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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第6章 奇跡が起こる日
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ぼくらの星

フランス優勝!

2039年5月15日 東京都三鷹市 国立天文台・三鷹キャンパス


 1人の職員が50cm公開望遠鏡を覗いている。その先には青白い尾を引く彗星の姿が映っていた。


「『深谷・飯沼彗星』・・・公転周期15年の短周期彗星」


 三鷹キャンパスの職員である丸田明夫が見ているのは、この世界で初めて発見された新彗星である。名前は発見者である2人の“コメットハンター”の名前から「深谷・飯沼彗星」と呼ばれている。この彗星の発見は少しだけメディアを騒がせていた。軌道を計算した結果、テラルスへかなり接近することが判明したからだ。


「丸田さん・・・深谷・飯沼彗星が前回テラルスに再接近した日時が解りました」


 望遠鏡を覗く丸田の下に、彼の後輩が計算結果を持って来る。彼らは深谷・飯沼彗星とテラルスの軌道から、彗星がテラルスに接近する、もしくは接近した日時をリストアップしていた。


「あくまで予測ですが・・・前回の最接近は2025年9月4日、そして次回は2040年2月11日です」


「建国記念の日か・・・」


 「建国記念の日」・・・それは初代・神武天皇が大王に即位した日、日本という国が始まった日である。丸田はその日付に運命的なものを感じていた。


〜〜〜〜〜


5月20日 東京都渋谷区


 エルメランドとの戦いが終わってからおよそ1年後、世界は復興の途上にあった。日本国は海外に設置していた拠点の多くが破壊された為、一時は経済的に下降していたが、復興特需によって経済はやや上向きに回復しつつある。世界各国から日本国内へ避難していた各国の首脳たちも、すでに自分たちの国に帰って復興の指揮を執っていた。


『日本政府はクロスネルヤード帝国に対して600億円、現地の金額にして20万ユロウの政府開発援助を行うことを決定し、同国から来日していたフィロース宰相は来栖外相との会談にて『日本政府、及び日本国民からの多大なるご厚意とご配慮に対して、皇帝陛下に代わり深謝致します』と述べ、感謝の意を示しました。また・・・』


 街頭テレビからニュースキャスターの声が聞こえて来る。日本政府は戦後復興を援助する為という名目の下、被害を受けた各国に政府開発援助、または借款を行っていた。街頭テレビを見上げる人々の中には、日本人だけでなく正式に移民として日本国籍を取得したテラルスの民や亜人の姿もある。


「本当に良いの? 此処は『トウキョウ』・・・世界最大のエンターテインメント・シティーよ。この街を訪れる異国人でカジノで遊ばない人は珍しいわ」


 日本を訪れていた“猫人族”の女性2人が、同じく亜人の少女に話しかけている。その少女は円盤騒動が起こる直前に「エルムスタシア帝国」から単身で日本へ来ており、ある“2人の日本人”を捜していた。彼女の耳には尖りがあり、髪の毛は目を引く金髪で瞳は宝石の様に美しい。彼女は一目で“エルフ族”だと分かる見た目をしていた。


「そうですね・・・でも、私にはやりたいことがあるから」


 エルフの少女はそう言うとその場を去って行き、瞬く間に人波の中へ消えて行く。日本で暮らす人々の様子は円盤騒動が起こる前の状態に戻っていた。本土が直接的な攻撃を受けなかったことも相まって、エルメランドとの戦いは人々の記憶の中から既に薄れつつあったのだ。


〜〜〜〜〜


ロトム亜大陸 極北の未開地域 地下


 世界の極北に「ロトム亜大陸」と呼ばれる大陸がある。その大陸には万年雪に覆われた地域があり、この大陸に暮らす人々はその地域のことを“極北の未開地域”と呼んでいた。だが、日本国による資源開発のメスが入ったことで、この地に存在する豊富な金鉱床とレーバメノ連邦の港を繋ぐ鉄道が敷設されてからは、未開地域と人が住む沿岸部の間に往来が生まれ、この地から採掘される金鉱石は莫大な富を生み出していた。

 この未開地域の地下には大空洞が広がっていることが分かっており、かつてはその内部の調査が行われたこともあったが、内部探査の困難さから調査は早々に打ち切られ、その後、日本政府がこの地下大空洞に目を向けることは無かった。そして後に、この地下に未来の遺産が眠っていたことが明らかになるのだ。


「これは・・・」


 そして今、誰も居ない筈の地下大空洞に人影がある。それは1人の女性であった。その女性は大空洞の天井に大きく空いた大穴を見上げていた。地上まで続くその大穴からは、日の光が差し込んでいた。


「此処にあった筈の艦が無い・・・」


 それと同時に、その女性は本来ならばこの場所に氷付けで保管されていた筈のものが無くなっていることに気付いた。それはおよそ500年前、彼女がある集団から預かった“巨大な軍艦”である。

 それは他でも無い、現在の「クロスネルヤード帝国・クスデート辺境伯領」を治める「トモフミ家」の祖先、友史洋二郎大佐が艦長を勤め(第4部第5章)、そして偶然此処へ流れ着いた「あかぎ」の船員たちが、世界を救う為に500年の時を越えて起動させた飛行戦艦「扶桑」であった。


「あれが誰かに見つかった・・・? 不味いわね」


 女性は親指の爪を噛んで、焦燥した表情を浮かべる。その時、彼女の耳元に淡い光が現れ、その光が彼女に何かを囁いた。


「・・・ニホン人が?」


 女性は目を見開いて驚く。同時に彼女は合点がいっていた。生粋のテラルス人にあの艦の操作が可能な筈は無い。その可能性があるとすれば、隔絶された科学文明を有する彼らしか居ない。地上へと続く大穴は「あかぎ」の船員たちが「扶桑」を上空へ脱出させる為、同艦の艦砲射撃でこじ開けたものだった。


「・・・!?」


 その時、彼女の耳にまた違う言葉が聞こえて来る。それは彼女が“神の使徒”となった時に聞こえて来たものと同じ、より高次元な世界に住まうとされる存在からの声、つまり“神”からの“指示”だった。


「あの星が近づいている・・・? となると・・・成る程、神様はそういう手に出る訳か。全てを還す気ね」


 程なくして高位の存在との交信が絶たれる。女性はため息を付くと、自身の周囲を浮遊していた淡い光、即ち、海に沈んだ船乗りたちの“霊魂”の群れに指示を出した。


「帰って早々申し訳ないけれど、幽霊艦隊・旗艦を出す。ニホン国へ向かう用意を!」


 女性の指示を受け、彼女に纏わり付いていた船乗りたちの霊魂が一気に散開する。


「ニホン政府に警告しなくては・・・今すぐに!」


 指示を出した女性も出航する船へ急ぐ。そして後日、この地下大空洞を根城にする“幽霊艦隊”の旗艦は、遠き東の国へ向かって出帆した。この艦隊を率いる彼女の名はジェラル=ガートロォナ、“最遠の魔女”とも“極北の魔女”とも呼ばれ、船乗りたちの間で語り次がれる伝説の存在であった(第2部第3章)。

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