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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第4章 テラルスVSエルメランド
37/56

幕照上空会戦

今更ながら注意ですが、第4部(特に5章と6章)と第5部の間章を読み飛ばすと、第5部第3章以降の話は本当に訳が分からなくなります。第5部は基本的に1〜4部で布石や伏線が出て来ていたことばかり起こっているので、上記の範囲が未読の場合はご一読頂くことをお勧めします。

2月8日 日本国 東京 首相官邸


 核攻撃作戦の失敗後、日本へ帰還した首相の伊那波孝徳は、防衛大臣や幕僚長、JAXAの幹部を集めて小規模な会議を開いていた。


「・・・諸君の意見を聞かせてくれ」


 伊那波は力の無い声で参加者たちに意見を求める。重苦しい雰囲気の中、航空幕僚長の名岡彰伸空将/大将が先陣を切って口を開いた。


「半月前・・・スレフェンの首都であるローディムを覆ったバリア、恐らくあれ自体があの円盤のバリアだったのでしょうが、それに対して使用する予定だった『大型貫通爆(GBU-57)弾』を使用してみては・・・」


 彼はローディムが「ラスカント」の魔法防壁によって覆われた際にアイデアとして出た、大型貫通爆(GBU-57)弾の使用を進言する。

 大型貫通爆(GBU-57)弾とはコンクリートや盛土などの遮蔽物を貫通して、それらに覆われた目標を破壊する為の「地中貫通爆弾」と呼ばれる兵器の一種で、一般的に地中貫通爆弾、またはバンカーバスターと呼ばれる「GBU−28」を大きく凌ぐ威力と貫通力を誇るのだ。


「200ktの核爆発を防いだ盾に、今更大型貫通爆(GBU-57)弾が効くとは思えないが・・・。それに例えバリアを突破出来たとしても、そこから数百m落下した後にあの宇宙船の“外殻”そのものを貫かなければなりません。バリアを突破した時には貫通力を失って終いですよ」


 海上幕僚長の宇喜田大輝海将/大将は名岡空将の意見に異を唱える。例えバリアを破れても、その内側にある円盤本体にダメージを与えられなければ意味が無い。


「確かに・・・“シャルハイド帝国の末裔”と名乗る者たちの声明発表によって、あれがエルメランドから飛来した宇宙船であることが分かった今、円盤本体ですら、少なくとも内部から掛かる大気圧に耐え、さらに宇宙線や太陽フレアによる放射線や電磁波を完全に遮蔽する装甲を誇っている筈です」


 宇宙科学研究所(ISAS)所長の高杉蒼が捕捉を説明する。


「しかも・・・相手は150平方kmを超える広大な“面積”を持つ敵です。今現存する大型貫通爆(GBU-57)弾だけでは十分なダメージにはならないでしょう。例えるならば、25mプールにダーツの矢を振り下ろす様なもの・・・。地中貫通核爆弾である『B61』が有れば、再び試す価値は十分にあったでしょうが・・・そうは事が上手く運びませんねぇ」


 陸上幕僚長の秋山武史陸将/大将がさらなる懸念を告げる。要は現時点で日本国とアメリカ軍が所有する通常兵器で対応するには、円盤そのものが大きすぎるのだ。


「ですが我々が持ちうる手段であの装甲が破れるのかどうか、恐らく・・・コンクリートとか鋼鉄とか、我々が“装甲”という言葉を聞いて思い浮かべるものとは全く別の物質なんでしょう」


 統合幕僚長の長谷川誠海将/大将はそう言うと、大きなため息をついた。その後も国内における軍事の専門家たちが意見を出すが、それを封殺してしまう反論も次々と出てしまう為、一向に光明の兆しは見えなかった。


「ですが・・・私は降伏にはまだ反対です」


「・・・!」


 会議の雰囲気がさらに暗くなる中、防衛大臣の倉場が鋭い視線で参加者に訴える。彼はまだ抵抗の意思を失っていなかった。


〜〜〜〜〜


2月9日 アルティーア帝国 首都クステファイ 大議事堂


 ストラトフォ(B-52H)ートレスを出撃させた熱核弾頭による攻撃は、洋上で行われたということもあってテラルスの人々に露見することは無かった。だが、敵のバリアがそれを防いでしまったという事実は日本の首脳陣を深い絶望の底に叩き込んでいた。

 そして今、再び動き出した「ラスカント」はついにウィレニア大陸へ上陸し、大陸西側の大国であるショーテーリア=サン帝国の上空を飛行している。大陸東側の元列強国である「アルティーア帝国」の人々はついに目の前に差し迫った脅威に恐怖し、眠れぬ日々を過ごしていた。


「ショーテーリア=サン帝国の首都、ヨーク=アーデンが壊滅した様です。日本政府からの情報によると、例の巨大円盤は進路を変えて此方に向かっているとのことです」


 元老院議会が位置する“大議事堂”の閣僚会議室にて、皇帝のサヴィーア1世をはじめとする国の首脳たちが集まっていた。国防局大臣のシトス=スフィーノイドが会議の参加者たちに現状を説明する。首都の住民たちはほとんどが郊外に避難済みであり、このクステファイには日本への避難を待つわずかな特権階級しか残っていない。


「まさに・・・世界の終焉か」


 サヴィーア1世は滅びを待つしかない現状を憂いていた。日本軍ですらあの円盤には敵わなかったという事実は、この世界の首脳たちの心を確実に蝕んでいたのである。


「気をしっかり持て・・・たとえこの首都が灰燼に帰そうとも、皇族さえ生き延びれば国が滅びたことにはならない!」


 元第二皇子であり、現在は行政局大臣を勤めているズサル=バーパルは、腹違いの妹であるサヴィーアを励ます。


「・・・そうですね」


 サヴィーアは力無く答えた。その後、いくつかの問答を経て会議は終盤へと差し掛かる。海軍長のゴルタ=カーティリッジが今後の予定について説明を行う。


「我々も・・・早くこの地を脱出しなければなりません。先程、ニホン政府より我々を脱出させる“飛行機”の準備が整ったとの連絡が入りました。首都郊外の飛行場へ急ぎましょう」


「・・・」


 会議の参加者たちは彼の言葉に一様に頷いた。彼らは席から立ち上がると、大議事堂の外で待つ馬車へと急ぐ。だがただ1人、サヴィーアだけは呆然としたまま立ち上がる気配が無かった。


「ズサル様も仰っただろう・・・まだ、この国そのものが滅んだ訳じゃ無いぞ」


 彼女の様子に気付いた海軍長のゴルタは、事実婚の夫婦関係にあるサヴィーアにそっと耳打ちをする。その後、彼女らは馬車に乗って首都クステファイの郊外へ向かった。

 首都の郊外には航空機が離発着出来る滑走路が建設されており、そこでは「ボーイング777−300ER」がアルティーア帝国の要人たちの到着を待っていた。そしてサヴィーアらを乗せたボーイング777は遙か東の日本国へと発ったのである。そして翌日、アルティーア帝国の首都クステファイと海上貿易都市ノスペディは、「ラスカント」によって破壊されることとなった。


〜〜〜〜〜


2月12日・早朝 屋和半島東部 アメリカ合衆国 アメリカ軍基地


 日本がこの世界に転移して2番目に獲得した領土である「屋和半島」の東端には、主に在日アメリカ軍兵士とその家族が移住して建国された「アメリカ合衆国」が存在する。内陸に建設されていた滑走路には、かつて嘉手納基地や三沢基地、岩国基地に配備されていた「イーグル・F−15C/D戦闘機」や「ファイティングファルコン・F−16CJ/DJ戦闘機」、「ホーネット・F/A−18D戦闘機」、そしてそれらの代替、及び一時的措置として日本への配備が進められていた「ラプター・F−22戦闘機」や「ライトニングⅡ・F−35A/B戦闘機」が並んでいた。

 非戦闘員は既に輸送艦に乗って日本本土へ避難済みであり、この国にはほとんど兵士しか残っていない。


(降伏なんて冗談じゃない! 我々は断固として戦うぞ・・・!)


 合衆国大統領のロベルト=ジェファソンは降伏に意見が傾きつつあった日本政府とは異なり、「ラスカント」に対する徹底抗戦の意思を捨てていなかった。彼は飛行場に設けられた演説台の上に立ち、出撃を待つパイロットたちを見下ろすと大きく息を吸う。


『・・・間も無く、突如として現世に蘇った古代兵器がこの星条旗の上空を通過する。このまま座していれば、我々が血と汗を流して築き上げたこの国は為す術なく蹂躙されるだろう。だが、我々は戦わずして滅びを許容することは無い! 逃げ出したければ今すぐ逃げるが良い、全ては諸君の勇気にかかっている・・・』


「オオッ!!」


 パイロットたちは最高司令官の演説に呼応し、彼らの雄叫びが虚空へと響いていく。その後、彼らはスターズ・アンド・ストライプスの誇りを胸に刻み、戦闘機へ乗り込んで行った。


(・・・ステイシー、マシュー、オリヴィア・・・愛してる!)


 その中の1人であるフランクリン=エヴァーズソン中佐は戦闘機に乗る直前、パイロットスーツの中に持っていた家族の写真に口づけをした。家族への愛を再確認したことで意を決した様子の彼は、地球最強の戦闘機であるF−22に乗り込む。他のパイロットたちも様々な思いを胸に抱いていた。

 そして彼らは次々と滑走路から離陸していく。アメリカ空軍の歴史を体現する様な多種多様な戦闘機の大群は、絶望が待ち構える西の空へと機首を向けて飛び去って行った。


・・・


屋和半島中部 屋和西道 幕照市 上空


 日本がアルティーア帝国より割譲された領土である「屋和半島」は大きく東西に分かれ、東部にはアメリカ合衆国をはじめとする、在日外国人が開拓したミニ国家が並び、西部は北海道に続いて2つ目の“道”にあたる新たな地方自治体の「屋和西道」が設置されている。

 かつてマックテーユ市という名前だった鉄工業都市は、屋和西道の道庁所在地として「幕照市」と改称され、2037年には都市全体が日本化されるに至っていた。だが今は街には誰もおらず、野良猫や野鳥の鳴き声が空しく響き渡るだけである。この国に住まう市民たちは皆、日本国内に避難していた。


『間も無く会敵!』


 その上空をアメリカ空軍の戦闘機が飛んでいる。そのさらに上空をストラトフォ(B-52H)ートレスが飛行していた。戦闘機には各種空対空ミサイルが、ストラトフォ(B-52H)ートレスには大型貫通爆(GBU-57)弾が搭載されている。


『高空を飛行中のストラトフォ(B-52H)ートレスが大型貫通爆(GBU-57)弾を投下すると同時に、中距離空対空ミサイルによる攻撃を開始する!』


 戦闘機の背後には早期警戒管制機の「セントリ(E-3)ー」が飛行している。オペレーターはおよそ70機近い友軍機に向かって指示を出した。そして程なくして、戦闘機部隊は都市円盤をアムラー(AIM-120)ムの射程内に捉える。直径14kmという余りにも巨大な大きさを誇る「ラスカント」は、中距離空対空ミサイルであるアムラー(AIM-120)ムの射程距離からでもその姿が見えていた。


『ストラトフォ(B-52H)ートレスが大型貫通爆(GBU-57)弾が投下された! 全機、意のままに攻撃を開始せよ!』


 ついにセントリ(E-3)ーから攻撃開始の命令が下る。パイロットたちはミサイルの発射装置に指を掛けた。


『Roger! Samurai1・・・Fox3!』

『Samurai3・・・Fox3!』

『Panther7・・・Fox3!』

『Profane10・・・Fox3!』

『Fighting Cock5・・・Fox3!』


 上からは大型貫通爆(GBU-57)弾、そして側面からはアムラー(AIM-120)ムの雨が一斉に都市円盤に向かって行く。加えて地上の幕照市の周辺には、アメリカ陸軍と自衛隊が所有するパトリオットミサイルや地対空ミサイルが展開しており、円盤の下面に向かって攻撃を開始していた。

 斯くしてロトム亜大陸での戦いに続き、日本・アメリカVSエルメランドの戦いの火蓋が幕照市の上空で再び切って落とされたのである。


〜〜〜〜〜


同時刻 ロトム亜大陸 極寒の未開地方


 極北に位置する「ロトム亜大陸」には南部に3つの国が存在するが、それらの国々が領域と定めるラインより北側は、万年雪に覆われた極寒の地域である。元々、人が踏み込める場所では無かったが、10年前に32名の日本人が金鉱を見つけることに成功してからは採掘場が建設され、金鉱石を運ぶ為の飛行場が設置されていた。

 その大地には多数のクレバスがあり、その下には広大な地底空間と地底湖が広がっている。そしてこの地底空間の湖は“長大なトンネル”とその中を流れる“奇妙な水流”によって海と繋がっており、この空間を根城とする“神の使徒”と“幽霊艦隊”は、海中を航行してこのトンネルと水流を利用し、海と地底空間を行き来していたのである。


「阪東艦長! 先行して向かわせた無人偵察艇『J800』より映像が届きました。幕照上空では既に戦闘が始まっている模様です!」


 そして2月3日、このロトム亜大陸沖にてある艦が強力な攻撃を受けて沈んだ。急速に浮力を失ったその艦は乗組員が脱出する暇もなく海中に没したが、艦内で生き残った者たちは防水用の扉を遮蔽することで一先ずそれ以上の海水の流入を防ぐことに成功する。だが、彼らは既に脱出不可能な状況に陥っており、後は座して死を待つだけかと思われた。


「良し・・・スクリーンに転送しろ」


 だが幸運か神の奇跡か、沈み行くその艦は地中トンネルを貫く“奇妙な水流”に捕まり、およそ36時間をかけてこの地下空洞に到達していた。海水の浸入と艦の浮遊が止まったことを不審がった乗組員たちが意を決して防水扉を開けてみたところ、深い海中に没した筈の艦は地底湖の岸に座礁しており、氷で覆われた大空洞が彼らの前に現れたのである。


「F−22・・・アメリカ空軍か。・・・すぐに向かわねば、エンジンの様子はどうだ?」


 その後、地下空洞に辿り着いた彼らは出口を求めてその広大な空間を彷徨った。そして彼らは誰も居ない、何も無い筈の地底空間に、凍りづけになった状態で封印されていたある“巨大な物体”を発見することになる。その体躯に刻まれた文字から、それが祖国・日本に関係するものだと知った彼らは、凍り付いていた扉を解かしてその物体の内部に入ることに成功していた。


「何とか動かせるみたいです。ですが、自動修復機能で修復しきれない部分が多く、やはりあっちこっち使えないみたいです」


 巨大な物体の内部に入った彼らは、かつての所有者たちが遺していた記録から“これ”が持つ強大な力を知り、“これ”を何とか都市円盤に対抗する為の切り札に出来ないかと考えた。そして記録に書かれた内容を基にして、動かせないものかと尽力した結果、それから6日後である今日、ようやく出撃までこぎ着けていたのである。


「まあ、此処までこぎ着けただけで上出来だろう。良し・・・サブエンジン点火! メインエンジンへエネルギー伝達!」


 最初に阪東艦長と呼ばれた男が部下たちに指示を出す。彼らが今居る“第1艦橋”には、各部署の代表者たちが集まっていた。


「燃料棒装填完了、補機・核融合パルスエンジン点火!」

「主機・光子ロケットエンジンへエネルギー伝達!」


 およそ500年振りに動力に灯が点ったことで、重々しい駆動音が響き渡っていく。表面を凍り付かせていた氷や霜は瞬く間に融解していった。


「主機起動! 垂直離陸用噴射口開口!」


 下部から小口径のジェットが噴出し、ゆっくりと上昇していく。次にこの地下空洞から脱出する為、空洞を覆う氷床の破壊作業に移る。


「砲撃用意、目標は上部の氷床! 弾種は“高エネルギーレーザー”!」


 砲術士の操作によって、物体の上部に位置する2連装主砲が鈍い摩擦音を立てながら真上に向けられる。直後、高エネルギーレーザーが発射され、何万年という歳月の末に積み上げられた分厚い氷床をあっと言う間に削り取った。


「氷床の破壊確認、上昇を続けます!」


 地上までの脱出口が開通したことで、物体はそのまま上昇を続ける。そしてわずか300名の乗組員を乗せて、それは500年振りに地上へ現れたのだ。


「地上への脱出成功しました!」


 地上は荒れ狂う猛吹雪だった。目視では数十m先も見えない状況の中、それは数千km離れた目的地に艦首を向ける。乗組員たちは皆、緊張の面持ちを浮かべていた。


「南東方向、屋和半島へ進路を取れ・・・『扶桑』発進!」


 阪東艦長は激戦が繰り広げられている屋和半島の方角を指差した。彼の命令を受けて尾部に位置するメインブースターに灯が点り、巨大な体躯からは想像出来ないスピードで発進する。

 「大気圏宇宙航行用超弩級飛行戦艦」・・・28世紀の日本から500年前のテラルスに転移し、そして当時の乗組員たちの手によって封印された大戦艦が、700年前の先祖たちの手によって、500年の時を超えて再び動き出したのである。

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― 新着の感想 ―
正直なところ、氷の中から武器を取り出す部分は唐突で、脚本も稚拙でした。戦争が始まる前の章で、鉱夫たちが氷の中に奇妙な構造物を発見し、調査隊を派遣するなど、もっと手がかりを多く提供できたはずです。そのま…
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