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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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085 雷撃劈掛掌!

(今のを見切り、反応出来るとは! 流石だな!)


 素華の見切る能力の高さに、迅雷は感嘆する。

 神域軽功を発動している迅雷の速さですら、普通の武術家は対処する事が困難。


 そんな迅雷の速さに、素華が対処出来るのは、天才的な見切りの能力を持っているから。

 速さでは迅雷に劣るが、その速さを見切れる素華は、迅雷の速さに対処出来るのだ。


 神域軽功に加え、火箭神速を上乗せした速さに達した、超加速状態の迅雷の動きですら、素華は見切って対処する事が出来る。

 迅雷に向けて、正確に放たれた虎尾脚は、その証と言える。


 ただ、あくまでも虎尾脚は牽制であり、素華も仕留めるつもりで放った訳ではない。

 虎尾脚で迅雷の突撃を制止し、僅かな時間を稼いだ素華は、そのまま右回りに半回転し、迅雷の方を向く。


 ほんの三メートル程の間合いで、迅雷と素華が対峙する状況。

 先に仕掛けたのは、素華であった。


 迅雷に向かって、勢い良く踏み込みながら、素華は稲妻を纏った両腕を、高速で振り回すような動きを見せる。

 長い両手を、鞭のように振り回しながら、素華は迅雷に迫る。


雷撃劈掛掌らいげきへきかしょう!)


 素華の技の名を、迅雷は心の中で口にする。

 両手を開いた状態で、両腕を鞭のように素早く振り回し、敵を打ち据える技が劈掛掌へきかしょう


 両腕に気の稲妻を纏った状態で行えば、雷撃劈掛掌となる。

 雷撃功を得意とし、長身であるが故に、腕が長い素華は、この雷撃劈掛掌を得意としていた。


 迅雷は素早い身のこなしで、稲妻を纏った素華の両腕を回避する。

 素華から距離を取り、逃げようとはせず、あくまでも接近戦の間合いを維持しながら、迅雷は雷撃劈掛掌を回避し続ける。


 既に迅雷は、限界が近いのを察していた。

 既に気の残量も多くは無いし、神域軽功を使い続けた負荷により、経絡系が悲鳴を上げているので、神域軽功を使い続けられる時間が、もう殆ど残っていないのだ。


 この場面で攻撃を避ける為、距離を取ってしまえば、再び素華との間合いを、上手く詰められるとは限らない。

 素華であれば、火箭神速による超加速に、今度はより上手く対処する筈なので。


 素華は硬功の達人でもあり、鉄仙拳程でないにしろ、硬功の発動中ですら、余り速さが落ちない程に、その能力は高い。

 当然、防御能力も、並の武術家を遥かに上回る。


 硬功で身を守る素華を倒せる程、強力な遠距離攻撃技を、今の迅雷は持っていない。

 炎撃功などの攻撃用の内功を発動していれば、素華の硬功を崩せる程の、遠距離攻撃技もあるのだが、この戦いで使うのは不可能だ。


 子供の身体となった後の迅雷は、神域軽功を使った後は、しばらくは他の内功を使えない。

 神域内功を発動している以上、他の内功による攻撃技には、頼れないのだ。


 そして、神域軽功は移動に特化した内功の技であり、遠距離攻撃には使えないのである。

 子供の身体になる前であれば、他の内功に切り替えられたので、特に問題は無かったのだが、今は遠距離攻撃能力が著しく弱体化するという問題を、迅雷は抱えてしまっている。


 遠距離攻撃では素華を倒せず、素華と距離を取ってしまえば、再び接近戦に持ち込めるとは限らない。

 それ故、迅雷は遠くに逃げず、接近戦を続けているのである。


 迅雷が神域軽功から、他の内功に切り替えられない弱点を抱えているのを、素華は既に見抜いていた。

 素華との戦いにおいて、迅雷は最初から、神域軽功を発動していたが、その後は一切、他の内功に切り替えていなかったのに、素華は気付いていた。


 昨年の戦いでは、迅雷は神域軽功の発動後、他の内功に切り替えて戦っていたので、この戦いで迅雷が、神域軽功しか使わないのは、明らかに不自然といえた。

 その不自然の原因が、子供の身体になったが故に、抱えた欠点である事に、すぐに素華は思い至れた。


 そして、神域軽功が持つ、一つの大きな欠点を、喪技書などの書物で読んだり、迅雷に聞いたりして、実は素華は知っていたのだ。

 欠点というのは、超高速移動用の内功である神域軽功は、気を放つ強力な攻撃に向かない事だ。


 神域軽功が、「気を放つ強力な攻撃に向かない」というのは、掌砲や掌放……掌打放に使えないという意味だと、喪技書などの書物では、解説されていた。

 軽功と同様、神域軽功における「気」は、雷撃功や炎撃功の気とは違い、攻撃能力の属性を持ってはいない。


 軽功の気の場合は扱い易い為、掌砲や掌放、掌打放などの、気を放つ強力な攻撃に使う事が出来る。

 無論、攻撃用の内功の気に比べれば、攻撃力は遥かに劣るのだが。


 だが、神域軽功の場合は、そうはいかないという話を、素華は封神門の門弟であった頃、神域軽功について記された、喪技書などの書物で読んだり、迅雷から聞いたりしていたのだ。

 神域軽功の発動時は、膨大過ぎる気が、高速で体内の経絡を巡っている状態にある。


 それ故、気の精密な制御が困難過ぎる為、掌砲や掌放、掌打放といった技が使えない……という説明が、喪技書などに載っていたし、迅雷の話も、その説明を裏付けた。

 説明の正しさを示すかのように、過去に迅雷が見せた戦いでは、神域軽功の発動時、掌砲や掌放……掌打放を、使った事が無かった。


 気を放つ強力な攻撃を使う際、迅雷は常に別の内功に、切り替えていたのである。

 掌から気を放つ攻撃が使えないように、剣指とした指先から気を放つ点穴も、神域軽功発動時は使えなかったので、神域軽功を解除した上で、点穴を使っていた。


 神域軽功の使用時、遠距離攻撃が使えないのも、この「気を放つ強力な攻撃に向かない」という欠点が、原因なのだ。

 神域軽功の発動時、主力となる攻撃手段は、気による攻撃ではなく、武器による直接攻撃なのである。


 鳳凰刀などの、強力な武器を手にしていれば、神域軽功発動時でも、硬功で身を守る武術家の身体を、傷付ける事が出来る。

 神域軽功で加速した、迅雷が放つ斬撃や刺撃は、高い攻撃能力を誇るので。


 だが、迅雷が先程まで手にしていた、鳳凰刀の凶焔鳳凰は、既に封印されてしまい、武器として使えない状態にある。

 今の迅雷は、硬功で身を守る素華を、武器で傷付ける事が出来ない。


 神域軽功しか使えない上、素手で戦うしかない今の迅雷が、自分を倒そうとするなら、接近戦となった状態で、神域軽功を解除し、点穴を狙うしかないと、素華は考えていた。

 その他に、硬功で身を守る自分を、倒す手段は無い筈だというのが、素華の認識なのである。


 高速移動用の内功の軽功には、全体的な動作自体を加速する効果は、普通は存在しない。

 ただし、軽功の達人や、その上位版といえる神域軽功の使い手となると、話は別となる。


 軽功の達人であり、神域軽功の使い手である迅雷の場合、軽功や神域軽功を発動している際、全体的な動作自体を、僅かであるが加速する効果を得られるのだ。

 この効果を利用出来る迅雷は、接近戦における動きにおいて、素華を上回る事が出来る。


 だが、見切る能力は素華が上であった為、過去の素手での接近戦の勝敗は、五分であった。

 しかし、五分であったのは、迅雷が自由に内功を切り替えられた頃の話。


 今の迅雷は、点穴が使えない神域軽功だけしか、使えないのだ。

 軽功であれば、発動したまま点穴が使えるのだが、神域軽功しか使えない今、迅雷が点穴を狙うなら、神域軽功を解除せざるを得ない。


 当然、迅雷の動作速度は、落ちてしまう。

 動作速度が落ちた状態で、迅雷は素華の懐に踏み込み、狙い難い小さな複数の経穴を突き、点穴を完成させなければならない。


 神域軽功を解除したとしても、迅雷は素華よりも速い。

 素華が硬功を解除したとしても、僅かではあるのだが、迅雷の方が動きは速い。


 しかし、素華からすれば、気の稲妻を纏った両腕で、迅雷の身体に触れれば良い。

 満身創痍であり、硬功を使えない今の迅雷を仕留めるには、それだけで十分なのだ。


 経穴を一つは突かれ、気の流れを乱されて、多少は動きが鈍るだろうが、その程度で雷神手臂剛が解除されたりはしない。

 その事は、彩雲との戦いにおいて、素華は確認済みであった。


 動きが多少は鈍っても、懐に飛び込んで来た迅雷の身体に、気の稲妻を纏った両前腕で触れ、仕留められる自信が、素華にはあるのだ。

 故に、自分の方が有利な状況にあると、素華は考えていたのである。


 懐に飛び込まれた、至近距離の状況であれば、交叉しながらの頂肘ちょうちゅう……肘打ちを決めるのが、素華にとっては本命と言える迎撃手段。

 気の稲妻を纏う両前腕で触れるだけでも、今の迅雷なら倒せる筈だが、近距離で強力な打撃の威力を上乗せ出来る、雷撃頂肘こそが最適だと、素華は考えていた(今の素華は肘の部分まで、気の稲妻を纏っている)。


 そして、迅雷が神域軽功を解除し、経穴を狙って、懐に飛び込んで来るように仕向ける為、素華は故意に隙を作る。

 雷撃劈掛掌で迅雷を責め立てる合間に、僅かに左腕の動きを鈍らせ、左脇腹辺りを突ける隙を、作りだしたのだ。


 普通の武術家なら気付けないし、気付いても攻め込めないような、僅かな隙。

 だが、迅雷ならば気付いて、攻め込める隙を、素華は雷撃劈掛掌の動きに織り込み、自然に作り出した。


 その隙に、迅雷は気付いた……素華が故意に作り出した、罠としての隙だとは気付かずに。




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