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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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010 その動きは機功套路! こんなガキが、機功を?

「小娘にしちゃ、中々の速さと強さとはいえ、まだまだだな」


 呆気にとられ、間の抜けた表情を浮かべる天剣に、少年は語り続ける。


「さっきみたいな時、安易に土煙の中から飛び出すのは止めておけ。敵に自分の居場所を教えて、殺して下さいと言ってるようなもんだから」


 天剣へのアドバイスをしながら、少年は狼牙蒼炎撃の攻撃範囲外……蒼い炎の無い辺りに着地する。

 そして、狼牙蒼炎撃によって発生した、爆煙と土煙が混ざりあった煙の中に、少年は突進する。


「むしろ、土煙や爆煙の中に身を隠しながら、機動大仙の動きを見極めた上で、機動大仙の死角に回り込んでから逃げる方が、得策だ」


 言葉通り、少年は土煙と爆煙が混ざり合った煙の中に、身を隠したのだ。

 煙の中であれば、内功を発動しているせいで、身体から放たれる仄かな光も、煙の外からは視認し難い。


 煙の中に隠れた少年と天剣を、蒼炎狼牙と融合している豹牙は、簡単に見つけ出す事は出来ない。

 しかし、巨大な機動大仙である蒼炎狼牙の位置や動きは、視界の悪い煙の中にいる少年達にも、発生する音のせいで、大雑把に察する事が出来る。


「何処に隠れた? 姿を現せッ!」


 しかも、豹牙が出してしまった声のせいで、声の響き方から、蒼炎狼牙がどの方向を向いているかまで、少年と天剣には分かってしまう。

 そうなれば、少年達が蒼炎狼牙の後ろを取るのは、簡単な事だ。


 少年は蒼炎狼牙の動きに気を配りながら、煙の中を天剣を抱えたまま移動し、蒼炎狼牙の背後に回り込む。

 そして、少年は天剣を抱えたまま、煙の中から飛び出していく。


 疾走する少年は、天剣を抱えたままだというのに、天剣が軽功を発動して駆ける速度よりも、数段速い。

 異常なまでの少年の速さに、天剣は舌を巻く。


 少年は瞬く間に、天華と御者がいる幌馬車の元に辿り着く。

 蒼炎狼牙は、ちょうど馬車に背を向けていたのだ。少年は天剣を降ろすと、御者に向かって口を開く。


「この二人を連れて、西の方に戻って待っていてくれ。ここから最低でも一キロ……二里は離れないと、戦いに巻き込まれる可能性があるからな」


 少年の言葉に、御者は頷く。

 続いて、少年は天剣と天華の方を向く。


「お前等も、さっさと馬車に乗れ」


「お前は、乗って逃げないのか?」


 天華と共に馬車に乗った天剣は、馬車に乗ろうとしない少年に、問いかける。


「当然だ、俺は鏢客だからな」


「でも、相手は機動大仙だぞ! 仙闘機無しで戦える相手じゃ無いだろ?」


「お客さん、大丈夫ですよ。無名むめいの旦那は、機功を使える仙闘機持ちですから」


 御者の言葉を聞いて、天剣達は驚く。

 十二歳程にしか見えない少年……無名が機功を習得し、仙闘機を持っているという話は、華界の武林の常識では、有り得ない話なのだ。


 名のある門派の皆伝相当の実力者にしか、機功は伝授されない。

 十五歳で皆伝を受けた天剣ですら、相当に珍しい存在であり、十二歳程で皆伝を認められる者など、天剣の知る限り存在しない筈だった。


 四十歳程の御者が、十二歳程に見える無名を「旦那」と呼ぶ事や、名前が無いという意味の、無名という人を食った名前も、普通なら奇妙に思う事である。

 しかし、そんな事が気にならなくなる程に、無名が機功を習得しているという話は、天剣を驚かせた。


「このチビガキが、機功を習得してるだと? そんな馬鹿な!」


「でも、この子は天剣より速いですよ。軽功の実力を考えれば、この子が機功を使えても、おかしくは有りません」


 天華の言葉を聞き、無名が自分以上の軽功の実力を持っているのを、天剣は思い出す。


「こんな場所で話してないで、さっさと逃げろ! 豹牙が俺達の動きに気付いたぞ!」


 蒼炎狼牙は後ろ……無名達がいる方を振り向いている。

 探していた天剣と無名が、煙の中から抜け出し、幌馬車の方に逃げていた事に、豹牙は気付いたのだ。


「そこにいたのかっ!」


 勝ち誇った豹牙の声が、荒野の大気を振るわせる。

 機動大仙の蒼炎狼牙に、襲われる直前の状態なのを悟った天剣と天華は、背筋を震わせ身をすくませる。


「行けっ!」


 無名の叫び声に応じ、御者は馬を鞭で叩き、馬車を発進させる。

 無名は遠ざかる馬車に踵を返し、迫り来る蒼炎狼牙の方を向くと、背負っている鞘の中から、剣のような得物を、右手で抜く。


 剣のように見えるが、柄の部分以外には、やや灰色がかった、包帯の如き布地が巻かれていて、剣なのか刀なのかは視認出来ない。

 その得物で、自らの身体を傷つけるかのような動きを織り交ぜ、無名は様々な型を披露し始める。


 無名は機功套路を、舞い始めたのである。


「あいつ、本当に機功を……」


 遠ざかる無名の姿を眺めながら、天剣は驚いたように呟く。

 無名の機功套路の動きが、天剣には何処と無く見覚えがあるような気がして、仕方が無かった。


 無名が機功套路を舞い始めたのに気付いたのは、天剣だけではない。

 機功を使える天華、そして既に機動大仙となっている豹牙も、気付いていた。


「その動きは機功套路! こんなガキが、機功を?」


 蒼炎狼牙の口の辺りから、豹牙の声が発せられる。

 蒼炎狼牙は無名の機功套路を阻止する為に、蒼い炎を纏ったままの狼牙大刀を、勢い良く振り下ろす。

 強烈な一撃は轟音と共に大地を穿ち、蒼い炎は地を駆け、土砂と共に無名に向かって襲い掛かる。


 そのまま、無名の小さな身体は、蒼い炎と土砂の波に飲み込まれるかと、離れていく馬車の中から無名を見守っていた、天剣や天華は思ったが、そうはならなかった。

 蒼い炎と土砂が無名を飲み込む直前、無名は手にした得物を、大地に突き立てたのである。


 機功套路を舞い終えた無名の身体から、美麗なる七色の虹気が、勢い良く放たれ始める。

 虹気が放たれ始めた無名の身体は、仙闘機と融合して機動大仙と化するまで、何者にも傷つけられる事は無い。豹牙の意図は、挫かれたのだ。


 虹気は布に包まれた得物の中に吸い込まれ、虹気を吸い込んだ得物は、強烈な金色の光を放ち始める。

 金色の光は無名の姿を包み込み、巨大な光の球体となる。


 光の球体は砕け散り、中から機動大仙が姿を現す。

 だが、現れた機動大仙は、甲冑を着込んだ機械の巨人といった感じの外見では無く、得物に巻かれていた、包帯状の布と似たような布で、全身が覆われた巨人のような、奇妙な外見をしていた。




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