表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
35/91

035 今の俺にとっては、復讐の方が大事なんだよ

 観客達の声援や歓声が飛び交う、騒然としている闘源郷の闘技場で、五十人程の武術家達が本選出場を目指し、激しい戦いを続けている。

 同じ組であれば、誰を相手に戦うかは自由なのだが、大抵の武術家達は、手近にいる武術家を、対戦相手としている。


 基本的に、武器を手にしている方が有利というのが、武術の常識といえる。

 だが、それは一般論であり、清明武林祭に出場して来る程の猛者達の場合、そのまま当てはまるとは限らない。

 参加している武術家の半数程は素手なのだが、武器を手にしている相手と、互角の戦いを見せている。


 戦闘不能になった者達が、負けとなるのは当たり前。

 闘技場に描かれた、闘技場の面積の八割を占める、巨大な円……闘坤圏とうこんけんから出た者も、場外負けとなる。


 ちなみに、闘坤圏とは、闘う為の円形の地を意味する言葉だ。


「第一組は、鋼鉄拐で決まりだな。奴に勝てそうな奴は、第一組にはいない」


 待機席で観戦していた迅雷は、そう言い切る。

 迅雷の目線の先にいる鉄拐は、長穂剣ちょうほけんの使い手である、黄色い功夫服姿に身を包んだ、二十歳前後の女性武術家と戦っている。


 長穂剣とは、長穂ちょうほと呼ばれる長い紐が、柄についている剣である。

 普通の剣のように使えるのは当然として、長穂を手にしたまま、剣を投擲して引き戻したり、長穂を手にして剣を振り回したりするなど、変化に富んだ攻撃が可能なのだ。


 黄色い功夫服の女性武術家は、普通に柄を持ち、長穂剣で斬りつけたかと思うと、長穂に持ち替えて攻撃。

 長穂を上手く操り、普通なら有り得ない方向や間合いから、斬りつけたり突いたりして、鉄拐を攻め立てる。


 だが、長穂剣による攻撃を、鉄拐は全て拳で受け止め、弾き返す。

 鉄拐の身体は、仄かな光を放っている。鉄拐は硬功の一種、鉄仙拳てっせんけんを使っているのだ。


「鉄仙拳は硬功の一種だが、普通の硬功なら、発動中は動きが鈍くなるのが相場の筈。しかし、鉄拐の動きに、鈍くなった様子は無い」


 興味深げに、迅雷は鉄拐の戦いを観察する。


「鋼家門の奥義……鉄仙拳には、動きが鈍らぬ性質があるのか。それとも、鉄拐の鉄仙拳における功夫が、尋常では無いのか……」


 迅雷は短く、言い足す。


「どちらにしろ、こりゃ強敵だな」


 鉄拐の戦いを分析してみせる迅雷の表情が、天剣と天華には楽し気に見える。


「ーー喜んでるように見えるが、何が嬉しいんだ、チビガキ?」


「いや、同じ組にならなくて良かったなと思ってさ」


「弱気なもんだな。武術家を名乗るなら、強い相手との戦いこそ、喜ぶべきだろうに」


「武術家として、ここに来ている奴なら、そうだろうな」


 天剣達だけに聞こえるように、迅雷は小声で言葉を続ける。


「今の俺にとっては、復讐の方が大事なんだよ」


 強い相手と戦う事自体は、迅雷にとっても望ましい。

 しかし、鉄拐程の強者相手では、迅雷は本気を出さずに勝つ自信が無い。


 素華が迅雷の読み通りに、王族抹殺の為に清明武林祭に紛れ込んでいる場合、迅雷が本気を出せば、素華には確実に、自分が迅雷である事がばれてしまう。

 幾ら見た目や名が変わっていても、本気の技を見れば、素華には迅雷だと分かるし、逆に迅雷も素華だと、分かってしまうのだ。


 素華を見つけ出す前に、素華に自分の正体がばれるのは、迅雷にとって不利な状況となる。


(俺が迅雷だと分かったのなら、素華師姐は絶対、俺の暗殺に走るだろうからな)


 素華を迅雷が見付け出す前に、無名の正体が迅雷であると、素華に気付かれたら、迅雷は素華に、一方的な襲撃を許す事になる。

 只でさえ自分以上の実力があるだろう相手に、一方的な襲撃を許せば、迅雷には勝ち目が無い。


 それ故、無名と名乗っている自分の正体が、迅雷である事を、素華が見抜けるような戦い方をするのを、迅雷は避けるつもりなのだ。

 彗星少侠と呼ばれる所以ゆえんの神域軽功は当然、得意とする鳳凰刀や、封神門固有の技の使用を控えた上で、迅雷は本選に残るつもりなのである。


「鉄仙拳とはいえ、硬功の系統の技である以上、点穴なら通用する筈だが……」


 そう呟く迅雷の目線の先では、女武術家が鉄拐に対し、長穂剣での攻撃を続けている。

 女武術家は手にした長穂を巧みに操り、やや離れた間合いから、鉄拐の頭部を狙うかのように、攻撃を仕掛ける。


 女武術家がいる正面ではなく、鉄拐の真上から、長穂剣が切っ先を真下にして、高速で落下して来る。

 真上から頭部を狙って来た、長穂剣の刃を弾く為、鉄拐は右拳を突き上げる。


 しかし、これは黄色い功夫服の女武術家の、狙い通りの動きであった。

 長穂剣での攻撃を行うと同時に、女武術家は硬功を発動し、鉄拐の間合いに勢い良く踏み込む。


 鉄拐を素手で攻撃出来る間合いに捉えた、黄色い功夫服の女武術家は、長穂から手を放すと、空いた両手を剣指にする。

 そして、右手で鉄拐の左太腿にある経穴を、左手で鉄拐の右脇腹にある経穴を狙い、突き刺すような鋭さの、剣指突きを放つ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ