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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第3章 幕引きと幕開け
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侵攻前夜

12月22日 日本国 神奈川県横須賀市


 この日、西方世界からの避難民団を乗せた強襲揚陸艦の「おが」と「しまばら」が横須賀に着港した。日本国内には彼らの親族が多数集まっており、無事に帰ってきた者たちと抱き合って嬉し涙を流す。一方、遺体となって帰ってきた者の家族は、ビニールに包まれた彼らを見て悲しみの涙に暮れていた。

 港には防衛大臣の倉場健剛を初めとして、喪服に身を包んだ自衛隊幹部や外務省幹部たちが集まっている。彼らは直立の姿勢で埠頭の縁に並んでいた。


『ロッドピースの地で命を落とした民間人犠牲者137名、そして自衛隊殉職者201名の霊魂に哀悼の意を表し、黙祷を捧げます』


 弔辞を読む倉場の声に従って、彼らは犠牲者たちに黙祷を捧げる。その様子は全国に中継されていた。

 そして同日、スレフェン連合王国の首都ローディムを攻撃する為に編制された艦隊が、日本列島の各地の港から出港する。日本国民1億の怒りと悲しみを乗せて、15隻の艦が旅立って行くのだった。


〜〜〜〜〜


2038年1月12日 アラバンヌ帝国 サグロア基地


 出港から3週間後、六谷修平海将補/少将が率いる「西方世界遊撃艦隊」は、スレフェン連合王国に最も近い海外軍事拠点である「サグロア基地」に到着していた。此処には元々、第4護衛隊群が派遣されており、それに属する8隻を合わせて「西方世界遊撃艦隊」は23隻の艦隊となっている。

 そして今、艦隊司令を務める第1護衛隊群司令の六谷修平海将補/少将を初めとして、艦隊の幹部たちが基地司令部の会議室に集まっていた。テーブルの上にはエザニア亜大陸の地図が広げられている。


「今回の標的である首都ローディムは此処、大陸の南東に位置している。そしてこれが、ちょうどエザニア亜大陸の真上を通過中の人工衛星から撮られた写真だ」


 六谷海将補の説明に合わせて、基地の隊員がディスプレイの映像を変えていく。そこには多数の帆走軍艦が停泊している巨大な港街の衛星写真が映っていた。


「スレフェン海軍は3個の艦隊を有しているが、その内2つがアドラスジペとロッドピースで壊滅し、残す海上戦力は“第3艦隊”のみとなっている。規模が他2つと同じだとすれば、おおよそ230隻の軍艦が残っている訳だ」


 開戦からおよそ1ヶ月半が経過した今、スレフェンは海軍総戦力の3分の2を喪失している。陸軍の規模は不明だが、「竜舎」、すなわち敵防空施設の位置は衛星写真から明らかになっている。


「行うことは12年前の『ダウンフォール作戦』と同一、空の敵と海の敵を排除した後に上陸作戦を敢行、そして敵の地上部隊を分散させ、手薄になった中枢機関に向かってヘリボーン、確保目標はスレフェン国王ジョーンリー=テュダーノヴ4世を初めとする王族たち、そして各政府機関だ」


 六谷海将補は作戦内容を大まかに説明する。その内容は12年前にアルティーア帝国の首都クステファイに対して行ったものとほぼ同一であり、第42航空群に属するF−35C戦闘機部隊によって敵の防空施設への攻撃を行い、艦砲射撃による敵海上戦力の掃討の後に上陸部隊を揚陸させ、都市中枢にヘリボーンを行うことになっている。


「艦砲射撃は『艦載機型TACOM改』とリンクした長距離砲撃だ。敵の熱線は連射が効かない様だが、誘導能力を有しているから気を付けろ」


 スレフェン軍の兵器については、既に大々的に知れ渡っている。拙いながらも誘導能力を持つ魔力熱線の存在は、自衛隊にとって大きな脅威であった。


「出港は明日未明、順調に進めば6日後には辿り着く。日本人を嬲った奴らに情けは掛けない、我々の怒りを思い知らせてやろう」


「はっ!!」


 六谷海将補の力強い言葉に他の幹部たちが呼応する。その後、彼らは明日の出港に備えて最終的な準備へと着手した。


・・・


<西方世界遊撃艦隊>

司令 六谷修平海将補/少将(第1護衛隊群司令)

副司令 中尾正太郎一等海佐/大佐(第1護衛隊司令)


海上自衛隊/日本海軍

航空母艦「あまぎ」

強襲揚陸艦「こじま」

護衛艦「いずも」「まや」「しらぬい」「いかづち」「さつま」「あけぼの」「ありあけ」「あきづき」「いせ」「ちょうかい」「さみだれ」「さざなみ」「たかお」「いなづま」「きりさめ」「すずつき」

補給艦「ましゅう」「おうみ」

輸送艦「おおすみ」


アメリカ海軍・第7艦隊

ドック型輸送艦「グリーン・ベイ」「ハーパーズ・フェリー」


〜〜〜〜〜


同日 イスラフェア帝国 首都エスラレム 皇城


 1ヶ月半ほど前からスレフェン連合王国の侵略を受けているイスラフェア帝国は、ロッドピースに上陸していたスレフェン兵への対処に奔走している。在留日本人を救い出す為にロッドピースへ上陸した自衛隊は、港に停泊していた軍艦を全て撃沈したものの、邦人の救出を終えた後は早急な脱出を果たし、イスラフェア帝国に対しては特に加勢することはしなかった。

 だが、スレフェン軍が大打撃を受けたことには変わりなく、事態を知ったイスラフェア帝国政府はすぐさま増援を送り込んだ。そして、艦隊だけでなく司令部を潰されたスレフェン兵たちは、そのまま鎮圧されるものだと思われていた。

 しかしその後、陸軍の増援を乗せたスレフェンの輸送艦隊がイスラフェア帝国の南海岸に上陸して戦域が拡大、イスラフェア帝国とスレフェン連合王国の戦いは続くこととなった。


「南海岸に上陸したスレフェン陸兵はおよそ5000、南部には陸軍の部隊を多数差し向けていますが、敵の“赤い光を放つ筒”に手こずり、未だ制圧は出来ていません。ロッドピースの方も大分治安が回復したとは言え、未だスレフェン兵の抵抗が続いております」


 皇城の会議室にて、軍務庁大臣のアルベルト=ダナン・ガシュウィンは戦況の報告を行う。その部屋には国の中枢を束ねる閣僚たちが集まっており、最上座には皇帝のヤコブ12世が座っている。


「・・・彼方の兵器が強いのは認めよう。だが此処は我々の国だ、スレフェン兵も此方の兵力に比べたら少ない。しかし・・・余りにも長引き過ぎではないのか?」


 ヤコブ12世は国内に侵入した敵を何時まで経っても排除出来ない状況に苛立っていた。


「はっ・・・申し訳ありません。ですが、スレフェンの排除は時間の問題故、今しばしお待ちください!」


 アルベルトはそう言うと、上座に向かって深く頭を下げる。


「・・・そう言えば逓信社の報道に出ていたが、ニホン軍がアラバンヌに艦隊を結集させているらしいな。恐らくスレフェンに出兵する気なのだろう」


 日本軍の動向はアドラスジペに支部を置く「世界魔法逓信社」の報道によって、この国にも間接的に伝わっていた。


「スレフェンに恨みを持つのは我らも同じ・・・我々もエザニア亜大陸へ出撃出来ないのか?」


 日本軍がスレフェンに向かおうとしていることを知ったヤコブ12世は、自分たちも出兵出来ないものかと考えていた。彼は日本が単独でスレフェンを破ってしまう前に、大なり小なりスレフェン本国へ打撃を与えることで、後に行われるであろう講和交渉の場での発言権を得ようと画策していたのだ。


「南部艦隊が壊滅している今・・・スレフェンの増援がさらに襲来する可能性を考え、また、国内のスレフェン兵をある程度駆逐した後でないと、艦隊を遠征に出すことは難しいかと思われます」


 アルベルトは出兵が難しい状況であることをそのまま伝える。


「そ、そうか・・・」


 提案を否定されたヤコブ12世は、臣下の諫言を素直に聞き入れた。


〜〜〜〜〜


1月13日 エザニア亜大陸 スレフェン連合王国 首都ローディム


 日本軍の攻撃によって、宣戦布告からわずか5日間で2つの艦隊を失ったスレフェン連合王国は、軍事行動の停止を余儀なくされている。イスラフェア帝国に派遣した第1艦隊の兵士たちはその多くが日本軍にやられてしまい、その増援として送り込んだ輸送艦隊の兵士たちも、上陸には成功したがイスラフェア軍に圧されていた。

 更なる増援を送り込みたいのは山々だったが、日本軍が襲来する可能性がある為に第3艦隊を出すことが出来ないていたのである。アラバンヌ帝国への侵攻は最早完全に頓挫していた。


「フランシタは・・・『密伝衆』共は何処へ消えたのだ!?」


 首都ローディムに位置するグストリー・ウォルスター宮殿では、国王のジョーンリー=テュダーノヴ4世が憤慨していた。


「現在、捜索域を首都の外にまで広げていますが、未だ発見できず・・・申し訳ありません!」


 技術庁長官のクリンス=ガティーネは玉座に座る王の前に跪き、謝罪の言葉を述べる。「密伝衆」を統括・監視する役目を負っていた彼は、兵士の力を借りることで、1ヶ月半ほど前に研究所から消えたフランシタたちの行方を追っていたのである。


「くそっ・・・! あいつら、私を騙していたのだな!」


 ジョーンリー4世は、国の一大事に行方を眩ました彼らに対する怒りが収まらない。彼はフランシタらが国家予算を持ち逃げしたものだと思い込み、目を血走らせていた。


 スレフェン連合王国が内輪で騒いでいる最中、海上自衛隊の「西方世界遊撃艦隊」がサグロア基地から出港する。日本人の怒りと悲しみを背負った彼らは、着実にローディムへと近づいていた。

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