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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第6章 奇跡が起こる日
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建国記念の日(終)

2040年1月11日 エルムスタシア帝国(亜人帝国) ルシニア市 貿易基地


 地球への帰還まであと31日、この日は日本国外に派遣されていた護衛艦のうち、最後の1隻であるさくら型護衛艦の「さかき」がこのルシニア基地を出航することになっていた。最盛期にはおよそ700名を越える日本人が居住していたこの貿易基地も、既に他の租界や基地と同様に蛻の殻となっている。そして、わずかに残っていた自衛官と民間人を乗せて「さかき」が出航することで、この大陸からの日本人の引き揚げが達成されることとなるのだ。


「ニホン国の兵士様・・・これを!」


 艦へ乗り込もうとタラップへ向かう若い自衛官に、ルシニアの住民である兎人族の少女が花束を渡した。この国を去る日本人たちの姿を見送ろうと、港には数多の人々が駆けつけている。亜人が人口の大部分を占めるこの国では、「さかき」を見送る群衆のほぼ全員が異形の者たちだ。


「ああ、ありがとう」


 花束を渡された自衛官は微笑みながらそれを受け取り、少女の頭を撫でてあげる。彼女の頭から突きだしている“うさぎ耳”がぴょこぴょこと動いた。


「・・・ほんとうに行ってしまうの? また私たちを守ってくれないの?」


 兎人族の少女はそう言うと、自衛官の服をか細い腕で引っ張った。日本=クロスネルヤード戦争にてこの都市を2度に渡って守った“自衛隊”は、この街の住民たちにとって“英雄”だったのだ。


「・・・俺たちは、何時も君たちのことを思っているよ」


 若い自衛官はそう言うと、花束を抱えて「さかき」へと乗り込んで行く。その側では2人の男が今生の別れを告げる瞬間が訪れていた。


「じゃあ・・・柴田先生、もう2度と会うことは無いでしょう」


「ああ・・・元気で」


 ルシニア基地の診療所に派遣されていた医師の兼光と柴田が互いに別れを告げている。この世界に残ることを選んだ柴田と、他の日本人と共に地球へ帰ることを選んだ兼光、此処で別れる2人はもう2度と会うことは無いだろう。

 その後、若い自衛官たちに続いて兼光が「さかき」へ乗り込む。甲板では艦長の若島津源蔵二等海佐/中佐と船務長の岬野翼三等海佐/中佐が、艦に乗り込む者たちを眺めていた。


「本当に・・・大丈夫なのだろうか? ・・・日本の消失は2025年時点で死に体だった世界経済にトドメとなる大打撃を与えた筈だ。最悪・・・『地球』は核戦争で滅びているかも知れないぞ」


 地球へ帰る準備を進める傍らで、若島津二佐は地球への帰還に不安を抱いていた。


「東亜戦争で中国と北朝鮮、韓国が衰退して・・・在日米軍が無くなって、東アジアはどうなっているだろうな」


 中国の没落と日本の消失、これらは地球の経済に多大な損失を与えていることだろう。世界経済が大きく傾き、失業者が大量に発生した世界で、人々が平穏でいられる筈が無い。


「中国の核兵器は戦後復興援助の代償として国連に没収されたので、アジアはインドとロシアの2強だと思います。台湾、チベット、東トルキスタンは独立しているかも・・・。そうなれば中国はソマリアを思わせる混沌の世界でしょうね」


 岬野二佐は中国が分裂している可能性を思い描く。中国共産党の権勢が失墜した中国が辿る道など想像に難くないだろう。

 その後、最後の引き揚げ民を乗せた「さかき」は日本へ向けて出航する。ルシニアの市民は港を去る英雄たちを歓声と共に見送り、彼らの手には数多の日本国旗が翻っていた。隊員たちは最後の別れを告げる為に甲板上に整列し、港に向かって敬礼を捧げる。彼らの目には涙が浮かんでいた。


〜〜〜〜〜


2月1日 日本国 東京都千代田区 首相官邸


 それからおよそ3週間後、惜しまれながらもルシニアを去った「さかき」は、本来の母港である長崎県佐世保市に無事到着した。


「総理、『さかき』が帰還しました。これにて全ての引き揚げ事業が終了です。尚、海外・外地に居住していた日本人のうち、81名の日本人は帰還を拒否し、現地に残留しました」


 首相官邸の総理執務室には、首相である伊那波と防衛大臣の鈴木の姿があった。1人の内閣府職員が報告の為、その部屋を訪れている。彼は日本人の引き揚げ事業の結果について報告していた。


「81人か・・・結構居るな」


 伊那波はぽつりと呟く。職員が告げた81人の日本人とは言わば、日本に帰る選択肢を捨てて、日本政府の加護も無い状態でテラルスで生きていく事を選んだ者たちのことであった。その内訳の多くは、現地の住民と恋に落ちた者、または現地民との間に家庭を持った者が大多数であったのだが、中にはこの世界に魅せられた者、またはこの世界の発展に寄与することが自分の使命であると決めた者など、変わり種も多く居る。

 因みに、およそ80名の日本人が現地民との関係を理由にしてテラルスへ残った様に、日本人との関係を理由に故郷を捨てて地球へ向かう決断をしたテラルスの民も居る。彼らについては特例措置として、日本人の配偶者及びその子孫に限って日本への移民、すなわち永住資格が許可されていた。特にアルティーア帝国、イラマニア王国、クロスネルヤード帝国、そしてエルムスタシア帝国からの移民が多く、この15年間の間に正規の手段で日本国籍や永住資格を得た者たちを合わせると、テラルスの移民は合計して20万人以上に昇っていたのである。


「いよいよ10日後は、神の使徒と名乗るあの女が告知した地球へ帰還する日ですが・・・本当にそんな事が起こるのでしょうか」


 鈴木は未だジェラルの発言に疑問を感じていた。彼女が人智を超えた魔力を持つ存在であることは確かだが、使徒などという不確定過ぎる素性を名乗った彼女の言葉を信じない者は政府内に数多く居る。


「・・・それは分からない。だが、彼女の話の内容は極北レポートと一致している。信憑性は高いと考えるべきだろう」


 彼女の言葉が真実であると断ずる物証は何1つない。だが、状況証拠から見ると彼女が只者では無いことは明らかである。


「帰還への準備は進めてある・・・国民の意思も確認した。それでもし、彼女の言葉が嘘であったのならそれでも良し、本当に地球に帰るのも・・・まあ、それで良し。これは賭けだな」


 虚実を確かめようが無い状況においては、最悪の事態を想定して動く他ない。既に日本人と在日外国人の引き揚げが完了した今、後は2月11日を待つばかりとなっていた。

 国会前では未だに帰還に反対する者たちによるデモが起こっており、警視庁の機動隊が連日警戒に当たっている。多くの国民たちは何時も通りの日常を過ごしており、世間の様子は帰還の日など意識していないかの様であった。


〜〜〜〜〜


2月7日 沖縄県石垣島 天文台


 ここ石垣島には国立天文台を含め、6つの団体によって管理されている天文台が存在する。そこでは2人の職員が望遠鏡を操作し、夜空の観測を行っていた。


「あの彗星の尾がテラルスとエルメランドに触れる時、日本は地球へ帰るのか」


 望遠鏡はテラルスへと接近する「深谷・飯沼彗星」を捉えていた。彗星は既に肉眼で尾が見える所まで接近しており、世間を少しだけ騒がせている。天文学の知識が乏しいテラルスの人々の中には、かつての地球の様に彗星の出現を凶兆と捉え、騒ぎを起こす者も居た。


「その日は奇しくも“建国記念の日”、日本政府は再転移の詳細について日程しか明かしていませんが、何か運命めいたものを感じますね」


 もう1人の職員が口を開く。日本政府はジェラルの存在や彼女から教えられた世界の真実について国民に伏せており、一般の国民は“ある存在からの援助を受けて2月11日に地球へ帰る”としか知らされていなかった。


「この星空ともお別れかと思うと、また寂しくなるなあ」


 天文学に身を置く者としては、太陽系とは異なる恒星系、そして地球から見えるものとは大きく異なる星空はとても興味深く、学術的にも貴重なものであった。


「でも、今の日本には『扶桑』があるじゃないですか。28世紀の日本人がこの世界へもたらした飛行戦艦が! あれがあれば、未だ前例が無い日本独自の有人宇宙探査なんか簡単に実現しますよ。地球ではアメリカに代わって日本が宇宙開発をリードする存在になる」


 「扶桑」の存在は既に一般に周知されている。現在の「扶桑」は海上自衛隊の所属艦として横須賀港に停泊していた。


「宇宙開発か・・・子供の頃に夢見た未来が来るんだな」


 職員はそう言うと再び望遠鏡の中を覗く。そこには変わらず深谷・飯沼彗星の姿があった。日本国を地球へと誘うほうき星は刻一刻と近づいている。


〜〜〜〜〜


2月9日 クロスネルヤード帝国 首都リチアンドブルク 皇宮


 世界最大の帝国の皇帝であるジェティス4世は、皇后のレヴィッカ、腹違いの皇妹であるテオファ、そして2人の皇子たちと共に御所のバルコニーに立っていた。彼らは夜空に見える彗星を眺めている。


「本当にニホン国は消えるのか・・・」


 日本政府が告知した日まであと2日、ジェティスは日本国が消えた後の世界に思いを馳せる。日本国という巨大な影響力が消えたら、一体どうなってしまうのだろうか。

 この国には日本が建設した租界や貿易拠点が点在していたが、この大陸から日本人が去った今、それらは全てゴーズトタウンと化していた。日本国の撤退による経済的損失は大きく、日本からの輸入品に頼って仕事や生活をしていた者たちは皆、頭を抱えていた。


「ニホン国は・・・私の病を治してくれました。例え本当にニホン国が消えたとしても、私はその恩義を絶対に忘れません。そしてこの国も・・・兄上様、彼の国の偉勲はこの世界の歴史から消えてはいけません。残していきましょう・・・絶対に!」


 テオファは毅然と兄の顔を見つめ、自らの考えを述べる。


「勿論だ・・・それに、この子たちが無事に生まれたのも、ニホン国の医術士たちのお陰。彼の国の存在を絶やすことなく後世へ伝えること、それが私たちに出来るせめてもの恩返しだ」


 ジェティスはそう言うと、自身の側に立っている2人の皇子の頭を撫でる。テオファから見れば甥に当たる2人の皇子は、かつて日本人の産婦人科医の尽力によって出生した経緯があったのである。彼らアングレム家にとって、日本国は忘れることなどあり得ない大恩人なのだ。ジェティスは国内の有識者を召集して、日本国の武勇を書き記した歴史書の編纂を行うことを決意する。


(あの人は・・・やはりニホンへ帰ったのかしら)


 その一方で、テオファはとある日本人のことを思い返していた。その人物とはかつて、恐ろしき陰謀によってクロスネルヤード帝国と日本が戦火を交えることになった時、交流を深めた日本人医師のことである。宮中医への誘いを固辞し、各国を歴訪して日本の医学を広めることを自らの使命として課した医師のことを、テオファは忘れられなかったのである。




首都リチアンドブルク 市街地


 その頃、首都リチアンドブルクの一画でちょっとした騒ぎが起きていた。街中の酒場で2人の男が喧嘩を起こし、怪我人が出ていたのである。喧嘩を行っていた男の一方が、もう一方の男を食事用のナイフで切りつけてしまい、その額に付けられた傷からは血が噴き出していた。


「おい・・・大丈夫か、あんた!」


 店の店主が怪我を負った方の男に呼びかける。怪我を負わせた方の男は酔いが一気に醒めており、顔を青ざめておろおろしながら、その様子を眺めているだけであった。


「ウゥ、い・・・痛ェよ!」


 怪我をした男は額を抑えながらうめき声をあげる。だが血は止まらず、現場に居合わせていた者たちも為す術が無かった。その時、フードを被った男が店主の前に立ち、彼に話しかけたのである。


「私は医者だ。良かったら診てやろうか? 創を縫うくらいなら出来る」


「ほ・・・本当か!? 有り難い!」


 店主は医者と名乗る男の申し出に感謝の意を示す。そしてその男は怪我を負った男の側に跪き、持っていた鞄の中から医療道具を取り出すと、視界を確保する為に被っていたフードを脱いだ。


「あんた・・・ニホン人か!」


 店主は驚きの声を上げる。医師と名乗る男は日本人だったのだ。全員がジュペリア大陸を去り、祖国へ帰った筈の日本人がこの街に居る訳がなく、店主は疑問と困惑を隠し切れない。


「そうだ、だが今はどうでも良い。とにかくこの男の治療を行う。部屋を貸してくれ」


「わ、分かった。奥の部屋を使ってくれ」


 店主はそう言うと日本人の男を酒場の中へ案内する。男は見物人の力を借りて怪我人を担ぎ上げると、彼の後を追って酒場の中に入って行く。


「あんた・・・名前は?」


 店主は医師を名乗る日本人に名を尋ねた。


「・・・トモカズ=シバタだ」


 日本人の男は少し間を空けて答える。柴田友和・・・彼は日本を捨てた81名のうちの1人である。政府の加護を捨ててテラルスに残るか、どんな状況にあるか分からない地球へ日本と共に帰るのか、そのどちらが正しい選択だったのかはまだ分からない。だが、彼の心に後悔など無かった。その後、彼は偉大な医術士としてこの国の歴史にその名を刻むこととなる。


〜〜〜〜〜


2月11日(建国記念の日)・夜 日本国 東京 上空


 留萌の港に滞在していたジェラルは今、幽霊船(ゴーストシップ)に乗って東京の上空に到達している。彼女は「深谷・飯沼彗星」の接近に伴ってこじ開けられる“次元の裂け目”が確実に日本を包み込むか確認する役目を担っていた。“次元の裂け目”とは、このテラルスが存在する世界や地球が存在する世界など、創造主たる神が作り上げた“物質世界”同士を繋ぐ通り道である。

 因みに“神々が暮らす世界”も存在するが、それは人々が暮らす世界から見て“上位”に当たる場所であり、人間がそこへ干渉することは絶対に出来ないのだ。


「この『ニホン国』がこの世界に来てから15年が経過している。だから、君たちが転移した時から15年後、西暦2040年2月11日の『地球』、かつてニホン列島が位置していた場所にこの国は帰る。それで全て元通りだ」


 ジェラルはそう言うと、天球に輝く彗星に手をかざす。3本の尾を引く彗星は夜空に輝いており、テラルスの人々は皆、その美しさに見とれていた。




渋谷区 スクランブル交差点


 渋谷のスクランブル交差点には、歴史的瞬間を見届けようと数多の人々が集まっていた。街頭ビジョンには彗星の様子を映した映像が流れている。


『『深谷・飯沼彗星』です。偶然か否か・・・あの彗星の尾がこのテラルスを掠める今日という日、日本国は地球へ帰るのです。その瞬間を・・・その歴史的瞬間を見届けましょう!』


 彗星の接近をリポートするキャスターの声が聞こえる。そして遂にその時が訪れた。彗星の核から淡い光のベールが四方に放たれ、それはまるで日本列島を覆い尽くすかの如く夜空に広がって行ったのである。人々は遙か上空で繰り広げられる天文ショーに歓声を上げ、その様に見取れていた。


ゴ ゴ ゴ ゴ・・・


「・・・!!」


 その時、人々は地面が微かに揺れていることに気付く。この地震は東京都だけでなく、離島を含む日本全土に及んでいた。15年前に日本が地球から消えた時に起こった現象が、再び日本列島に起こっていたのである。




千代田区 首相官邸


「遂に・・・来たか!」


 首相の伊那波は運命の時の到来を肌で感じていた。首相官邸に集合していた伊那波内閣の面々も鼓動の高鳴りを抑え切れない。地球へ帰る時が遂に来たのである。




東京 上空


 東京の上空を飛ぶジェラルは、“次元の裂け目”に覆われた日本列島に向かって右手を大きく振っていた。地表からは光の粉が舞い上がり、その様子はまるで日本列島そのものが天に召されていくかの様である。


「さよなら・・・ニホン!」


 空を飛ぶ幽霊船(ゴーストシップ)の船首に立つジェラルは、日本国に向かって別れの言葉を叫ぶ。その言葉の中には様々な感情が含まれていた。程なくしてジェラルは右手を降ろす。その時、彼女の眼下に広がっていたのは、何処までも広がる何も無い漆黒の海であった。


 翻る旗が示すものは、東の空から昇る紅い太陽。世界の闇を照らすその光に、人々は多くの希望を託した。そして蘇った亡霊から世界を救う、一縷の可能性を彼らに託した。

 時空を超えた旅路は短くも、刻まれた歴史は忘れ難し。15年・・・人類の長き歴史から見れば光陰矢のごとくわずかな時、「テラルス」という名の星に確かに存在したその国は、世界に大いなる変革をもたらした。その偉勲は決して消えることのない歴史として、この世界の記憶に刻まれることだろう。


「じゃあ・・・帰りましょうか、私たちの家へ」


 ジェラルはそう言うと、自身の配下にある霊魂たちに出航命令を下す。彼女は何も無い海を物憂げな顔で見下ろしながら、自分たちの本拠地へ向けて出発したのだった。


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

・・・


2月12日 午前6時03分 日本国 東京都千代田区 首相官邸


「・・・?」


 いつの間にか床の上に横になっていた伊那波は、頭を抱えながら上半身を起こした。周りを見れば、他の閣僚たちもさっきまでの自分と同じく床に倒れている。ふと時計を見てみれば、時刻は午前6時03分を示していた。


「だ、大丈夫か!?」


 伊那波は側に横たわっていた外務大臣の来栖に声を掛けた。彼の声に気付いたのか、来栖はゆっくりと起き上がる。


「え、ええ・・・何とも」


 来栖はそう言うと自身の後頭部を摩る。彼の目覚めを皮切りにして、他の閣僚たちも目覚めて行く。


「あの地震、我々は・・・この国は『地球』へ帰ったということでしょうか? ということは、此処は『地球』?」


 内閣官房長官の宮島は気を失う前の最後の記憶を辿る。テラルスへ転移した時と同じ現象が起こったその瞬間、彼らは皆気を失ってしまったのだ。


「鈴木大臣! 佐世保に連絡を!」


「承知しました!」


 伊那波はソファの上で目を醒ましていた防衛大臣の鈴木に指示を出す。鈴木は携帯電話を取り出してある場所に連絡を入れた。


・・・


同時刻 長崎県佐世保市


 長崎県の佐世保港では、しまばら型強襲揚陸艦の「おが」が出航準備を整えて待機していた。東の空からは朝日が昇り始めており、日の光を反射した佐世保の海はきらきらと輝いている。そして「おが」の艦橋にて出撃の時を待つ西村彰治一等海佐/大佐の下へ、ある連絡が届けられていた。


「・・・艦長、政府より出航命令が出ました」


「分かった。良し・・・釜山へ向けて出航する!」


 隊員からの報告を聞いた西村一佐は、日本の最隣国であった「大韓民国」釜山市への出航命令を下す。彼らの任務は地球への帰還に当たって、かつての近隣国に物理的接触を図ることであった。


「・・・」


 鬼が出るか蛇が出るか、そう考える乗組員たちの表情は一様に固い。彼らは唯々、地球が無事であることを祈っていた。西村一佐は緊張で鼓動を昂ぶらせながら、水平線の向こう側にある筈の大陸を見つめている。

 斯くして西暦2040年2月12日、母なる星である「地球」にて、日本国の新たな冒険が始まった。15年間というブランクの中で、「扶桑」という新たな力を手に入れた日本国はどのような道を選び、進むのか、そして世界はどの様な変貌を遂げているのだろうか。


 それはまだ、誰も知らない物語。

次回、エピローグ「東京万国博覧会 EXPO'100」

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