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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
43/91

043 おそらく、優勝者が出るとしたら、この三人の中の誰かでしょう

 第八組の予選の結果が出た事により、清明武林祭の予選は終わった。

 予選の終了後は、著名ではあるが現役では無い武術家達や、黄国軍人による演舞の披露などが続き、観客達を楽しませた。


 様々な見世物が終わった後には、予選終了の式典が行われた。

 予選終了の挨拶を済ませた後、明日以降の事について、運営委員会の者達と話してから、天蒼は海燕や他の警備の者達と共に、闘源郷を後にする。


 既に日は傾き始めていて、闘源郷の周囲は、夕陽で朱に染まりつつある。

 そんな景色の中を、機動大仙二機に護衛されながら、天蒼を乗せた馬車は、黄極城に向かって進んで行く。


 天蒼の乗る馬車は、装甲版だらけの戦車の如き外装をしているのだが、内装は旧家の応接室のような、瀟洒な作りになっている。

 かなり性能の良い馬車なのだが、妙に揺れが激しいのは、近くを巨大な機動大仙が、二体も歩いているので、地面が揺れるせいである。


「今年の清明武林祭も、盛り上がっていますね」


 天蒼は馬車の中で、楽し気に言葉を続ける。


「去年、あのような事があったので、今年は盛り上がらないのでは無いかと心配していたのですが、杞憂だったようです」


 天蒼が話しかけているのは、対面の席に座る海燕である。


「清明武林祭での優勝経験がある海燕なら、誰が優勝するのか、予想がついているのはなくて? 私は武術に詳しく無いので、見当もつかないのだけれど」


「予選だけでは、私にも見当がつきませんよ、天蒼様」


「二人っきりの時は、天蒼と呼びなさい。堅苦しいのは嫌いです」


 芝居がかった風に一礼しつつ、海燕は言葉を返す。


「御心のままに……」


「何故、予選だけでは分らないの?」


「全く本気を出していなかった者が、三名いました。彼等の実力は、私にも読み切れません」


「それは、本気を出さずとも、予選を勝ち抜けたという意味なのかしら?」


 天蒼の問いに、海燕は頷く。


「絽彩雲と劉麗虎、そして無名の三名は、本来の実力の片鱗すら、見せていなかったように見えました」


「そういえば、三人とも武器を使わずに、素手で戦っていましたね」


「素手で戦っていたからというより、門派固有の技や、己の得意とする技を、故意に隠して戦っていたような印象を受けます。例年、そういった者達が数名いるのですが」


「隠す? 何故?」


「得意とする技や戦法を敵に知られたら、不利だからです」


 海燕は天蒼に、理由の説明を続ける。


「実力が近い者同士が戦う場合、自分の技や戦法を知られた者は、相手に対策を立てられてしまう可能性があるので、少しだけ負ける確率が上がりますからね」


「海燕も清明武林祭に出た時、予選では実力を隠したの?」


「いえ、私にはそんな余裕は、ありませんでした。必死でしたよ、勝ち抜く為に」


 海燕は苦笑してから、自分の予想を口にする。


「おそらく、優勝者が出るとしたら、この三人の中の誰かでしょう」


「天翔や青霞には、無理かしら?」


「お二人の功夫も、相当に高まってはいます。清明武林祭の本選に進んでも、恥ずかしくは無い実力を、既に身につけておいでのようですが、難しいでしょうね」


 天蒼は海燕の返答を聞いて、少しがっかりしたような顔をする。


「天翔様は十五歳、青霞様は十六歳なのですから、初めて出場する清明武林祭で、本選に進むだけでも、若手の武術家としては、相当な実力の持ち主だという事になります」


 海燕は武術家としての、率直な認識を口にする。


「天蒼様は、天翔様や青霞様の事を誇る事はあっても、気落ちなさる必要はありません」


「ーー様はいらないと、何度も言っているでしょう」


「あ、失礼しました。つい……」


 海燕は恐縮し、気まずそうに髪を弄る。


「そうね……本選に進むだけでも凄い事なのですから、天翔と青霞が負けたとしても、健闘を讃える事にしましょう」


 天蒼は後ろを振り返り、鉄格子に守られた、後部にあるガラス窓から、遠ざかる闘源郷に目をやる。

 夕日に染まる闘源郷の姿は、荘厳さを感じさせる。


「天翔と青霞、もう黄極城に向かっているかしら?」


「まだ闘源郷の中でしょう。今頃は明日の本選に関する伝達事項を、運営委員会の方から、伝達されている最中ではないでしょうか」


「そう……」


 天蒼は振り返るのを止め、対面に座る海燕に目線を戻す。


「天蒼を黄極城まで送り届けたら、私は闘源郷に戻って、天翔様と青霞様の警護に当るつもりです」


 海燕は、続ける。


劉邦りゅうほうが二人の出迎えに、向かっている筈ですが、一応……念の為に」


 劉邦とは、海燕と共に黄武十二聖に加えられた、三十手前の男である。


「あの二人の場合、海燕の警護を嫌がってしまうかも……」


「ですから、お二人にはばれないように、密かに警護するつもりです」


「そうした方が、良さそうね」


 二人は顔を見合わせて、くすくすと笑う。

 そんな二人を乗せた馬車は、夕陽の中を進んで行く。

 黄都の中央にある、黄極城に向かって。



    ×    ×    ×




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