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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第3章 幕引きと幕開け
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特殊作戦群 行動開始

西方世界遊撃艦隊 旗艦「あまぎ」


 対艦ミサイルの雨あられによって、各艦の対水上レーダーやTACOM改の映像から敵艦隊の姿が消えた。


「敵艦隊、全滅!」

「上空に脅威無し」


 敵艦隊を殲滅したことが各方面より報告される。これにてスレフェンの海上戦力はそのほとんどが掃討された。


「第4飛行隊は帰投、また各揚陸艦は揚陸艇を出撃させよ!」


 六谷海将補はF−35Cに帰還命令をくだす。命令を受けた各機は母艦である「あまぎ」へ機首を向ける。それと同時に強襲揚陸艦の「こじま」、輸送艦の「おおすみ」、そしてアメリカ海軍のドック型輸送艦である「グリーン・ベイ」と「ハーパーズ・フェリー」にて、揚陸部隊を出動させる準備が進められた。




強襲揚陸艦「こじま」 ウェルドック内


 17機のF−35Cが帰投した後、強襲揚陸艦の「こじま」や輸送艦の「おおすみ」、そしてドック型輸送艦「グリーン・ベイ」「ハーパーズ・フェリー」では、ウェルドック内に注水が開始されていた。なるべく揚陸艇の移動距離を減らす為、海岸に接近していた各艦の内部には、エア・クッション(LCAC)型揚陸艇や20式水陸両用車が待機している。

 飛行甲板ではオスプレイ(V-22)チヌーク(CH-47JA)などの輸送ヘリの他、ヴァイパ(AH-1Z)ーやスーパーコ(AH-1W)ブラと言った攻撃ヘリコプター、ツインヒュ(UH-1N)ーイやヴェノ(UH-1Y)ム、ベル412EPIなどの汎用ヘリコプターが離陸準備を整えており、数多の陸上自衛隊員やアメリカ海兵隊員が、上陸の時を今か今かと待っていた。

 エア・クッション(LCAC)型揚陸艇には人員輸送用モジュールだけでなく、16式機動戦闘車や対竜騎用の87式自走高射機関砲、自走りゅう弾砲などの多種多様な装甲車輌まで搭載されており、格納庫内には1度では揚陸艇に乗り切らない車輌がまだまだ多く控えている。

 そして程なくしてウェルドックへの注水が完了し、海へ繋がる艦尾門扉が開かれた。


『全隊、発進!』


 艦長である望月圭介一等海佐/大佐の命令の下、「こじま」のウェルドック内からエア・クッション(LCAC)型揚陸艇が飛び出した。同時に同艦の飛行甲板から、オスプレイ(V-22)が飛び上がる。他の艦でも、次々と上陸部隊を発進させていた。




スレフェン連合王国 首都ローディム 沖合 上空


 4隻の艦から飛び立ったヘリコプターの大群は、腹の底に響く様なけたたましい羽音の大合唱を奏でながら首都ローディムへと近づく。彼らの任務はエア・クッション(LCAC)型揚陸艇や20式水陸両用車の上陸に先立ち、敵の陸上戦力をなぎ払うことにあった。

 だが、アルティーア戦役やクロスネルヤード戦役の時とは違い、敵は“携行可能な熱線砲”という恐るべき兵器を所有している為、此方にも被撃墜が出る可能性が大いにある。事実、ロッドピースで行われた邦人救出作戦では数機のヘリコプターが撃墜されていた。だが、攻撃されることを恐れては前に進むことは出来ない。操縦桿を握るパイロット、そして機内で小銃や機関銃を握る隊員たちは、覚悟を決めた精悍な面構えをしていた。


ド ドカアァン!!


 だがその時、突如として爆音が響き渡る。前方を飛んでいた数機の汎用ヘリコプターが、空中で何かに激突して大破したのだ。


バキバキバキ!!


 直後、空中で稲光が走ったかと思うと、透明な壁が出現したのが見えた。それは稲光が収まるとまた見えなくなってしまう。


「な、何事だ!」


 後方からこの様子を見ていた野村幸誠一等陸佐/大佐は、黒煙を上げながら海に落ちて行くツインヒュ(UH-1N)ーイやヴェノ(UH-1Y)ムを目の当たりにして狼狽する。


「敵の攻撃を受けた可能性がある! 全機ただちに反転!」


 野村一佐は各機に指示を出す。その直後、ローディムに向かって飛んでいた回転翼機の大群は、墜落した機の二の舞いを避ける為、急いで機体を反転させて沖へと戻っていく。


・・・


首都ローディム 港 海軍本部


 日本軍の艦隊から飛び立ったヘリコプターの大群がローディムへ向かう姿は、同都市の港からも確認されていた。港の近辺に住まう市民や水夫、日本軍の上陸を阻止する為に集まっていた陸軍兵士たちは、聞いた事も無い様な鈍い羽音を響かせるその大群を見て、本能的な恐怖に囚われていたのである。

 だが突如として空中に、彼らの進軍を阻む透明な壁が現れた。壁に阻まれた敵の羽虫は為す術無く海の藻屑と化し、他の羽虫も沖へと帰っていく。その様を見ていたスレフェン兵たちは歓喜の雄叫びを上げる。


「か、帰って行った! 良かった! しかし・・・これは一体?」


 海軍総督のクリグラー=ナジャールは、海軍本部のバルコニーから撤退する敵の姿を見て、心の底から安堵していた。同時に、突如都市を覆う様に出現した壁の存在に首を傾げる。


・・・


西方世界遊撃艦隊 旗艦「あまぎ」


 何も無い筈の空中に突如現れた透明な壁は、旗艦「あまぎ」の艦橋からも見えていた。


「あれは・・・バリアか!」


 六谷海将補は目の前に現れた壁が、魔法防壁と同様のものであると推測していた。彼はローディムに近づけない状況を打破する為、各方面に指示を出す。


「20式水陸両用車は墜落した機の救援に当たれ! ヘリ部隊は艦隊の正面から散開せよ。その後、各艦は都市を覆う結界に向けて砲撃を開始!」


 総司令の指示を受けて、空中をさまよっていた回転翼機の大群が、西方世界遊撃艦隊の攻撃範囲から避難していく。その後、各艦の砲身が動きだし、ローディムに向かって標準を合わせた。


「撃ちぃ方、始め!」


 六谷海将補が発した砲撃命令は、無線通信によって各艦へ伝達される。その直後、艦砲を持つ14隻の護衛艦から数多の砲撃音と共に砲弾の雨あられが放たれた。


ガ ガ ガ ガ ガ ガン!


 超音速で放たれた無数の砲弾は、ローディムへ辿り着くことなく、分厚い鋼鉄にでも当たったかの様な鈍い音を立てて空中で爆発してしまう。それと同時に、先程と同じ様に空中で稲光が走り、透明な壁が姿を現した。それは首都ローディムを覆う様な半球状の形をしていた。


「撃ち続けろ! 加えて艦対空ミサイル発射!」


 数多の砲撃に加え、各艦のミサイル垂直(VLS)発射装置から発展型シース(ESSM)パローが発射された。それは慣性航法のみで真っ直ぐにローディムへと進み、都市を覆うバリアに命中する。そして同時多発的に空中で爆発が起こるが、帆走軍艦を覆っていた魔法防壁とは異なり、都市を覆う巨大なバリアは砲弾とミサイルの波状攻撃にビクともしなかった。


「こんなもの・・・一体、どうすれば良いんだ!?」


 突如現れた余りにも強固な魔法防壁を前にして、六谷海将補らはただ辟易とすることしか出来なかった。


「と、取り敢えず本国に指示を扇ごう。衛星通信にて映像を送れ。ヘリ部隊と揚陸艇、そして水陸両用車は一先ず母艦に帰還させよ」


 六谷海将補は海上と空中に展開していた上陸部隊に帰還命令を下す。その後、旗艦「あまぎ」の戦闘指揮(CIC)所から東京へ現状報告が行われた。そして全ての回転翼機と揚陸艇が帰還した頃、防衛省から命令が伝えられる。


「本省から命令が下った。・・・補給を兼ねて一時サグロア基地へ撤退し、体勢を立て直した後に再度進撃する。各艦、サグロア基地へ進路を取れ!」


 状況を知った本土から送られた命令は“一時撤退”であった。その命令は六谷海将補の口から、直ちに各艦へと伝達される。斯くして、西方世界遊撃艦隊に属する23隻の艦はスレフェン第3艦隊を壊滅させることに成功したものの、謎のバリアに阻まれた為に撤退を余儀なくされたのだった。


〜〜〜〜〜


同時刻 日本国 東京都新宿区 防衛省市ヶ谷庁舎


 西方世界遊撃艦隊がサグロア基地への帰投を開始していた頃、時差の関係で10時間ほど時が進んでいる日本はちょうど真夜中であった。この日、防衛大臣の倉場健剛は西方世界遊撃艦隊の動向を把握する為、執務室に缶詰となっていた。

 同じ室内には統合幕僚長の長谷川真海将/大将の他、陸上幕僚長である秋山武史陸将/大将と海上幕僚長の宇喜田大輝海将/大将、そして米軍司令官であるマーティン=カルヴィン空軍中将の姿もある。彼らは西方世界遊撃艦隊の旗艦「あまぎ」から衛星通信で送られて来た映像を観て、一様に眉間にしわを寄せていた。


「何だ・・・これは!?」

「すさまじい堅さだ、あれだけの艦砲射撃とミサイル攻撃を受け付けていない・・・」


 宇喜田海将とカルヴィン中将は思い思いの言葉を口にする。そこに映し出されていたのは、堅牢な防壁によって護られた敵の本拠地の姿だった。


「スレフェンは・・・こんなものを隠し持っていたのか」


 防衛大臣の倉場はスレフェンの切り札に驚愕していた。彼はこの強固な防壁を破る為の手段を思案する。


「そう言えば・・・2ヶ月前からローディムに潜伏している“彼ら”に連絡は付けられるのか?」


 彼は敵地の真っ只中に伏兵を潜ませていたことを思い出す。


「今朝は生存報告の通信が届いていますが、防壁が展開されて以降は互いに通信が取られていないので、連絡を取ってみない限りは分かりませんが・・・では、“彼ら”に出動命令を?」


 秋山陸将の問いかけに対して、倉場はにやりと笑みを浮かべながら答える。


「ああ、連絡が付いたらこう伝えてくれ。“あのバリアを展開している機構をぶっ壊せ”とな。それと・・・カルヴィン中将、バリアの内部破壊が失敗した場合を考慮して、アメリカ軍には大型貫通爆弾の動員を要請したいのですが・・・」


 倉場はそう言うと、米軍司令官であるカルヴィン中将の方を向いた。


「・・・大統領の決定次第ですが、大型貫通爆弾(GBU-57)をローディムにて使用する為には、ストラトフォ(B-52H)ートレスを1機、『アメリカ合衆国』からサグロア基地に移動させる必要がありますね」


 2隻のドック型揚陸艦に加えて、アメリカ軍をさらに出動させる為には、屋和半島東端に位置するアメリカ合衆国の首都ワシントンD.Cに居を構える“大統領”の承認を得る必要があった。だが、この世界では過剰戦力とも言える戦略爆撃機「ストラトフォ(B-52H)ートレス」が出撃する機会など、12年前のアルティーア戦役以来であり、断られる様なことは無いと思われた。


「では・・・アメリカとの交渉は外務省に委託しよう。それに先立ち、海外の各飛行場にはストラトフォ(B-52H)ートレス受け入れの用意を行う様に伝達を。ローディムに居る彼らへの連絡も今すぐに!」


「はい!」


 防衛大臣の指示を受けた幕僚長たちは、直ちにそれぞれの幕僚監部へと連絡を取る。防衛大臣より下された命令は、直ちに世界各地へ通達されて行った。


〜〜〜〜〜


1月18日 スレフェン連合王国 首都ローディム グストリー・ウォルスター宮殿


 首都の内部に位置するグストリー・ウォルスター宮殿の執務室に、軍事庁長官のプランタジア=クラヴィクルが入室していた。


「ニホン軍の撤退を確認しました。奴らは諦めた模様です」


 彼は片膝を床の上に付けながら、西方世界遊撃艦隊の撤退を報告する。その言葉を聞いたジョーンリー=テュダーノヴ4世は一先ず胸を撫で下ろした。


「取り敢えず安心だな、だが・・・この広大かつ強固な結界は一体?」


 ジョーンリー4世はそう言うと、執務室の窓から見える空を見上げた。ヘリコプターの進軍を阻み、度重なる艦砲射撃やミサイル攻撃にビクともしなかった“結界”は、彼らにとっても未知且つ想定外のものであったのだ。

 その時、執務室の扉が開く音が聞こえて来た。プランタジアに続いて部屋に入って来たその人物を見て、ジョーンリー4世は驚愕の表情を浮かべる。


「・・・フランシタ! この国家の非常時に・・・お前たち『密伝衆』は20日も何処に姿を眩ましていたのだ!?」


 現れた男は「密伝衆」の代表であるフランシタ=ラディアス、即ちミャウダーであった。アドラスジペ、そしてロッドピースで日本軍に連敗を喫して以降、逃げる様に姿を眩ましていた彼に対して、ジョーンリー4世は額に血管を浮かび上がらせながら、鬼の様な形相で怒鳴り散らした。


「申し訳ない、“新しい首都防衛システム”の最終チェックに手間取っていたもので・・・」


「“新しい・・・首都防衛システム”?」


 ミャウダーは今まで姿を眩ましていた言い訳として適当な嘘を付く。しかし、ジョーンリー4世は疑うことなく、彼の言い分を信じてしまう。


「この結界・・・魔法防壁はお前たちがやったのか!?」


「ええ・・・お気に召しましたか、国王陛下」


 ミャウダーはそう言うと、何処か得意げな表情を浮かべた。その言葉を聞いたジョーンリー4世の表情が、一瞬で憤怒から歓喜へと変わる。


「ああ、良くやった! ニホン軍共も為す術無く帰って行ったぞ!」


 先程の怒りも何処へやら、ジョーンリー4世はミャウダーを手放しで褒め称えた。だが、軍事庁長官のプランタジアは怪訝な表情を浮かべていた。


「しかし・・・こういうものが存在するならば、前もって報告して頂かなくては! それに理由があったとは言え、貴殿らが無断で3週間近く姿を消していた事実は、本来ならば大罪ものですよ!?」


 プランタジアは王や政府へ一切の報告もなく、長期に渡って姿を消していたミャウダーを咎める。


「まあまあ・・・いずれにせよ、首都が救われたのだから結構なことじゃないか。これからも期待している! さあ、もう行って良いぞ」


「・・・有り難き御言葉にございます」


 ジョーンリー4世はプランタジアの怒りをなあなあに収めると、執務室から出て行く様に促した。ミャウダーは深々と頭を下げると、王の部屋を後にする。


(陛下は完全に彼らのことを信じ切っている。確かに・・・この30年間で、彼らはこの国の拡大に多大な貢献をしてきた。だが・・・特に最近は妙だ。信用して良いのだろうか)


 密伝衆を全面的に信用しているジョーンリー4世の姿を見て、プランタジアは得も言われぬ不安を抱いていた。


・・・


夜 スレフェン連合王国 首都ローディム 小さな森の中


 首都近くの森の中に1輌の20式水陸両用車が隠されている。その周りにはキャンプが形成されており、11人の男たちがおよそ2ヶ月に渡ってその場で寝食を過ごしていた。彼らの名は「特殊作戦群第3中隊島崎班」、元々はシュンギョウ大陸に位置する円盤基地の破壊という任務の為に西方世界へ派遣されていたのだが、その後、防衛省の指示を受けてスレフェン連合王国に秘密裏に上陸していた。

 それからおよそ2ヶ月に及ぶ潜伏生活を続けていたのだが、遂に彼らに出動命令が下されたのである。


「・・・よし、行くぞ」


「はい!」


 衛星通信機の受話器を切った島崎廉悟一等陸尉/大尉の指揮の下、戦闘服に身を包んだ屈強な10名の特殊作戦群が行動を開始する。尚、彼らの中に1人だけ、異国人が混じっている。彼は一時期行方不明になったイージス艦「むつ」と共に任務に合流した、イナ王国出身の密偵であるアサカベ・ナガハチロウ・ヨシフミという男だ。

 彼は魔法研究の都であるローディムへの潜入における魔法アドバイザーとして、今回の任務に参加していたのである。


「何だ、こりゃあ?」


 隊員の1人である秋野康晴二等陸曹は、天を見上げながらぽつりとつぶやいた。昼から夜になったことで、天を覆う結界がより鮮明に出現していたのである。それは首都ローディムをすっぽりと覆う様な半球状の形をしていた。


「これは相当量の魔力が消費されている筈です。やはりスレフェンは、エルメランドのものに劣らない高品質な『魔力増幅装置』を量産することに成功しているのでしょう」


 ナガハチロウは推論を述べる。すると彼は懐からあるものを取り出した。


「それは?」


「魔力の集積を探知する魔法道具です。これ程大規模な魔法防壁なら何処かに魔法陣が有って、そこに魔力を集積させている筈です。動力源を探しましょう」


 ナガハチロウは島崎一尉の問いかけに答えると、その装置が指し示す先へと進む。特殊作戦群の隊員たちも、彼を追ってローディムの街中へと消えて行った。

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