36年振りの悪夢 壱
第一話本公開しました。
2037年9月11日未明 セーレン島 セーレン王国 首都シオン郊外 飛行場付近
周辺海域の哨戒飛行を終えた「オライオン」が、この国の新たな首都となったシオン市の内陸部にある飛行場へと着陸する。半世紀を超える運用期間を誇った世界的ベストセラー機であるオライオンも、今は新たな哨戒機である「P−1」への更新が進み、日本が現在も運用しているのは後期に調達された数機を残すのみとなっていた。
そんな哨戒機の姿を見つめる不穏な人影がある。赤茶けたマントで顔を隠している彼らは、憎しみに満ちた目をオライオンに向けていた。
「忌々しきニホン軍め! ようやく一泡吹かせてやる事が出来る!」
その中の1人である中年の男が、セーレン王国に拠点を構えている自衛隊への憎しみを吐露する。彼の名はセシリー=リンバス、かつて若くしてセーレン王国の将軍だった男だが、アルティーア帝国による占領下からこの国を救い出した大恩人である筈の自衛隊の指揮官に対し、公衆の面前で無礼を働いたことを問題にされ、軍から除籍されてしまったという過去を持つ人物である。
その他、彼の回りには彼の思想に同調する反日運動家たちの姿があった。首都の郊外に巨大な基地を築き、我が物顔で自国に駐留し、セーレン王国軍の立場を無くしている自衛隊の存在を、彼らは疎ましく思っていた。
セシリーたちの手には、円筒状の物体が握られている。彼らはそれの一端を着陸したばかりのオライオンへと向けた。
「食らえ・・・これが我らの怒りだ!」
彼らは理不尽な怒りを円筒に込める。セシリーたちの魔力が送られたその瞬間、オライオンに向けられた円筒の先から眩い熱線が放たれた。それは真っ直ぐ、移動中の哨戒機へと向かって行った。
・・・
飛行場内 滑走路
哨戒飛行を終えたオライオンは、基地の整備員の先導によって格納庫に誘導されていた。その時、隊員たちは基地の敷地外から眩い光が放たれたことに気付く。その光の筋は、誘導中のオライオンに命中した。
ドカアァ・・・ン!!
その刹那、着陸したばかりであるオライオンの右翼が、突如として爆発した。
「な、何だ!?」
基地、そして周辺地域に爆発音が響き渡り、爆炎による紅い光が基地内の建物を照らしている。隊員たちは突然の事態に騒然としていた。燃料に引火してしまったのか、爆発したオライオンの右翼からは炎が勢いよく上がっている。
在セーレン王国シオン基地 司令部
司令室にて執務を行っていた基地司令の大葉条祐一等海佐/大佐は、突如として窓を震えさせた爆発音に驚き、数人の部下と共にすぐに建物の外へと出る。彼らの視線の先には、煌々と燃える哨戒機の姿があった。
「何があった!? 取り敢えずすぐに火を消せ!」
「はっ! すでに消防車を出動させています!」
司令の命令を受けた隊員の1人は、敬礼しながら現在の状況を伝える。その数秒後、真っ赤な色をした化学消防車が2台現れた。それらは炎上中のオライオンに向かって、ノズルの先から大量の水を勢いよく噴き出す。
火災は程なくして鎮火され、その後には一部の機体が黒こげになったオライオンが残っていた。
「・・・一体、何だったんだ? 整備不良か?」
燃える機からの脱出を果たしていた機長の多田光男三等海佐/少佐は、先程まで自分たちが乗っていたオライオンを見つめながら、ただただ首を傾げていた。
・・・
首都シオン郊外 飛行場付近
基地の回りでは、爆発音を聞きつけた付近の住民たちが野次馬となって集まっていた。彼らはフェンス越しに火災と鎮火の様子を眺めている。
「おい! こっちこっち!」
「待ってくれ!」
野次馬の中に加わろうと、付近の農家から飛び出して来た2人の少年が、現場が見える場所に向かって走っていた。程なくして2人は人だかりを見つけ、そちらに向かって脚を進める。
「わたっ!」
「げっ!」
その途中、2人は何かに躓き、ほぼ同時に地面の上に倒れ込んだ。碌な灯りが無かった故に足下へ注意が向かなかったのだ。
「痛いなぁ〜・・・! 何なんだ・・・よ?」
少年の1人が悪態をつきながら立ち上がり、自分たちを転ばしたのが何なのかを見る。しかしその瞬間、彼は腰を抜かしてしまった。
「・・・えっ!?」
「ひいっ・・・!!」
もう1人の少年も、予想外の出来事に驚く。彼らが躓いたものの正体、それは数人の男たちの死体だったのだ。
まるで生前の姿をそのまま固めたかの様に、目を見開いているそれらの死体を見て、2人の少年は震え上がる。特に外傷も無ければ腐ってもおらず、つい先程死んだばかりの様に見える。
「・・・? 何だろう、これは?」
その時、少年の1人があることに気付いた。その場に転がっている死体の右手には、もれなく“円筒状の物体“が握られていたのである。夜中である為に分かりにくいが、その一端からは硝煙の様な白い煙が漂っていた。
翌日、基地に勤務する警務分遣隊が、この「哨戒機爆発事件」について詳しい調査を開始した結果、爆発が起こった時に滑走路に居た全ての隊員から、「奇妙な光の筋がまるでレーザーの様にオライオンの右翼に命中し、その直後に爆発が起こった」という証言が続出した。
その後、調査を続けていた警務分遣隊は、基地周辺で奇妙な変死を遂げている数人の男たちの遺体を発見する。彼らはその中の1人に、セーレン王国内における反日派の筆頭であるセシリー=リンバスの姿があることを確認し、さらには彼らが全員、謎の“円筒状の物体”を握っていることを発見した。
その事実を知った基地司令の大葉一佐は、哨戒機が何らかの攻撃を受けた可能性があると判断し、事件の詳細を防衛省へ報告した。さらに彼は、遺体が握っていたという円筒の正体が何らの魔法道具である可能性を考慮し、すぐさまそれらを日本本土にある「国立魔法研究所」へと送り届けたのだった。
〜〜〜〜〜
同日 午前7時00分 千葉県南房総市 峯岡山分屯基地
遠き海外の駐屯基地で、テロと疑わしき事件が起こった日の朝、日本の空を護る重要拠点の1つである「峯岡山分屯基地」では、この日も、レーダー装置である「J/FPS-4」を用いて周辺空域の監視を行っていた。この様な「レーダーサイト」と呼ばれる施設は日本各地に存在しており、日本の領空に近づく不明機を日夜監視しているのだ。
かつて、日本国が地球にあった頃は、主にロシアと中国から飛来する不明機への対処を行うことが多く、酷い場合には単純計算で1日に3回以上のスクランブル発進が行われた年もあった。だがこのテラルスに転移して以降、彼らの主任務は時折日本の上空に近づく野生種の龍や巨大鳥などへの対処へと変わっていた。加えて、それも1ヶ月に1回あるか無いかの回数であった為、警戒管制は“空自で1番暇な職域”とさえ言われるまでになっていたのである。
そして今日この日、此処、峯岡山分屯基地に設置されているレーダーサイトに、1つの巨大な影が映り込んでいた。第44警戒隊の監視小隊に所属する小松奈々空曹長は、久々の仕事に驚きながら、その情報を基地内へと伝達する。
「方位130、距離約940km、高度約8千フィートの上空に不明機発見」
「不明機・・・速度は?」
「およそ時速200km、巨大飛行鳥獣かと思われますが詳細不明。首都圏方向に向かって進行中です」
監視小隊の隊長からの問いかけに、小松空曹長は端的に答えた。
この1時間半後、レーダーに映った飛行物体は進路を変えず、日本国の識別防空圏内へと侵入する可能性が高まった為、第44警戒隊隊長の森脇佐吉二等空佐/中佐の判断によって、この事は関東地方の各地に点在する空港と、その上空を飛んでいる全旅客機へと伝えられた。また、航空自衛隊の戦闘機部隊が駐屯している「百里飛行場」に、スクランブル発進の用意が命じられたのである。
・・・
午前9時02分 茨城県小美玉市 百里飛行場(茨城空港)
埼玉県の「入間基地」からスクランブル発進の命令を受けた百里飛行場では、第3飛行隊に属する2機のF−2A戦闘機が離陸の準備を進めていた。整備員や管制塔の誘導を受けて滑走路へ入ったそれらの機に乗るパイロットの下へ、管制塔からの通信が入る。
『GLORI 01, Order Heading 150, Climbing Flight level 80, Contact Channel 01, Read back.』
「GLORI 01, Heading 150, Climbing Flight level 80, Contact Channel 01.」
『GLORI 01, Read back is correct. Wind calm, Runway 01 Clear for take off.』
「Copy. Cleared for take off.」
管制塔からの離陸許可を受けたF−2A戦闘機が、一気に加速を始める。炎が灯ったジェットエンジンの力で空へ飛び立つその勇姿を、管制塔の職員たちは穏やかな感情で見つめていた。この基地からスクランブル発進が行われるのは、実に1ヶ月振りのことである。
・・・
午前9時32分 房総半島から南東へ440kmの上空
百里飛行場から遙か高空へと飛び立った2機のF−2戦闘機は、未確認飛行物体が現れたという南東方向に向かって飛行していた。そして数十分後、目標とする物体が彼らの視界に現れる。
「目視確認。高度8千フィート、未確認飛行物体は“野生の龍”であることを確認」
F−2を駆るパイロットの1人である間深宗也三等空尉/少尉が、無線を通して入間基地の中部航空警戒管制団中部防空管制群へ報告をする。無線の向こう側では、防空管制隊の隊長である縣薫二等空佐/中佐が、F−2からの連絡を待っていた。
『龍・・・久しぶりだな、何時も通り上手く挑発して防空識別圏外に誘導してくれ』
「了解」
地上の基地からの司令を受けた間深三尉は、操縦桿を倒して野生龍の視界へと近づく。
因みに、野生の龍が地上まで降りて、人間の街を襲うことは滅多にない。だが、航空自衛隊では念の為に、野生の龍が日本の領空に侵入しようとしている場合には、防空識別圏外まで誘導するという決まりになっていた。具体的には、戦闘機に興味を持たせて、そのまま日本の空から離れたところまで上手く連れて来られたら、一気に龍の視界外へと逃げるのだ。
大抵の場合はそれで上手く行くのだが、たまに戦闘機に興味を持たず、日本上空を横断しようとする時がある。その場合には、付近の自治体に警告を出した上で日本の領空を出るところまで随伴し、一定の高さ以下に飛行高度を落とした場合には、撃墜することになっていた。
野生の龍に対して下手に手を出すと、その龍が帰って来ないことに気付いた仲間の野生龍が報復しに来ることがある為、撃墜はあくまで最終手段という位置づけになっているのだ。
(興味を示さないな・・・)
間深三尉は操縦桿を左右に振りながら、F−2戦闘機の機体を龍の視界にちらつかせる。だが、野生龍はF−2に目も暮れず、首都圏方向に向かって一直線に飛行を続けていた。
「龍は依然変わらず、東京方面に向かって飛行を継続。進路を変更する素振りは無い」
間深三尉は無線を通じて、地上の防空管制隊に現状報告を入れる。
『了解、参ったな・・・寄りによって首都圏上空に接近とは。高度を落とす様子はあるか?』
「いえ、ありません。撃墜しますか?」
『いや・・・監視を継続せよ。降下する素振りがないのならば、恐らくそのまま北へ抜けるだろう』
「了解」
監視継続の指示を受けたところで、防空指令所との通信が切れる。百里飛行場から飛び立った2機のF−2戦闘機は、東京の上空へと向かう野生龍の両脇に張り付きながら、それの監視を続けることになった。
・・・
午前9時47分 千葉県南房総市 峯岡山分屯基地
東京の上空へと向かっているという野生龍が現れたことで、この峯岡山分屯基地は数ヶ月ぶりに緊張した雰囲気に包まれていた。レーダーには相変わらず東京方面へと向かう野生の龍と、その龍を監視している2機のF−2の影が映り込んでいる。
その時、レーダーを監視していた監視小隊の小松空曹長は、東の空から高速で近づく不審な影の群れに気付いた。
「方位073、距離約820km、高度3万フィートの上空に多数の不明機発見!」
突如として現れた新たなる未確認飛行物体、監視小隊の隊員たちは、すぐにそれが野生鳥獣の類では無いことを悟る。3万フィートと言えば9kmを超える高度であり、一般に鳥類が飛行する高度では無かったからだ。
「速度は約時速740km! 首都圏方面へ接近!」
飛行速度も生物の限界値を遙かに超えている。いよいよただ事では無いと確信した第44警戒隊隊長の森脇二等空佐は、すぐに中部航空警戒管制団の司令部がある入間基地へ、迫っている事態について報告を入れた。
「峯岡山分屯基地から入間基地へ! 東より多数の未確認飛行物体接近! 明らかに人工物の類である、早急に対処を!」
・・・
午前10時12分 房総半島より南東へ330kmの上空
東の空から不明機の群れが近づいていることが判明し、入間基地から更なる戦闘機の発進要請を受けた百里飛行場では、第3飛行隊に属するF−2戦闘機20機が、次々と滑走路に現れていた。後部のエンジンに炎が灯ったものから、続々と大空へ飛び立って行く。彼らの目的地は勿論、謎の飛行物体の群れが現れたという東の空である。
加えて、野生龍の監視に当たっていた2機のF−2にも、こちらの対処へ当たる様に指示が入った。龍の監視を行っていたパイロットの間深三尉は、基地からの命令に首を傾げる。
「いいんですか? このまま監視は続けた方が・・・」
『1機でも人手が欲しい! 頼むからそちらへ行ってくれ! 野生龍については万が一の場合、第1高射群で対処する!』
「・・・了解!」
無線の向こう側から聞こえる声色を聞いて、事態の深刻さを悟った間深三尉は操縦桿を傾ける。斯くして、龍の監視を行っていた2機のF−2は、龍への対処を地上の高射群に任せてその場を離れ、不明機の群れが近づいているという九十九里浜の沖合へと向かって行った。
・・・
午前10時35分 九十九里浜から東へ約270kmの上空
20分後、本来の任務から離脱した2機のF−2戦闘機が本隊である第3飛行隊と合流し、彼らは目的の空域へと到着する。加えて浜松基地から、第602飛行隊に属する早期警戒管制機「E−767」が飛来しており、各機の管制を行っていた。
『間も無く会敵、全機警戒を厳とせよ!』
機体上部に鎮座するレドームを回転させながら周辺空域の監視を行うE−767から、無線を介して各機に命令が伝えられる。数十秒後、不明機の群れが遂にパイロットたちの視界に捉えられた。
「な、何だあれは!?」
第3飛行隊の隊長機を操る波留島義朝二等空佐/中佐は、敵の姿を見て驚きを隠せなかった。そこに居たのは龍でも鳥でも無く、“黒い円盤状の飛行物体”だったからだ。
「まさか・・・UFO!?」
そのフォルムは、SF映画で見る様な円盤そのものだった。呆気にとられていた波留島二佐は気を取り直すと、無線を通じて入間基地へと報告を入れる。
「目視確認! 不明機は“空飛ぶ円盤”だ!」
『・・・え、何を言ってる』
無線の向こう側にいる防空指令所の隊員は、余りにも突飛な言葉を聞いて思考が止まってしまった。
「そのまんまの意味だ! まるでイン・・・」
きょとんとする防空指令所の隊員に向かって、波留島二佐は説明を続けようとする。だがその時、円盤の中の1機が緑色のビームを放った。
「・・・なっ!?」
それは回避する間も無く、1機のF−2の左翼に命中した。その数秒後、F−2の機体は爆発四散して落ちて行った。パイロットは爆発直前に脱出しており、パラシュートで落下速度を減らされながら、海へとゆっくり落ちて行く。
「グローリ12が被弾した! パイロットは脱出、回収頼む!」
『り、了解! 第3飛行隊、意のままに射撃せよ!』
波留島二佐は仲間の機が落とされたことを報告する。不明機の群れに敵意があることを知った防空管制隊隊長の縣二佐は、第3飛行隊の全機に向けて攻撃の許可を出す。
「正当防衛を開始する! 各機全武器使用自由!」
「了解!」
防空指令所からの攻撃許可を受けた波留島二佐は、全機に向けて武器使用の許可を布告する。各機のパイロットは正当防衛を行う為、ミサイルの発射装置へと指を伸ばした。
「グローリ1、発射!」
「グローリ3、発射!」
「グローリ7、発射!」
各機の翼から04式空対空誘導弾が発射される。赤外線画像誘導で飛ぶそれらの短距離空対空ミサイルは、一直線に謎の円盤の群れへと飛んで行った。
ド ド ド ド ドーン!
04式空対空誘導弾は一発も外れることなく、敵機計18機に命中する。だが、ミサイルの爆発は目に見えない壁によって阻まれ、敵機の群れは爆発の勢いで大きく仰け反っただけだったのだ。
「・・・バ、バリア!?」
ミサイル攻撃を受け付けないその様子を見て、波留島二佐を初めとする各機のパイロットたちは驚きを隠せない。動揺している彼らに対して、円盤の群れは反撃を繰り広げる。先程1機のF−2を撃墜したビームの発射口らしき箇所が、微かに緑色に光り始めたのだ。
「全機回避!!」
「・・・!!」
隊長である波留島二佐の命令を受けて、第3飛行隊の各機は散り散りになって飛び回り始める。その直後、先程まで彼らが居た場所に向けて数多のビームが放たれる。間一髪のタイミングで被撃墜を回避した第3飛行隊は、ミサイル第2射撃の準備へと入る。
「グローリ1、発射!」
「グローリ7、発射!」
「グローリ20、発射!」
各機の翼から04式空対空誘導弾が再び発射される。それらは横一列の群れとなって、円盤へと向かって行った。
・・・
午前11時45分 東京都・千代田区 常盤橋セントラルタワービル
不明機の軍団が突如として東の空に現れたことを受けて、日本政府は「緊急事態」であることを国民に発表した。街を行き交う人々は、街頭テレビに映る宮島龍雄内閣官房長官の顔を凝視している。
そして此処、日本一高い高層ビルである「常盤橋セントラルタワービル」B棟のオフィスで働く人々も、突如として降りかかった国防危機を伝える知らせに釘付けになっていた。
『千葉県九十九里浜沖に突如として出現した円盤状の不明機群についてですが、現在、航空自衛隊百里基地の第3飛行隊と三沢基地の第302飛行隊が対処に当たっており、12機を撃墜しました。ですが此方にも5機の被撃墜が出ており、現在も交戦継続中で依然として予断は許しません。只今から読み上げる自治体の住民の方々は避難を開始してください。千葉県九十九里町、山武市、大綱白里町、白子町、長生町、一宮町、茂原市、睦沢町・・・』
官房長官の言うことには、今までで敵を12機落としたらしいが、此方も既に5機落とされたらしい。速度は向こうが数段劣っているのに、相手はミサイルを数発当てなければ破れないバリアを纏っているという。その為、2個飛行隊40機が対処に当たっているにも関わらず、かなり手こずっているらしいのだ。
「敵は何処の国だろう?」
「でもこの世界には、中国もロシアも朝鮮も・・・もう居ないんだぞ? こんな事が出来る国なんか、この世界にある筈ないぞ」
「円盤状ってことは、まさか・・・宇宙人とか」
「いや・・・まさかね」
この世界を席巻している日本経済の栄華の象徴で働くエリートリーマンやOLたちは、今の状況について各々の考えを口にする。
「そういえば・・・さっきは野生の龍が近づいて来たとか何とか言っていたけど、あれはどうなったんだろう」
あるリーマンがボソッと独り言を口にした。だが、その場に居る誰も彼も、テレビに夢中でそれに気付くことは無い。
この時・・・F−2戦闘機とF−35A戦闘機による円盤状飛行物体との空中戦という事態の前に霞み、国民、自衛隊、そして政府からも忘れ去られていた“野生龍”は、依然変わらず、刻一刻とこの東京へと近づいていたのである。