経験
いきなりではあるが私こと矢野小百合にはある悩みがある。
クラスの女子、そのほとんどがセックスを経験しているらしい。
「セックス……」
口に出すと余計に悲しくなる。
今現在友達との待ち合わせ場所である喫茶店へと行く道中に花も恥じらう乙女が言う事では無いことは重々承知してはいるのだがセックスどころか産まれてこのかた彼氏の一人すら出来た事がないとなれば口にも出したくなるというものである。
そしてそんな悶々とする私の悩みに拍車をかける出来事が起きてしまう。
「セックスした事があるかって?あ……あるよ?」
「あ、あやか……?」
「わ、私も経験あるかなー……なんて。ははは」
「ともこまでっ!?」
待ち合わせ場所である喫茶店で親友の二人がまさかの経験済みというカミングアウトをしてくれたのである。
親友二人が経験済みで私だけが処女だって事が──なんだか仲間はずれにされてい気がして私は焦っていた。
◆
「とりあえず、話は分かったけど何で俺があんたとセックスしなきゃなんないんだ?」
現在は放課後、人気の無くなった教室に私はいかにも経験豊富そうな永岡隆をありったけの勇気を絞り出して呼び出していた。
セックスをしたいと言うぐらいならまだ愛の告白の方がハードルは低いのではなかったのか?と言った後になって気付いたのだが言ったからにはもう後にはひけない。
「じ、実は前々から永岡君の事いいなーと思ってて……」
その言葉に私は胸を痛める。
嘘までついて何を言っているのかと。
しかし「ヤリ◯ンだと思ったから」という言う気は無いが、状況が状況である。永岡君も薄っすら気付いているのでは無いか?そして見た目だけでそう判断されて傷ついているのでは無いかという罪悪感も私を襲う。
「てかお前の話が本当ならお前の友人も処女だぞ?」
「どうして分かるのっ!?」
「あのな……そもそもお前友人が言っているようなシャーペンみたいな男性のナニは見た事も聞いた事も無いぞ?」
「…………マジ?」
「マジ。ちょーマジ」
なんと言う事だ。
あの二人はただ単に嘘をつき見栄を張って居ただけだったという事が今明かされてしまった。
余りにも遅すぎるその真実に私は顔から湯気が出そうなくらい熱くなって行く。
これでは単なる盛った犬猫では無いか………いや、実際似た様なものなんだが。
クッソ恥ずい。
「……この会話のやり取り、全て無かった事にしましょう」
そして気付く。
目の前の男が自分の想像では「ヤリ◯ン」である可能性が高いと言う事に。
そうなると処女を捨てるという喜びよりも恐怖の方が勝ってしまう。
それに少なからず乙女な想像もしないでは無い。
女だし。