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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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025 全く……あんな呪いがなければ、こんな小娘にチビガキ呼ばわりされる事も、無かったのに……

 本来なら十八歳の少年であり、身長は五尺八寸……現在の天剣と同程度である筈の迅雷なのだが、今の迅雷は十二歳程度にしか見えないし、身長も五尺未満しか無い。

 迅雷は十二歳の身体に、若返ってしまったのである。


「こんなチビガキ相手に本気で怒り、鳳凰刀を抜いてしまうとは、俺も大人気おとなげが無さ過ぎるな……」


 自嘲気味に、天剣は呟く。


(ーー尊敬してる相手を、チビガキ呼ばわりしてんじゃねえよ、この胸凶作!)


 不機嫌そうな顔で、無名……と名乗っている迅雷は、心の中で愚痴る。


(全く……あんな呪いがなければ、こんな小娘にチビガキ呼ばわりされる事も、無かったのに……)


 迅雷の言う、あんな呪いとは、呪仙闘機である凶焔鳳凰の主となったが故に、身に受けてしまった呪いの事である。

 若返りの原因は、凶焔鳳凰の呪いだったのだ。


 先程、無名という立場で天剣達に話した内容の殆どは、迅雷自身が経験した事実なのだが、骸野上空で空中戦を繰り広げていた辺りまでが事実であり、それ以降は作り話だった。

 実は、骸野上空に来た時点で、窮奇と凶焔鳳凰は砂嵐に巻き込まれ、互いを見失ってしまったのである。


 互いを見失った状況のまま、凶焔鳳凰は機動大仙としての活動限界を迎えた。

 仙闘機と武術家が融合し、機動大仙として戦う事が出来る時間には限りがある。


 その時間の限りを、活動限界という。

 殆どの仙闘機は、一日で二時間程度しか、機動大仙としての形態を維持する事は出来ない。


 活動限界を迎えた仙闘機は、機動大仙形態を解除して武器形態となり、武術家と分離する。

 砂嵐で窮奇を見失ったまま、迅雷は武術家の姿に戻り、骸野に放り出されたのだ。

 おそらく、素華も窮奇の活動限界を迎え、骸野の何処かに放り出されたのだろう。


 しかし、通常の仙闘機と違い、呪仙闘機である凶焔鳳凰と融合していた迅雷は、以前と同じ姿で放り出された訳では無い。

 凶焔鳳凰の呪いにより、十二歳の子供に変えられてしまったのである。

 正確には、身体だけが六年分、若返ってしまったのだ。


 身体が若返るという事は、歳をとった女性ならば、喜ばしい事なのかもしれないが、身体的に全盛期に突入しようとしていた迅雷にとっては、悪夢のような状況となった。

 六年分の修行で積み重ねた全ての功夫(修行の成果として身につけた武術の実力)を、迅雷は失ってしまったのである。


 黄国の若手武術家の中で、最強を争える程の実力者であった迅雷は、基本的な内功と外功……体術だけが使える程度の、武術家の中で最弱といえるレベルまで、実力が落ちてしまったのだ。

 積み重ねた功夫を失ったのはショックではあったのだが、ショックを受けて立ち止まっている余裕は、迅雷には無かった。


 外見が子供になった事は、黄国の捜査機関による捜査の網から逃れる為には、むしろ有難い位だと、前向きに考える事にして、とりあえずは信頼出来る友人を頼り、迅雷は緑點鎮に身を寄せた。

 緑點鎮に居を構えた迅雷は、武術の修行を続けて実力を取り戻し、鏢局でも働き始めた。


 迅雷の頭の中には、武術の知識は入っているし、一度は身につけた技でもある。

 その上、同門の者達の復讐を成し遂げなければならないという、強い使命感もあり、修行は凄まじいペースで進み、迅雷は一年後の現時点で、一年前の実力の八割程を、取り戻す事が出来た。


 身体の大きさが有利に働く擒拿術(関節技や投げ技などの、いわゆる組み技)の実力は、元々苦手だった事もあり、最低に近い実力のままである。

 しかし、得意だった軽功は、以前に近い、華界最速と言えるだけの段階まで、迅雷は実力を取り戻したのだ。


 修行と仕事を続けながら、迅雷は頻繁に黄都にも足を運んだ。

 理由は、来るべき素華との、再戦の為にである。


 素華との再戦の舞台は、再び闘源郷になるだろうと、迅雷は推測した。

 そして、呪いのせいで、自分の実力が大きく素華に劣っている可能性を考慮した迅雷は、落ちてしまった自分の実力を埋め合わせる為に、舞台となる闘源郷に、罠とも言える細工を仕掛ける事にしたのだ。


 丁度、闘源郷は来年度の清明武林祭の為、再建の真っ最中であった。

 再建作業の人手は不足していた事から、子供に見える迅雷にも、働き手として、闘源郷の再建現場に潜り込む機会はあった。


 迅雷は鏢客としての仕事を一時的に休んでまで、闘源郷に作業員として潜り込んだ。

 迅雷は再建作業をしつつ、闘源郷内に素華……というよりは窮奇対策としての罠を仕掛ける事に、成功したのである。


 罠を仕掛け終えた迅雷は、作業員を辞めて鏢客としての仕事に戻り、修行と仕事の日々に戻った。

 そして、清明武林祭前の最後の仕事として、迅雷が鏢局から請け負った仕事が、天剣と天華を乗せた馬車を、黄都まで護衛する仕事だったのだ。




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