極東国際法廷 壱
6月25日 日本国 東京都千代田区
「ラスカント」の敗北からおよそ4ヶ月以上が経過し、世界は復興に向けて動きつつある。日本と講和条約を結んだスレフェン連合王国は、その後、イスラフェア帝国とアラバンヌ帝国とも講和条約を結び、保有する軍事力の制限に加えて多額の賠償金を背負わされた挙げ句、王太子のエドワスタに対しては、「密伝衆」に最も近かった生き証人として、エルメランドに対する裁判へ証人としての出廷、並びに証拠品の提供を命ぜられることとなった。
そして日本では、ようやくエルメランドの末裔たちを裁く為の“国際法廷”を開催する目処が立ち、「検察庁」には各国から集まった検事たちが一同に会していた。今回の裁判に関わることが許されたのは、エルメランドによる直接被害を受けた日本国、アメリカ合衆国、イスラフェア帝国、クロスネルヤード帝国、ヨハン共和国、アテリカ帝国、エフェロイ共和国、レーバメノ連邦、ショーテーリア=サン帝国、アルティーア帝国の10カ国である。
「ようこそお越しくださいました。此処にいらっしゃるのは皆さん、我が国の法体系、そして提唱されて間も無い『国際人道法』に精通されている方々かと存じます。今回の会合では今後の日程、そして裁判の規程について今一度確認しようと思います」
会議室に集った各国の検事に向かって、最高検察庁の次長検事を勤める中岡善司が挨拶をする。その場に居る全員が彼の言葉に注目していた。
「この世界を恐怖に陥れた者たちは既に我が国の手中に堕ちており、送検と起訴を終えて、あとは裁判を受けるのみとなっています。罪状は“人道に反する罪”と“集団殺害犯罪”、“戦争犯罪”の3つ、彼らは国家を名乗っていましたが、我々は彼らを国と認めない為、国による国際法違反について定めている“侵略犯罪”については問いません」
「シャルハイド帝国」に対する裁判ついては、日本国内での刑法で裁くか、それとも国際法で裁くか、日本国内で激しい議論が行われた。そして「今回の案件は多数の国々を巻き込んだ国際的な案件であり、各国の要請を受けて国際法廷という形式で裁判が行われることが決定した以上、日本国内でのみ適応される刑法を用いることは不適当」という弁護団の指摘、さらには「日本国内での刑法で裁く場合、日本国外での非人道的行為について追及出来なくなり、弁護側に隙を与えかねない」という検察団の指摘、加えて日本国の刑法と比較して他国の検察官・判事にも分かり易いだろうという観点から、「国際人道法」の重大な違反行為を審判する、地球の「国際刑事裁判所」で用いられる「ローマ規程」が、今回の裁判における管轄犯罪として定められることとなった。一方で適用される刑罰については、拘禁刑と終身刑のみを言い渡す国際刑事裁判所とは異なり、死刑と懲役刑が設けられている。
また「国際人道法」については、2038年以前に日本政府が世界に向けてその概念を発布しており、極東海洋諸国連合、アルティーア帝国、ノーザロイア各国は既にそれに関する諸条約を批准済みである為、極東国際軍事裁判の様に「遡及裁判である」という批判は当たらない。
「刑罰は“死刑”を最高刑とし、その他に“禁錮刑”、“懲役刑”を規定しています。ですが首領の5名については、にわかには信じがたいですが・・・エルメランドにて創造された人智を越える魔法によって不老不死の身体になっている為、有期限の禁錮刑・懲役刑はさしたる罰にならず、まして終身刑も執行不可な為、勿論その罪状の重大さも鑑みて、死刑を求刑するのが妥当かと思われます」
中岡はルヴァン、ミャウダー、ルガール、ヒス、キルルの5人に死刑を求刑することを告げる。それは彼らの総意として決まっていたことであり、誰も異を唱えることはない。
「ミャウダー、ルガール、ヒス、キルル・・・四幹部と呼ばれていた彼らについては、末端構成員から聴取した証言、スレフェン連合王国が提供した物証からもその罪状が明らかですし、恐らく問題は無いでしょう。懸念があるとすれば、彼らの王であるルヴァン=プロムシューノ・・・これもにわかに信じられないですが、彼女は“都市円盤”が飛び立つまであの円盤の中で1500年に渡る長期の休眠状態だったらしく、それ以前の・・・例えばソウ人に対する非人道的行為については彼女の意思が介在していない可能性が高く、円盤の指揮も四幹部が執っていたことが末端構成員からの聴取より明らかになっています」
今回の裁判における最大の懸念は、シャルハイドの王である筈のルヴァンが今回の事件において主立ったことを何もしていないことであった。
「彼女の立ち位置については中々面倒なものがありますが・・・まあ、そもそも彼女らは国際法に定められる戦闘員の規定を満たしていないので、敵戦闘員の殺害は免責にならず、自衛隊員の殺害で罪に問うことが出来るでしょう。後は弁護側の主張次第です」
中岡はここまで話したところで、聴衆の様子を見渡した。
「何か質問はございますか? ・・・無ければこれで説明会を終了させて頂きます」
彼はそう言うと聴衆に向かって一礼する。その後、会議は解散となり、彼らは翌日の初公判に向けて最後の準備を行う。
・・・
東京都千代田区 中央合同庁舎第6号館 法務省 会議室
ちょうど同じ時刻、法務省の会議室に各国から集まった判事たちが一同に会していた。
「いよいよ明日は初公判です。裁判は常に公正であり、勝者が敗者を弾劾する為のものではありません。くれぐれも中立の立場を心がける様にお願いします」
判事団の裁判長である笹淵詠明は、各国から集まった9人の判事たちに向けて裁判における注意を述べる。裁判官は中立でなければならず、今回の事件については裁判が始まるまで何も知らないというスタンスで臨まなければならない。
「尚、刑が確定した罪人たちについては、日本政府は各国の求めに応じて引き渡しを行う用意がある様です。そうなった場合は各国政府は責任を持って彼らへの処罰を遂行することを望みます」
エルメランドの生き残りたちは、このテラルスの人々にとって世界を滅ぼそうとした悪魔の様な存在であり、その断罪を望む各国の政府からは、被告人の一部を引き渡して欲しいという要求が日本政府へ度々届けられていた。
「それは無論です」
ショーテリア=サン帝国から派遣された判事が、笹淵の言葉に頷いた。国際法廷の開廷は日本時間で明日の午前11時、世界各国がこの裁判の行く末を注視しており、エルメランドの亡霊たちに裁きが下る時を今か今かと待っていた。
〜〜〜〜〜
6月26日 最高裁判所 大法廷
日本国には国を統治する権力が3つに分割されて存在する。その1つが内閣の「行政権」、もう1つが国会の「立法権」、そして最後の1つが「司法権」だ。その司法権の最高機関が「最高裁判所」であり、違憲立法審査権を持つ唯一の機関である。
そして今、最高裁判所の“大法廷”に数多の人々が集まっている。各国の裁判官たちが座るであろう法壇の真下に、2人の書記官が座っており、左側に弁護団、右側に検察団が既に着席していた。法壇の前には本来なら無いはずの証人台が設置されており、そして傍聴席には数多の報道陣が詰めかけている。傍聴席の前には11名の被告人たちが座る椅子が用意されていた。
“大法廷”は本来であれば、違憲判決などの重大案件を扱う際に開廷される。今回は世界全体を相手に行われた重大犯罪を扱う案件であること、そして何よりキャパシティの問題から、この大法廷が使われることになっていた。
開廷3分前、傍聴席の報道陣が少しだけざわめき立つ。手錠と腰縄で拘束された11名の被告人たちが刑務官と共に入廷して来たのだ。彼らは被告人席に着席すると、刑務官によって手錠と腰縄が取り外される。その後、法壇の真後ろにある扉から15名の裁判官が入廷してきた。それを合図に場内に居る全員が起立し、一礼する。
「・・・20年6月26日午前11時、本日を以て『極東国際法廷』を開廷します」
判事団が着席した後、裁判長を勤める笹淵が「極東国際法廷」開廷を宣言した。斯くして、1500年の時を越えて勃発した“星間戦争”への裁きが開始されたのだ。今回の裁判は各国からの要請を受けて特例として撮影が許可されており、被告人や法壇に向かって数多のフラッシュライトが焚かれている。
「被告人は右から本名、生年月日、出身地と現住所を述べてください」
裁判は裁判長による“人定質問”から始まる。裁判官が被告人の身元を確認する為のものだ。本来は本籍地を問うのだが、今回はその代替として出身地を問うている。裁判長からの指示を受けた被告人団は、1番右側に座っていたルヴァンから順番に答えていく。
「私の名はルヴァン=プロムシューノ、生年月日はこの国で使用されている暦(西暦)で524年1月9日、出身地は『エルメランド星』の『ルジャーナ大陸』西部に位置する『シャルハイド帝国』の首都ラクスマン、現住所は・・・スレフェン連合王国の首都ローディムです」
ザワッ!!
ルヴァンの口調と言動の様子は、普段部下たちに見せていた不敵な態度とは大きく異なり、周囲に控えめで潮らしい印象を与えるものだった。西暦524年生まれと答えた彼女の言葉に、傍聴席は大きくざわめく。
「静粛に・・・!」
裁判長の笹淵が声を張り上げる。傍聴席が静かになったところで、今度はミャウダーが口を開いた。
「ファウスト=アレストニー、生年月日は西暦509年7月14日、出身地は・・・」
彼はルヴァンが答えたことと同じことを答えていく。その後はおよそ10分を掛けて、11名の被告人全てが人定質問に答えていった。
「貴方方は『起訴状』の内容を読まれましたか? また、右から答えてください」
笹淵裁判長が再び質問を振る。起訴状については弁護人から裁判前に読んでおくように言われていた為、全員が「はい」と答えた。その後、検察側による起訴状朗読が始まる。
「ルヴァン=プロムシューノ・・・以下『シャルハイド帝国』を名乗る集団の構成員である11名の被告人は、西暦2038年1月18日、スレフェン連合王国の首都ローディムの地下にて、太古に建造された重武装を有する惑星間航行移民船を起動し、このテラルス星に住まう者たちに対する明確な破壊、蹂躙、そして虐殺を目的として行動を開始しました。同年1月21日、彼らは民間人の被害を省みずに、イスラフェア帝国西部の港街であるフェニア市を壊滅させ、その翌日には同国首都のエスラレムに加えてロッドピース市とカナール市を、24日にはクロスネルヤード帝国に上陸し、クスデート市を壊滅させました。さらに・・・」
検察団の主席検察官である中岡善司が、起訴状に書かれた内容を読み上げていく。起訴状には被告人の名前、事件の日時・概要、それによって抵触する法律の名前が書かれており、エルメランドの悪行の数々がその場に居る全員に伝えられていた。
「・・・よって、『国際刑事裁判所ローマ規程』第6条と第7条、及び第8条、すなわち“集団殺害犯罪”と“人道に反する罪”、“戦争犯罪”に基づいて被告人を起訴するものとします」
中岡は起訴状を読み終えると席に着く。その直後、裁判長の笹淵が口を開いた。
「日本国憲法第38条に基づき、被告人には言いたくないことは口にしない黙秘権が保障されています。また法廷内での発言はすべて記録され、証拠物としての効力を持つので発言には注意してください」
「!」
彼は“黙秘権”について説明する。黙秘権については彼らも既に弁護人から聞かされていて、その存在を知っていたのだが、被告人が利する為の制度が存在することに半信半疑であった彼らは、裁判長が黙秘権について口にしたことを驚いていた。
「今述べられた起訴内容について、何か間違いはありますか? 被告人はまた右の方から答えてください」
笹淵は起訴の内容の認否について尋ねる。被告人席の1番右に座るルヴァンは少し間を置いてから言葉を発した。
「・・・一部誤りがあります。確かに私はあの艦に乗っていましたが、私はあくまで部下から状況の説明と予定を聞いて、見ていた“だけ”、私自身がテラルス人やニホン国への攻撃を直接命じた事実は無く、“集団殺害犯罪”と“人道に反する罪”の全て、“戦争犯罪”の一部に対して異議があります」
「!」
シャルハイドの王は掛けられた容疑を真っ向から否定する。彼女の言葉で国際法廷は否認裁判としての様相を呈すことになった。他の10名についてはルヴァンの様に起訴内容のほとんどを否認することは無かったが、わずかでも減刑を目指す彼らは起訴状の一部一部に異を唱えた。
罪状認否の確認が終わった後、裁判は検察側の冒頭陳述へと移る。起訴状に書かれた罪状について、被告人の人格や背景まで含めて詳しく説明する為のものだ。
「被告人11名の内、女王を名乗ったルヴァン=プロムシューノと、その直下の幹部を成すファウスト=アレストニー、ルガール=メジル、ヒス=オルストラ、キルル=メルトウォーカーの5名は、このテラルスの二重惑星である“エルメランド星”、我々が一般に月と呼ぶ星にて出生しました。エルメランドはかつて高度に発達した魔法文明が栄え、21世紀の地球をも遙かに超える文明水準を有していました。信じがたいことに、エルメランド人は“不老不死の魔法”すらも生み出しており、それが彼女らが現代まで生き続けている理由です。他6名についてはテラルスで出生したエルメランド人の末裔ということになります。しかし、その栄華を誇った文明は1500年前の大戦争で滅び、そのわずかな生き残りが『ラスカント』を含む4機の都市円盤に乗って、この星へ移住して来たのです」
冒頭陳述は被告人たちの背景についての説明から始まる。検察団の代表である中岡は分厚い書類束を片手に、その内容を滔々と語り続ける。
「エルメランドの文明は地球を遙かに超越していましたが、その実態は、被差別対象であった亜人種の多くを“魔力生成場”と呼ばれる施設に収容・拘束し、彼らの体内に内包される魔力をその命が尽きるまで延々と搾取することで成り立つ、非人道的な構造によって成り立っており、人々の倫理観は崩壊していました。自分たち以外の種族をサルと見下し、それはテラルス人や我々日本人に対しても例外でななく、その当時・・・テラルスへ向かっていたシャルハイド帝国の上層部には、テラルスに対する明確な侵略の意思がありました。しかし、円盤内部で戦いを望まない平民たちによる反乱が起こり、彼らの野望は頓挫することになります・・・」
中岡はエルメランドに栄えた文明の非人道性に言及し、彼らがテラルスへの侵略意思を持ってこの星へ来たこと、そして1500年もの間、その野望を持ち続けてアラバンヌ帝国やスレフェン連合王国に身を潜めていたこと、そして2038年1月18日、ついに彼らがその野望を行動へ移し、レーバメノ連邦で宣戦布告を行ったことを、時系列に沿って説明する。
「・・・被告人らによる蛮行は、全世界で3000万人に昇る死者を出し、日本人に限っても11,981名の犠牲者を出しました。人を人とも思わない倫理観によって行われた世界への破壊行為は、都市への攻撃、すなわち民間人に対する虐殺を主として行われた非常に悪質かつ残虐なものであり、情状酌量の余地は一切存在し得ないものと思われます」
中岡は被告人から聴取した言葉をまとめた供述調書や、沈没した「ラスカント」の内部で撮られた写真などを示しながら、ルヴァンやミャウダーらが如何に悪魔的な人格を有していたのかを語る。すでに死刑になることを確信していたミャウダーは項垂れるばかりであり、他の者たちも生気を失った表情を浮かべていた。
だがたった1人、ルヴァンだけは凛とした表情で裁判長を見つめていた。冒頭陳述を終えた中岡が席に着いた後、今度は弁護側による冒頭陳述が始まる。
「『ラスカント』が世界各地の都市を破壊し、多くの犠牲者を出した事実については否定致しません。ですがエルメランドという星の倫理観について、これを現代日本の価値観で断ずる検察側の主張には無理があります。かつての欧米列強が東南アジアやアフリカで行った植民地支配を今更断罪することが出来ない様に、エルメランドの価値観に染まって育った彼ら・・・特にエルメランドで生まれ育った5名については、その価値観を現代日本の価値観で断罪することは不適当なのです」
弁護団の代表を務める篠原佑介は立ち上がると、検察側が言及したエルメランド人の倫理観について持論を展開する。彼は別の惑星の生まれである彼女らの倫理観を、現代日本の価値観で断罪することへの妥当性を問うたのだ。
「また・・・特にルヴァン氏に関して言えば、先程の本人の弁にもあった様に、彼女自身がテラルスへの攻撃を指示した事実は存在しません。それについては、検察側が有している供述調書からも”彼女が直接戦闘を指揮した”という言葉は確認出来ないと思いますよ。確かに世界への宣戦布告と降伏勧告を行ったのは彼女ですが、彼女は密伝衆にとって象徴的存在でしかないのです」
冒頭陳述を終えた篠原は席に着く。両者の冒頭陳述が終わった後、裁判は証拠調べへと移る。裁判の立証責任は検察側にある為、検察は証拠物や証拠書類を以て被告人の罪を立証しなければならない。だが、被告人や被害者、目撃者などが語ったことを書き留めた供述調書から成る証拠書類については、弁護側が証拠として扱うことに不同意し、その提出を却下することが出来る。刑事事件における裁判は第三者からの伝聞を信用しないからだ。その場合は証人を呼んで論戦を挑むことになる。
そして今回の裁判においても、当然ながら弁護団は証拠書類の提出については不同意を表明した。検察は始めに証拠物の説明から行う。
「・・・まず此方をご覧下さい」
中岡はそう言うと部下の検察官に指示を出し、法壇に設置された画面、そして壁に設置されたスクリーンに写真を映し出す。それは沈没した「ラスカント」の艦内で撮影された“機関・動力区画”の写真であった。
「これは艦内の動力区画に拘束されていた『ソウ人』の姿を捉えたものです。エルメランドの文明が人命を食って栄えていたのと同じく、都市円盤の内部にも動力源として推定20万のソウ帝国人が拘束され、搾取されていたことを示す決定的な証拠になります」
中岡は「ラスカント」の動力源が人命であったこと、その為に数多のソウ人が犠牲になったことを説明する。
「この事実だけでも、“集団殺害犯罪”、“人道に対する犯罪”における殺人、奴隷化、住民の強制移送、身体的な自由の著しい剥奪、または“戦争犯罪”の諸項目に該当し、悪質きわまるものです」
検察側が提示した写真を見て、傍聴席のギャラリーたちがざわついた。吐き気を催すほどの非人道的な所業が、そこには映し出されていた。
「また・・・弁護側が主張する、今回の戦いにおけるルヴァン氏の関与の是非についてですが、世界魔法逓信社による報道、及び飛行戦艦『扶桑』の乗組員の証言により、世界への宣戦布告、及び降伏勧告を行ったという事実は確固として存在し、彼女が主導的立場に立っていた事実は否定出来ません。また、円盤内に潜伏していた特殊作戦群の隊員の排除を命令したと、他の被告人数名より聴取が取れており、彼女が単なる象徴的存在ではなく、命令を下せる立場に居たことは明白です。彼女にテラルス侵略の意図が無ければ、その一言で都市円盤の進軍を止めることも出来た筈です。それを行わず、傍観に徹したことは、彼女が幹部たちと同じく、テラルス人の蹂躙を望む共犯者であった何よりの状況証拠であると考えます」
検察は物的証拠を示しながら、密伝衆の残虐性と異常性、そしてルヴァンが今回の件に密接に関わっていたことを述べる。
「では・・・此処で証人の召喚を行いたいと思います。宜しいでしょうか、裁判長?」
「・・・」
いくつかの証拠物を提示した後、中岡は証人の召喚を打診する。裁判長の笹淵は無言のまま頷くと、傍聴席の最前列に向かって呼びかけた。
「証人は中に入って証言台の前に立ってください」
彼の言葉に反応して1人の異国人が席を立つ。再び数多のフラッシュライトが焚かれる中、彼は法壇の真正面に設置された証言台の上に立った。
「証人は名前と身分、生年月日を言った後、台の上の紙を取って、それを自分の声で読んでください」
証言台に立ったその男に向かって、笹淵はさらなる指示を出す。彼は台の上に置かれた紙を手に取ると、笹淵の目を見ながら口を開いた。
「スレフェン連合王国王太子、エドワスタ=テュダーノヴと申します。生年月日はスレフェン歴911年2月11日です。私は良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
「!!」
証人として呼ばれた男は、かつて密伝衆と手を組んで西方世界を戦乱に陥れたスレフェン連合王国の王太子であった。予想外の人物の登場に対して、傍聴席が再び大きくざわついた。




