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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
32/91

032 ーーお前等、一体何者だ?

「参ったな……俺の仙闘機は、持ち込めないと困るんだが」


 困ったように呟く迅雷に、再び天剣が耳打ちをする。


「だったら、お前の凶焔鳳凰を俺の鳳凰刀と交換して、俺と順番を代われば良い」


「何故?」


「親父が政府関係者なもんでね、あの係員には、少し無理を通せる立場なんだ。俺の物という事にすれば、凶焔鳳凰を持ち込む事は出来る」


「出来るのか、そんな真似が?」


 迅雷の問いに、天剣は頷く。


「お前の武器も俺の武器も、見た目は只の鳳凰刀だ。登録を済ませてから交換すれば、何の問題も無いだろ?」


「そりゃそうだが……信じていいのか?」


「ーー実は昨日、お前に聞いた話……素華が今年も王族を狙う為、武術家達に紛れ込んで、清明武林祭に出場する可能性があるという話を、実家に戻った後、親父に話したんだ」


「つまり、今朝になって、いきなり仙闘機の持ち込み自体が、禁止されたのは……」


「俺が親父に話した話が、政府に流れた事が原因だろう。その程度には、俺の家は……政府に顔が効くと、思ってくれて良い」


 そう言いながら、天剣は自分の鳳凰刀を迅雷に渡し、布に包まれたまま、迅雷が背負っている凶焔鳳凰を、自分の手に取る。


「ーーお前の事は気に食わないが、お前がやろうとしている事は、正しいと思う。まぁ、任せておけ」


「天剣の話は本当です、信じてあげて下さい」


「分った、任せる」


 迅雷は凶焔鳳凰の登録を、天剣に任す事にして、天剣と順番を入れ替わる。

 緊張しながら、自分達の順番を待つ迅雷達の前で、鉄拐が抽選と登録を済ませ、緑の功夫服の青年が、受付の順番を迎える。


「ーーあ、お久し振りです」


 受付の係員が、緑の功夫服の青年に声をかける。

 受付の係員と顔見知りらしく、緑色の功夫服の青年は、係員と親しげに会話を交わしている。


「あの緑色の功夫服の奴が、気になるのか?」


 係員と親しげに会話を交わしている、緑の功夫服姿の青年を、迅雷が注視しているのに気付き、天剣が迅雷に問いかける。


「まぁ、多少はね……。どうも見覚えがあるような気がしてな」


 曖昧な答えを、迅雷は天剣に返す。

 誤魔化しているのでは無く、何で気になるのか、見覚えがある気がするのか、迅雷自身にも分らないのである。


 殆どの者達は、問題無く抽選と登録を終えたのだが、白い仮面の女は、係員と揉める事になった。

 係員は警備の都合上、素顔を確認したがったのだが、仮面の女は断固として、素顔を晒すと言う規則は無いと、素顔を確認させる事を断ったのだ。


 しかし、それでは清明武林祭に出場させる訳には行かないと、係員も退かなかった。

 数分間揉めた挙句、どんな顔をしているのか、絶対に誰にも明かさないという条件を、係員に飲ませた上で、仮面の女は一人の係員にだけ、素顔を晒したのである。


 係員の判定では、仮面の女の素顔は、素華や他の指名手配者の顔とは、異なっていた。

 故に、仮面の女も出場登録を兼ねた抽選と、武器の登録を終えられたのだ。


「見た目は呪いなどの理由で、変わっている可能性があるんだが……」


 迅雷の呟きに、天剣と天華も頷く。

 三人共、仮面の女が現時点では、素華である可能性が一番高いと、怪しんでいるのである。


 ただ、怪し過ぎるが故に、むしろ違うのではないかとも、三人は考えてしまう。

 要するに、現時点では情報が少な過ぎて、分からないというのが現実なのだ。


 程なく、三人の中では一番前に並んでいる天剣が、受付の順番を迎える。


(本当に、大丈夫なんだろうな?)


 迅雷は緊張しながら、天剣と係員の様子を窺う。

 天剣は参加登録書類に名を記した後、抽選箱の中に手を突っ込み、籤を引く。

 そして、布に巻かれた凶焔鳳凰を、係員に手渡した後、天剣は襟首を開き、何かを取り出して示しながら、係員の女性に何かを耳打ちする。


(何をしたんだ?)


 天剣が何をしたのかは、迅雷には正確には分からなかった。

 迅雷は天剣の後ろにいたので、天剣が身体の前で何をしていたのかは、見えなかったのだ。


 ただ、身体が仄かに光った為、天剣が内功を使っただろう事と、天剣の話が真実だという事は、迅雷にも分った。

 天剣の言った通り、凶焔鳳凰は係員による検査を、通過したのである。


 係員は、布に巻かれた凶焔鳳凰を取り出すと、確かに気を流して検査を行った。

 機功を習得し、仙闘機を見抜けるだけの技量がある係員になら、天剣が渡した鳳凰刀が、仙闘機であるのを見抜ける筈なのに、係員は凶焔鳳凰を見逃したのだ。


「天剣の話は、本当だったでしょう?」


 迅雷の耳元で、天華が囁く。


「ーーお前等、一体何者だ?」


 迅雷は訝しげな口調で、天華に問いかける。


「只の黄国政府関係者の娘です。そんな事より、次は君の番ですよ、無名」


(こいつら、絶対に何か裏があるな。凶焔鳳凰を持ち込ませてくれたのは有難いにせよ、少し調べておいた方がいいのかも……)


 心の中で呟きながら、迅雷は受付の机に向かい、参加申込書に必要事項を記入する。

 無論、無名という名と経歴は、全て偽りである。


 だが、元々親しい間柄である、鏢局の経営者などに協力を得て、迅雷は徹底した経歴の偽装工作を行っている。

 それ故、無名の経歴を調べたところで、迅雷本人の存在は、決して表に出て来ない。




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