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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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005 窮奇と凶焔鳳凰は、まだ戦い続けているのか……

「逃がさん!」


 素華の声で言い放ちながら、方天戟を手にしていない右の掌を、窮奇は通路の方に向ける。

 掌が稲妻でスパークし始める。

 雷撃功で作り出した稲妻を、素華は窮奇の掌から放ち、通路から逃げようとする王族や近衛兵達を、殺戮しようとしているのだ。


 このように、武術家や機動大仙が気をベースとして、内功の技術を駆使して作り出したエネルギーなどを、そのまま勢い良く放出するように放つ技を掌放しょうほうと呼び、放たれるエネルギーを掌風しょうふうと呼ぶ。


 先程、迅雷が炎撃功の火球を放った時のように、エネルギーを塊にして放つ場合は、技の方が掌砲しょうほう、エネルギーの塊の方が気弾きだんとなる。

 砲や弾という言葉は、遠い昔に使われていた、金属の塊を打ち出す武器に関連する言葉から、引用されたと言われている。


「させるかっ!」


 雷撃を放とうとする、窮奇の前に立ち塞がり、凶焔鳳凰は人々を護ろうとする。

 窮奇の右掌から放たれた強烈な雷撃の掌風は、シャワーのように広がりながら、凶焔鳳凰の外装を直撃する。

 しかし、稲妻が外装の表面を駆け巡るだけで、凶焔鳳凰の本体自体は、大したダメージを受けない。


「硬功で防いだのか! 流石は東少侠!」


 他の王族達が逃げるのを助けつつも、窮奇と凶焔鳳凰……素華と迅雷との戦いの行く末が、気になって仕方が無い天翔は、凶焔鳳凰の方を振り返りつつ、感想を口にしてしまう。

 天翔が察した通り、迅雷は硬功を発動し、凶焔鳳凰の防御能力を引き上げ、雷撃から身を守ったのだ。


 黄武十二聖よりも、迅雷は内功の力が高い。

 しかも、操るのは素華と同じ呪仙闘機なので、黄武十二聖の時とは違い、迅雷の硬功は素華の攻撃に、効果を発揮するのである。


 両手に刀を手にした凶焔鳳凰は、闘源郷の中央で方天戟を構えている窮奇に飛びかかり、素早くも強烈な連続斬りを浴びせる。

 しかし、窮奇も方天戟を器用に動かし、凶焔鳳凰の斬撃を受け止め続ける。


 鋭く激しい技の応酬が、天翔の目と心を惹き付ける。

 天翔は逃げるのも忘れ、踊る様に華麗な斬り合い、打ち合いを続ける、窮奇と凶焔鳳凰の姿に、見入ってしまう。


「馬鹿者! 東迅雷が作った機会を、無駄にするつもりか?」


 天元に叱責され、天翔は我に返る。

 戦っているのが闘源郷の中央とはいえ、両者が放った雷撃や衝撃波、炎や疾風などは、天翔達がいる北側観戦席にまでも、影響を及ぼしている。

 このまま呆然と観戦し続けたら、天翔は戦いに巻き込まれ、死んでいただろう。


「逃げるぞ!」


 娘の手を掴んだ天元は、通路に向かって疾走し始める。

 既に闘源郷の観戦席に残されているのは、天元と天翔の父娘だけである。


 戦いの事が気になって仕方が無い天翔は、後ろ髪を引かれる思いをしながらも、天元に手を引かれ、通路の中に駆け込んで行く。


青霞せいか、無事だったんだ!」


 通路の前方にいる、一つ年上の従妹であり、親友でもある髪の長い王族の少女……雷青霞らいせいかの姿を確認して、天翔は安堵する。

 青霞も窮奇の猛攻から、逃げ延びていたのだ。


 そして、最後に逃げ出した天元と天翔が、通路を通り抜け、闘源郷の外に逃れた数秒後、闘源郷の中央部で、膨大なエネルギー同士が衝突したらしき、大爆発が発生する。


 爆発は歴史ある闘源郷を破壊し、火山の噴火の如き火柱と煙を立ち上らせる。

 闘源郷から三百メートル程離れた辺りの荒野まで、既に逃げ延びていた天翔達ですら、爆風で十数メートルも吹き飛ばされてしまう程に、凄まじい爆発であった。


 爆発の直後、二つの光が衝突を繰り返しながら、打ち上げ花火のように急上昇し、蒼穹の果てに飛び去って行った。

 黄色と真紅の、二つの光が。


「窮奇と凶焔鳳凰は、まだ戦い続けているのか……」


 飛び去る光を見送りながら、天元は呟く。

 天元の方に歩み寄りつつ、光の飛び去った空の果てを眺めていた天翔は、父の言葉に頷く。


 そのまま、天元と天翔は蒼穹の彼方を眺め続けたが、窮奇と凶焔鳳凰は戻って来る事は無く、闘源郷は夜を迎えた。

 首都や周辺地域から駆け付けた、黄国軍の消火活動により、夜を迎えた数時間後には、闘源郷の火災は鎮火した。


 闘源郷は全壊に近い状態であり、五十三名の王族達と、五十二名の近衛兵達が犠牲になっていた事が、その後の調査により明らかになった。

 今回の事件の首謀者である素華は、明確に雷天王を中心とした王族を狙っていたらしく、闘源郷に試合観戦に来ていた一般人達の犠牲者は、少数であった。

 重軽傷者は、数え切れぬ程だったのだが。


 事件の首謀者である素華に関する調査の為、黄国の警衛刑部けいえいけいぶは封神門に対し、徹底的な調査を行う事になった(警衛刑部は華界各国において、警察に相当する組織の一般的な名称)。

 しかし、封神門の本拠地である、封神山に足を踏み入れた、警衛刑部の捜査員達が目にしたのは、封神門の師弟達の、凄惨な死体の山だったのだ。


 封神門の中で生き残っていたのは、闘源郷で清明武林祭の決勝戦が始まる直前、封神山にいなかった、一部の者達だけだった。

 無論、警衛刑部は彼等を取り調べたのだが、封神山で何があったのかという事についても、素華が何故、王族を襲ったのかという事に関しても、殆ど情報を得られなかった。


 分ったのは、闘源郷での王族殺害事件に関わっていたのは、素華だけだったらしい事。

 そして、封神門の師弟達が殺害されたと思われる、清明武林祭の決勝戦直前、素華と迅雷が封神山にいたらしい事だけであった。


 この事件により、雷天王をうしなった黄国では、長子である天元が王に即位して雷元王らいげんおうとなり、国を治める事になった。

 王位についた雷元王は、王族などを大量殺害した罪により、素華を国際指名手配し、黄国や華界のみならず、大陸全土の全国家に、素華の手配書を送った。


 迅雷についても、指名手配すべきだという意見が、黄国政府内でも多数意見を占めた。

 違法行為である、闘源郷における仙闘機の機動大仙化を行い、迅雷が闘源郷を破壊したのは事実であり、封神門の師弟達が殺害された件に関しても、容疑がかかっていたからだ。


 闘源郷において、迅雷が人々を守りながら戦っていた事を、自身が目撃していたので、雷元王は迅雷を疑ってはいなかった。

 だが、王に即位した直後であり、国家権力を掌握し切れていなかった雷元王は、上級官吏や他の王族達に押し切られ、意に反しながらも、迅雷を国際指名手配した。


 しかし、大陸各国の協力を得た上での、懸命な捜査にも関わらず、素華と迅雷が捕らわれる事は無かった。

 事件に関わる重要な二人の身柄無しに、事件の捜査が進む訳が無い。


 事件の真相は明らかにされぬまま、月日は過ぎ去り、黄国は再び春を迎えようとしていた。

 清明武林祭が催される、春を……。




    ×    ×    ×




なろう向けのレイアウトとして改行を増やし、空行を多数入れた為、そのままだと本来の空行部分(場面変更時などの)が、分かり難くなってしまうので、本来の空行部分は、以下の三連の「×」と置き換えてあります。


    ×    ×    ×


この三つの「×」を見かけたら、場面転換などで入る、本来の空行部分だと思って下さい。


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