054 誰だったら、つまらなく無いんだ?
抽選に当選した観客達が、闘源郷の観戦席を、雪崩のような勢いで埋め尽くしている間、本選に参加する武術家達は、係員達から注意事項を、解説されていた。
そして午前十一時丁度、観客に満たされた闘源郷において、本選一日目のプログラムが始まった。
本選の一日目は、第一回戦が四試合、準決勝が二試合……合計六試合が行われる。
本選の二日目には、決勝戦と表彰式が行われるのだ(他にも様々なイベントが、表彰式後に行われる)。
まず、本選一日目の第一回戦が始まる前に、昨日同様、闘源郷を訪れた唯一の王族である天蒼が、挨拶を行う。
その後、本選に出場する八人の武術家達は、抽選箱から籤を引き、第一回戦の相手を決める。
そして、第一回戦が行われ、四人が勝ち残る。
第一回戦の終了後、勝ち抜いた四人が、再び籤を引いて、準決勝の組み合わせを決めるのである。
抽選の結果、第一回戦の第一試合は、リオ対無名を名乗る迅雷、第二試合は天剣対紀政、第三試合が鉄拐対彩雲、第四試合が天華対麗虎と決まった。
「つまらん相手と当ったな」
第一試合を行う事になった迅雷は、少し不満そうな口調で呟く。
「誰だったら、つまらなく無いんだ?」
迅雷の傍らにいる天剣が、問いかける。
武術家達は抽選の後、自分達の出番が来るのを、南側にある八席の特別観戦席で、待つ事になっている。
迅雷と天剣達は、並んでいる特別観戦席の内、左側の三つの席を占拠し、並んで座っているのだ。
他の武術家達に聞こえないように、迅雷は天剣の耳元に口を寄せる。
「彩雲に決まってるだろ。現状では一番、素華師姐である可能性が高いからな」
「やはり、あの仮面の女が怪しいのか……」
三人から、少し離れた場所に座っている彩雲の方を見て、天剣は呟く。
顔などの見た目は、呪いで変わっている可能性が有るとはいえ、顔を仮面で隠し続けている彩雲の怪しさは、群を抜いているのだ。
「本選に進むだけで良かったから、別に負けても構わないんだが、一応……一回戦くらいは、勝ち抜いておくか」
気分が乗らなそうに呟いた、迅雷の耳元に口を寄せて、天剣は訊ねる。
「何故だ?」
「準決勝で、彩雲と戦えるかも知れないだろ」
迅雷は、天剣の耳元で囁く。
「直接戦って、本気を出させるのに成功すれば、俺には彩雲が素華師姐であるかどうか分るし、本気を出さずとも、試合中に仮面を叩き割る程度の事は出来るだろうから、最低でも彩雲の素顔を確認出来る」
天華は、迅雷と天剣の口元に、交互に耳を寄せ、小声で交わされる二人の会話に、文字通り耳を傾ける。
「武術家の正体を知るには、下手に調べ回るより、戦うのが一番手っ取り早いんだよ」
天剣と天華は納得した風に、迅雷の話に頷く。
「じゃあ、ちゃっちゃと倒してくるわ」
既にリオは、特別観戦席から立ち上がり、白虎門に通じる通路に向かって、移動を始めていた。
特別観戦席を後にした迅雷は、先を歩くリオの姿を目で追いつつ、呟く。
「あいつが白虎門で、俺は青龍門だったな」
第一回戦の第一試合と第三試合、準決勝の第一試合においては、青龍門と白虎門が使用され、第一回戦の第二試合と第四試合、準決勝の第二試合は、朱雀門と玄武門が使用される。
決勝で使われる門は、一年毎に変わるのだが、今年の決勝は、昨年の決勝で使われる予定だったのに使われなかった、青龍門と白虎門が使われる事が決まっている。
応援の言葉をかける天剣達に、軽く手を振って応えつつ、迅雷は青龍門に通じる通路に向かう。
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