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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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021 我が命の炎に焼かれ、鳳凰の如く甦れ迅雷!

 まさに瀕死の状態の王凱が、更に死に近い状態の迅雷を連れて、崩壊した二つの廟がある湖の岸辺に姿を現したのは、素華が去った数分後の事だ。

 雷神烈震脚を食らっても、二人が生きていたのは、二人とも硬功を発動していたからである。


 迅雷は最初から、硬功を発動していた。

 王凱は素華が封神轟雷烈震波を放った事に気付き、雷撃が直撃する寸前に、内功を軽功から硬功に切り替えたのだ。


 もっとも、生きていると言っても、二人の命の灯火は、今にも燃え尽きようとしている状態である。

 二人が生き残れる可能性は、殆ど残されてはいないのだ。


 その事は、王凱も迅雷も、自覚していた。


「ーーお前だけなら……生き残る事も、可能かも知れん」


 王凱は砂浜となっている岸辺に、迅雷を仰向けに寝かせる。


「師……父」


 何とか意識が残っている迅雷が、薄目を開けて王凱を見上げる。

 既に内功を使う力が残っていないので、硬功は解除されている。


「赦せ、迅雷……全ては私の責任なのだ」


「ーー師姐……は?」


「闘源郷に……向かったのだろう、雷家を滅ぼす為に」


 苦し気に顔を顰めながら、王凱は迅雷に答を返す。


「王族を恨み、滅ぼす事を望む素華にとっては、王族が揃う清明武林祭の決勝は、最高の舞台だからな」


 迅雷が意識を失わぬように話しかけながら、王凱は気を練り始める。

 最後の内功を発動する為に、残された全ての気を、身体の中心に集めているのだ。


「馬鹿な! 幾ら師父以上の実力を……身につけたとはいえ、黄武十二聖達や、多数の近衛兵達に護られた……王族達を、素華師姐一人で滅ぼす事など……不可能な筈です!」


「先程も言った通り、素華は封神廟の封印を破り、最強の呪仙闘機である窮奇を手に入れた。窮奇の力と素華の技をもってすれば、黄武十二聖とて王族を護り切れはしない」


 悲痛な表情を浮かべ、王凱は続ける。


「ーー窮奇を手に入れた素華であれば、復讐には……成功し、一時の達成感に酔えるだろう。だが、その後は素華自身も……復讐される側となり、殺し合いばかりの……空しい人生を送る羽目になる……」


 王凱の言葉には、実感が込められている。

 過去に何人も、そんな復讐者と出会っていたが故の、王凱の言葉といえる。


「全てを捨て去り、復讐に生きるような、愚かな生き方を選ばず、素華には恨みを捨てて、幸せに生きて欲しかったのだが……都合の良すぎる望みだったようだ」


「師父……」


「恨みを捨て去り、辛い過去に縛られずに生きるのは、人には難し過ぎるのだろう……哀しい事にな」


 王凱は身体に残された全ての気を、右掌に集めると、迅雷の抉られた胸の上に掌を当てる。


「我が命の炎に焼かれ、鳳凰の如く甦れ迅雷!」


 力を振り絞り、叫ぶ王凱の身体が、深紅の炎に包まれ始める。

 身体ごと全てを焼き尽くすかのような勢いで、王凱の身体が燃え上がり始めたのだ。


「師父、駄目です! 鳳凰甦爐ほうおうそろを……使ったら……」


 王凱が何をしようとしているのかを察し、迅雷は悲痛な声を上げる。

 そんな迅雷の身体にまで、王凱の炎は燃え移り、燃え上がらせてしまう。


 鳳凰甦爐とは、封神門の奥義の一つであり、身体のダメージを回復させる、治癒功ちゆこうと呼ばれる種類の内功の中で、最高の治癒能力を持つ技だ。

 死を免れられない程のダメージを負った人間ですら、鳳凰甦爐の炎に焼かれたら、蘇るといわれている程、その治癒効果は高い。


 華界には、様々な鳳凰に関する伝説が存在する。

 その中には、西域から華界に来た鳳凰の一種は、炎に焼かれると死ぬが、その炎の中で身体を再生し、生き返るという伝説がある。


 この西域由来の鳳凰の力を元に、尊呂望が作り出した治癒功が鳳凰甦爐。

 甦とは甦る事を、爐とは炎で焼く道具を意味する。


 つまり、あたかも鳳凰が炎で身を焼き、再生するかのように、瀕死の人間を甦らせる炎の爐に、自らの身体を変えてしまう、究極の治癒功が、鳳凰甦爐なのだ。

 死を免れられぬ筈の人間ですら、甦らせてしま程に、強力な治癒能力があるにも関わらず、鳳凰甦爐は滅多に使われる事は無い。


 鳳凰甦爐で回復させる事が出来るのは、他の人間だけ。

 しかも、鳳凰甦爐を使った者は、自分の持つ全ての気を……自分の生命を維持するのに必要な気まで含めて、他者の回復に用いる為、死を免れられない。


 自分の命を捨ててまで、他者の命を救おうとする機会は、当然のように稀有である。

 それ故、鳳凰甦爐は滅多に使われる事が無いのだ。


 そんな鳳凰甦爐の存在をを、迅雷は知っていた。

 故に、王凱が己の命を犠牲にして、自分を救おうとしている事を察した迅雷は、悲痛な声を上げたのである。


「止めて……下さい! 鳳凰……甦爐を……使え……ば、師父の命が……」


「構わん! この技を使わずとも、私は……死ぬのだ。死を免れられぬのなら、お前を助けて死んだ方が、少しは罪滅ぼしになるというものさ……」


 鳳凰甦爐の炎が、王凱の手を伝わり、迅雷の身体を包み込んでいく。

 しかし、深紅の炎に包まれているにも関わらず、迅雷の身体も着衣も燃えない。

 それどころか、傷ついた身体の方は、傷口が塞がり始めるなど、急激な勢いで回復し始める。


 只の炎でも、攻撃用の炎でも無い。

 傷ついた者の身体だけを修復し、生きる力を与える、奇跡の炎なのである。



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