数分の一の大きさしか無い人間に対し、素早く正確な攻撃を加える事が出来る。
大気を引き裂き振り下ろされる、狼牙大刀の気配を察した天剣は、左側に跳び退いて斬撃をかわす。
狼牙大刀の斬撃は地表に大穴を穿ち、土砂を大量に吹き飛ばす。
斬撃はかわせたのだが、吹き飛ばされた土砂まではかわす事が出来ず、天剣は土砂の大波に飲み込まれる。
高速で飛来した土砂には、弾弓の弾丸程度の威力はあるので、大量の土砂を身体に受ければ、ある程度のダメージを受けるのは避けられない(パチンコのような武器が弾弓)。
天剣は土砂から身を護る為、内功を軽功から硬功に切り替え、防御能力を引き上げる。
移動能力は低下するが、硬功を発動した状態なら、弾弓程度の威力の土砂を身に浴びても、何のダメージも受けずに済む。
天剣は土砂の大波に飲み込まれて転倒し、身体に無数の土砂を浴びるが、激痛を堪えつつ、即座に体勢を立て直し、土砂の大波から抜け出す。
そして、内功を軽功に切り替え、天剣は高速で駆け出す。
しかし、舞い上がる土煙の中から、勢い良く飛び出して来た天剣の姿は、すぐに豹牙の視界に捉えられてしまう。
「そこか! 今度は外さん!」
蒼炎狼牙の全身が、青白く輝き出す。融合している豹牙が、内功を発動したのだ。
光は狼牙大刀の刃に集まり、青白い炎となる。
気で蒼い炎を作り出す、蒼炎功という内功の技を、豹牙は使ったのだ。
「蒼き炎に焼き尽くされて死ね! 狼牙蒼炎撃!」
豹牙の叫び声と共に、蒼炎狼牙は天剣がいる辺りに、狼牙大刀を振り下ろす。
巨体が繰り出す斬撃は、大地に大穴を穿ち、刀身が纏っていた蒼い炎は、攻撃が直撃した辺りを中心に、一瞬で周囲に拡散し始める。
狼牙蒼炎撃とは、蒼炎功で作り出した蒼い炎を、狼牙大刀の刀身に纏わせ、敵を炎と斬撃で攻撃する、豹牙独自の技なのである。
技の名を口にするのは、その方が技の成功率が高まるからであり、口にせずとも狼牙蒼炎撃を放つ事は可能だ。
弾弓の弾丸程度の威力しか無い、高速で飛んで来る土砂ならば、硬功で防ぎ切れる。
だが、機動大仙が気を込めて放つ一撃は、直撃では無くとも、人間の武術家の硬功程度で、防御し切れるものではない。
強烈な斬撃で敵を砕き、蒼い炎で敵を焼き尽くす技……狼牙蒼炎撃を防ぐ術を、天剣は持たない。
しかも、蒼い炎による熱攻撃の有効範囲は広いので、軽功を発動している天剣とはいえ、回避するのは不可能に近い。
迫り来る蒼い炎を目にした天剣は、眼前に迫った死に恐怖し、悲鳴を上げる。
このまま、天剣が蒼い炎に焼き尽くされて死ぬだろう事を、その場にいた殆どの者達が確信していた。
天剣と豹牙は当然、戦いの成り行きを見守っていた、盗賊達や天華でさえも。
しかし、灼熱の炎の大波に飲み込まれる寸前、天剣の身体は急加速して宙に舞い、蒼い炎の大波を逃れた。
突如、天剣の元に現れた人影が、天剣の身体を抱き抱えると、そのまま宙に舞い上がったのである……天剣を遥かに上回る速さで。
「な、何だ?」
天剣は混乱しながら、自分を抱き抱えたまま、宙を舞っている者の顔を確認する。
確認した天剣は、驚愕する。天剣を助けたのは、鏢客の少年だったのだ。