013 どうした? 何故、あの女に止めをささない?
「御頭!」
機動大仙同士の戦いとなっても、遠くに逃げずに、豹牙の戦いを近くで見守っていた、青旗團の盗賊である少女が、傷ついた豹牙の元に、馬で駆けつける。
満身創痍の状態ではあるが、何とか身動きは可能な状態の豹牙は、よろけながらも立ち上がると、少女の馬に跨り、後ろから少女に抱き着く。
少女と豹牙を乗せた馬は、そのまま猛スピードで荒野を駆け、逃げ去って行く。
無名の機動大仙は、二人に止めをさすかのように、二人の逃げ去る方向を向いて身構えるが、攻撃技を繰り出す事無く、構えを解く。
「どうした? 何故、あの女に止めをささない?」
問いかけたのは、無名の近くに姿を現した、天剣である。
戦いの決着がついた事を察した天剣は、天華と共に馬車を降りると、軽功を発動させて、無名の機動大仙の元に駆けつけたのだ。
「あの小娘が、命がけで仲間を助けに来たからさ」
機動大仙の口を通して、無名は話し続ける。
「王豹牙を助けようとせず、他の盗賊連中と共に逃げていれば、命を危険に晒す事無く、逃げ去る事が出来た。それなのに、あの小娘は仲間である王豹牙を助ける為に、敵である俺がいる場所まで戻って来たんだ……殺されるかも知れないってのに」
話の途中で、機動大仙が虹色の光を放ち始める。
無名が仙闘機との融合を解除したのである。機動大仙は数秒で姿を消して、紅い鳳凰刀となり、無名も少年の姿に戻る。
「命がけで仲間を助けに来るとは、盗賊とはいえど大した義侠心だ。俺は義侠心のある奴が、胸の大きい女の次に好きなんでね、あの娘の義侠心に免じて、今回だけは見逃してやる事にした」
そう言いながら、無名は懐から取り出した繃帶状の布……呪仙闘機を覆い隠す効果がある偽装用呪布で、鳳凰刀の刀身をぐるぐる巻きにしてから、背負っていた鞘に納める。
無名は予備の呪符を、持ち歩いていたのだ。
「まぁ、それでも仙闘機を持って逃げていたら、止めさしたけどさ」
無名は豹牙が放置して行った、狼牙大刀……蒼炎狼牙に目をやる。
蒼炎狼牙は、無名達がいる場所から二十メートル程離れた場所に、放置されたままだった。
大急ぎで逃げた少女と豹牙には、狼牙大刀を回収してから、逃げる余裕が無かったのである。
「仙闘機が無ければ、大した悪さは出来無いだろう。青旗團は狼牙大刀を持った豹牙がいたからこそ、成り立っていたような盗賊団だからな」
そこまで話してから、天剣が自分を訝しげな目で見詰めている事に、無名は気付く。
「何だよ?」
「貴様は一体、何者だ? 何で凶焔鳳凰を持っている?」
天剣は険しい目で、無名を詰問する。
間近で無名の機動大仙を目にした天剣は、それが凶焔鳳凰であると、確信していた。
(こいつ、凶焔鳳凰を知っていやがるのか? 拙いな……)
無名は驚きながらも、驚きを表には出さず、天剣に訊き返す。
「凶焔鳳凰? 何の事だ?」
惚ける無名に、天剣は詰め寄る。
「惚けるな! 貴様の機動大仙……呪仙闘機の事だ! 親父が封神門の元掌門、阮王凱から聞いているんだよ、華界には凶焔鳳凰以外に、鳳凰刀の呪仙闘機は存在しないと!」
阮王凱という名を聞いて、無名の顔が一瞬だけ強張る。
「そして、凶焔鳳凰は昨年の清明武林祭決勝の日、前国王を含む多数の王族達や近衛兵達を殺害した西素華と、激しい戦いを繰り広げた、東少侠の操る呪仙闘機だ! 東少侠の呪仙闘機を、何で貴様のようなガキが持っている?」
僅かに間を置き、無名は素っ気ない口調で答える。
「拾った」
「ふざけるな! 華界の至宝……仙闘機を、例え呪仙闘機とはいえ、拾って手に入れたなんて話、誰が信じると思うんだ?」
無名は狼牙大刀……蒼炎狼牙の方に歩いて行き、拾い上げる。
「拾えるじゃん」
「それ、拾うというより、倒した相手から、奪ったようなもんだろうが!」
「うるさい小娘だな。俺が凶焔鳳凰を持っていようが、お前には何の関係も無い……どうでもいい事だろ」
「どうでも良くない!」
「何で?」
「それは……その凶焔鳳凰の持ち主だった東少侠に、用があるからだよ!」
「どんな用?」
「会って……礼が言いたいんだ」
頬を紅潮させながら、天剣は話を続ける。
「昨年……清明武林祭の決勝戦が行われた時、俺達は闘源郷にいて、西素華の操る窮奇に、殺されそうになったんだ。あの時、東少侠が闘源郷に現れなかったら、俺も……俺の家族も皆、死んでいただろう」
(あの時、あの場にいただと?)
天剣の話を聞いて、無名の表情が翳りを帯びる。
思い出したく無い過去でも、振り返っているかのように。
その顔を見て、何かに気付いたかのような表情を、天華は浮かべる。
「そういえば、さっきから思っていたんですが、この無名という少年の顔……誰かに似ていると思いませんか?」
「こんな糞生意気なチビガキに似てる奴なんて、俺は心当たり無いけどね」
そう呟きながらも、天剣は一応、無名の顔をジロジロと見詰める。
無名は照れくさそうに顔を背けるが、天剣は強引に無名の顔を、自分の方に向けさせると、ゴーグルをずらして素顔を見る。
「ん? この顔は……」
天華の言う通り、心当たりがあった天剣は、目を丸くしながら、驚きの声を漏らす。
「この子に似ている人に、天剣も心当たりがあるでしょう?」
「いや、確かに多少は面影があるというか……似てる気がしないでも無いけど」
「私は、天剣が盗賊達と戦いに行った時に、気付いたんですけど、この無名という少年、東少侠に良く似てるんですよ、女顔のところとか……」
無名の顔を見詰めつつ、天華は話を続ける。
「似ているのは、顔だけじゃありません。凶焔鳳凰としか思えない呪仙闘機を持つ上に、軽功に関しては実力がある部類に入る天剣を、圧倒的に上回る軽功を使うという部分まで、この少年は東少侠と共通しています」
「それは、確かに……」
「顔が似ている上に軽功が得意で、凶焔鳳凰だとしか思えない呪仙闘機を受け継いでる少年となると……考えられる事は一つですよ、天剣」
「どういう事?」
天華が何を言いたいのかがつかめず、天剣は問いかける。
(やばい……ばれたか?)
天華と天剣の会話を、気まずそうに聞き続けていた無名は、心の中で呟く。




