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旭日の西漸 第5部 魔法と科学篇  作者: 僕突全卯
第2章 西方世界の危機
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アドラスジペ防衛戦 壱

機雷は情報が少なすぎて扱い辛いですね

11月25日 ジュペリア大陸南西部 アラバンヌ帝国 タリリスク港


 その頃、ジュペリア大陸南西部に位置する「アラバンヌ帝国」の首都アドラスジペに最も近い港街「タリリスク」では、海上自衛隊の第14護衛隊と第4護衛隊群の一部からなる8隻の艦隊が待機していた。

 そして港に設営された業務用天幕の中では、各艦の艦長や基地警備隊の幹部たちが集まっており、迫る敵に対してどのように対処すべきか話し合っている。基地の滑走路から飛び立った哨戒機のオライオン(P-3C)によって、此方へ接近するスレフェン艦隊が数百km先に確認されていた。


「『66式機雷』を・・・使おう!」


 敵の襲来に備えて、サグロア基地には“ある兵器”が第4護衛隊群と共に運び込まれていた。基地司令を兼任する第14護衛隊司令の仲代篤一等海佐/大佐は、それらの使用を決断する。


「感応機雷は木造帆船相手では全く役に立たない。だが触発機雷の66式なら問題無く使える筈だ。実験をしたことが無かったから使わなかったが・・・」


 それは海上自衛隊が保有する機雷の「66式機雷」である。機雷とは船や潜水艦が接触・接近した時に爆発する海の地雷のことを言う。起爆の切っ掛けには様々なメカニズムがあるが、66式機雷はその中でも、海の上を行く船が信管や水中線を触ることによって起爆する“触発機雷”だ。


「機雷を更新する為の在庫処分の意味合いも込めて、この基地には相当数の66式機雷が運びこまれています。早いうちに66式機雷の敷設を行いましょう」


 護衛艦「さくら」の艦長を務める浦部智光二等海佐/中佐は、手早く行動を起こすことを勧める。敵艦隊の速度から計算すると、明日の早朝にはタリリスクへ到達すると思われていた。あまり猶予は残されていない。


「良し・・・『さくら』『つばき』『かえで』の3隻は、早速機雷の敷設を行え。基地の航空機も機雷敷設任務に当たらせる。また、アラバンヌ帝国政府に民間船の航行を停止させるように要請するんだ!」


「はい!」


 司令の指示を受けた幹部たちは、それぞれの仕事へと向かう。その後、サグロア基地の警告を受けたアラバンヌ帝国政府は、貿易船や自国の軍船が機雷に引っかかることを防ぐ為、全ての船の海上航行を禁止する特別命令を布告したのである。




タリリスク 沖合 「さくら」


 「さくら」「つばき」「かえで」の艦尾の簡易型機雷敷設装置に備えつけられている機雷敷設軌条から、66式機雷が放出されている。空を見れば、サグロア基地の飛行場から飛んで来たプロペラ輸送機の「ハーキュリ(C-130R)ーズ」が、3隻と同様に機雷の敷設任務に就いていた。海中へ投下された機雷は、爆薬の本体である機雷缶から係維器が分離し、さらに係維器から切り離された深度錘が海の中へ沈んでいく。係維器と機雷缶を繋ぐ紐の役割を果たす係維索は、その長さを調節して機雷缶を任意の場所に浮遊させることが出来る。

 この「さくら」をネームシップとし、かつて3900トン型護衛艦、多機能護衛艦などと呼ばれたさくら型護衛艦は、掃海艦艇の定数削減に伴って対機雷戦能力が付与されている。まさにその名の通り、多機能な任務をこなすことが求められている護衛艦なのだ。


 機雷はスレフェン艦隊が通過すると予想される、水深100m程の海域に投下されている。海岸線と平行になる様に広く敷設され、その範囲は10平方kmに及んでいた。尚、敵艦に接触せず不発に終わった爆薬による事故を防ぐ為、現代の機雷は一定の時間が経過すれば、爆発ないし無力化される様に設定されている。


「任務完了、直ちに帰港する」


 「さくら」艦長の浦部二佐が、業天の仮設司令部に連絡を入れる。機雷の敷設を終えた3隻は、タリリスクの沿岸に戻っていった。彼らが去った後、敷設された機雷は一斉に待機状態へ入る。

 オライオン(P-3C)が捉えた映像から、敵艦の数は200隻前後と予想されている。対して仕掛けた機雷は約400発であり、全滅とは言わずとも相当な被害を与えられるだろう。タリリスクを背に、そして機雷原の奥に陣を構えた「サグロア基地艦隊」は、艦載砲の砲身を水平線に向けながら敵が来るのを待ち続ける。


・・・


<サグロア基地艦隊>

司令 仲代篤一等海佐/大佐(第14護衛隊司令)

副司令 大文字恵一等海佐/大佐(第4護衛隊司令)


護衛艦「さくら」「つばき」「かえで」「いせ」「ちょうかい」「さみだれ」「さざなみ」「きりさめ」


〜〜〜〜〜


11月26日 現地時間午前3時 タリリスク 沖合


 10時間後、旗艦「ヴィクトリア」を筆頭とするスレフェン連合王国第2艦隊の計232隻は、上陸目標であるタリリスクの港へ向かって進んでいた。彼らの目的は第1艦隊と同様にジュペリア大陸への進出であり、艦隊の後方には陸軍兵を乗せた揚陸艦が控えている。

 艦隊司令のウィルソン=ミキティ将官は、艦隊が行く先に広がる水平線を眺めていた。このまま進めば、いずれ陸地が見えてくるであろう。没落した列強であるアラバンヌ軍など彼らの眼中にはなく、同国に基地を構えているという日本軍への警戒を強めていた。


「フフ・・・ニホン国が調子に乗るのも此処までだ」


 新兵器を携えた艦隊を率いるウィルソンは、自信に満ちた表情を浮かべていた。海軍主力の一翼を成す彼らが、遠隔地の派遣部隊などに負ける筈が無い。彼を含め、全ての兵士たちが自軍の勝利を疑わなかった。

 だが、彼らはサグロア基地司令部が予測した通りの航路を進んでおり、既に第14護衛隊が張った罠に掛かっていた。艦隊の前方を行く艦が次々と海面近くを漂う水中線に触れ、それに繋がっていた66式機雷が一斉に爆発した。


ド ド ドカアァン!!


 爆発による衝撃と、爆発によって発生するバブルパルスの衝撃波が、スレフェンの軍艦を船底から吹き飛ばしていく。爆発は何の前触れも無く起こり、罠にはまった艦を次々と沈めて行った。


「何だ!? 砲撃か!?」


 メインマストの見張り台に立つ水夫たちは、望遠鏡を覗いて周辺の様子を見渡す。だが、敵艦の姿は全く見えなかった。だが、艦は次々と爆発を起こして沈んで行く。


「魔法防壁を張れ!」


 艦隊司令のウィルソンは何らかの飛び道具による攻撃だと思い込み、敵からの砲撃と空からの攻撃を防ぐ為に開発された「魔法防壁」を展開する様に指示を出す。スレフェン連合王国の艦船や兵器の設計思想は地球基準で17世紀相当である為、地球で言うところの“近代的な機雷”の概念は、まだ持ち合わせていなかったのだ。

 司令の命令を受けて、各艦の艦尾の船室に設置された“動力炉”から魔力が徴収され、“魔力増幅装置”によって増幅される。膨大な魔力を得た“魔法機序”によって、各艦は強固なバリアに包まれていった。


「良し、これで・・・」


 これで敵の攻撃を防げる、そう思っていたウィルソンの期待は、直後に裏切られることになる。謎の爆発は魔法防壁も何も関係無く、大量の水しぶきと爆煙を上げて、変わらず軍艦を吹き飛ばし続けた。

 船底から突き上げられた木造船は、その衝撃に耐えきれずたちまち真っ二つに折れて沈んで行く。その様相を間近で観察したウィルソンは、何処から攻撃されているのかようやく理解した。


「・・・し、下だ! 海の中から攻撃を受けているんだ!」


 理解したところで機雷の被害を食い止められる筈は無い。何も知らずに機雷原に突入したスレフェン連合王国第2艦隊は、次々と66式機雷の餌食になっていく。


・・・


サグロア基地艦隊 旗艦「いせ」 戦闘指揮所(CIC)


 スレフェン艦隊が機雷原に突っ込んで行く様子は、陸上自衛隊の「遠隔操縦観測システム」を構成する無線操縦ヘリコプターによって捉えられていた。その映像は旗艦「いせ」にも転送されており、司令の仲代一佐をはじめとする幹部たちがその光景を見つめていた。


「おお・・・もろに引っかかりましたなあ」


 「いせ」の船務長である柳田敏哉二等海佐/中佐は、その映像を見てため息をつく。敵艦に水中線が接触した機雷が断続的に海面を吹き飛ばす光景は、中々見応えがあるものだった。しかし、当然ながらすべてが機雷に引っかかる訳ではない。百数十m四方で機雷が敷設された機雷原を運良く抜けた艦、そもそも機雷原の外側を行った艦などが、徐々にタリリスクへ迫っていた。


「あと数時間後に会敵するだろう! 総員戦闘準備!」


「はいっ!」


 迫る敵に対処する為、此方も行動を開始していた。そして1時間後、ついにその時が来る。


「対水上レーダーに敵艦確認! 艦砲の射程圏内に捉えました!」


 機雷にやられて数を大きく減らした敵艦隊が、ついに彼らの視界に現れる。各艦の艦橋からも、水平線の向こうから昇って来るスレフェン艦隊のマストが見えていた。砲を持つ7隻の艦はおよそ1.5km間隔で横一列に広がっている。

 旗艦「いせ」はその列の背後に控えていた。


「迎撃戦だ、地上のF−3から支援も入る。砲撃開始は敵艦隊が12km以内に入ってからだ」


 司令の命令が各艦に伝達されていく。数分後、スレフェン艦隊の前方を行く艦がその領域へと侵入した。


「主砲、撃ちぃ方始め!」


 7隻の艦の前方に位置する単装砲から、一斉に砲弾が放たれた。射撃指揮(FCS)装置によって管制されるそれらは、敵艦の未来の位置に向かって砲弾を飛ばす。


ガン ガン ガアァン!


 艦橋や戦闘指揮所(CIC)のモニターから敵艦隊の様子を見ていた隊員たちは、驚愕の表情を浮かべた。


「撃ち方効果無し!」


 敵艦に命中する直前、緩やかな弾道を描いた砲弾は空中に現れた何かに当たり、爆発してしまったのだ。当然、敵艦にはダメージは無い。


「まさか、例の円盤が有していたというバリアと同類のものか・・・! ならば撃ち続けろ、衝撃を加え続ければ破れる筈だ!」


「り、了解・・・!」


 司令の指示を受けて、7隻の護衛艦はさらなる砲撃を加える。毎分数十発の速さでテンポ良く発射される砲弾の雨は、次々と敵艦を覆うバリアに命中した。そして3〜4発目が当たったところでバリアは砕け、砲弾が敵艦に突き刺さる。


「少し驚いたが・・・どちらにせよ艦砲で破れるならば、どうということは無い!」


 司令の仲代一佐は不敵な笑みを浮かべる。砲撃を受けたスレフェンの艦は浸水を起こし、次々と沈んで行った。


・・・


スレフェン連合王国第2艦隊 旗艦「ヴィクトリア」


 指揮官を乗せる旗艦「ヴィクトリア」は、機雷原に突っ込んだものの、犠牲となった艦のお陰もあって、運良くピンチを切り抜けていた。だが、それも一時の運に過ぎなかった。艦隊司令のウィルソン=ミキティ将官は、初めて目にする日本軍の力を見て驚愕していた。


「な、何だ・・・これは? 聞いていた話と全く違うぞ!?」


 スレフェン連合王国は鎖国政策を執り、世界魔法逓信社の支部設置も認めないなど、自国の情報を他国へ漏らすことを厳しく制限していた。だがそれは同時に、他国の情報が自国に容易に入って来ないことを意味している。故に、連合王国政府は諜報機関を他国に潜入させるなどして、情報収集を行っていたのだが、それも断片的なものでしか無かったのである。

 短絡的な士官の中には、日本人が魔力を持たない民だということから、同じ魔力を持たない民によって構成されるイスラフェア帝国と同格の国だと思い込んでいる者も多く、ウィルソンもそんな指揮官の1人だったのである。


「ええい・・・少々遠いし、試作段階だったがやむを得ない! 『誘導魔力熱線砲』を発射せよ!」


 機雷戦によってすでに艦隊の3分の1を失っており、最早出し惜しみする余裕は無い。司令の命令を受けて、各艦の両舷前方に設置されていた魔力熱線砲が砲門を開いた。魔法防壁と同じく、魔力増幅装置によって増やされた膨大な魔力を供給されたそれらは、熱線に変換された魔力を一斉に放出したのである。


・・・


サグロア基地艦隊 旗艦「いせ」 艦橋


 各艦の隊員たちは、敵艦の奇妙な砲塔が赤い光を発したことに気付く。それとほぼ同時に、艦内に衝撃が走った。


「『さみだれ』対空レーダー破損!」

「『ちょうかい』右舷に穿孔!」

「『つばき』艦首に損傷!」


 誘導性能を備えた熱線が7隻の護衛艦を襲った。各艦は軽くない損傷を負ってしまう。


「あれが『セーレン王国』で目撃されたという熱線か!」


 その様相を目の当たりにしていた司令の仲代一佐は、「911事件」と同日の未明に起こった、反日組織による哨戒機へのテロ攻撃事件を思い出していた。

 尚、彼らは知る由もないことだが、この「誘導魔力熱線砲」は誘導自体に魔力を使用せねばならず、尚且つ目標があまりにも長距離であった為、熱線の持つエネルギーが減衰し、スレフェン艦隊側が期待したほどの威力は出ていなかった。


「全速後退! 敵艦の射程圏外へ離脱せよ!」


 攻撃の被弾を避ける為、各艦は敵艦隊の視界外まで後退する。たちまちスレフェン艦隊は、水平線の向こうに見えなくなった。


「対艦攻撃を艦対艦ミサイル(SSM)に切り替え! 準備出来次第順次発射!」


 司令の命令を受けて、各艦は艦対艦ミサ(SSM)イルの発射準備に入る。それぞれの艦には艦対艦ミサ(SSM)イル4連装発射筒が2基ずつ、すなわち1隻につき8発の艦対艦ミサ(SSM)イルが配備されていた。


「サグロア管制塔より入電! F−3戦闘機離陸準備完了しました!」


 時同じくして、此処から150kmほど離れた場所にあるサグロア基地から、通信が入って来た。同基地の飛行場に配属されている第305飛行隊の戦闘機20機が、空対艦ミサ(ASM)イルを装備して発進準備を整えたという。


「すぐに発進せよ! 援護をしてくれ!」


『了解!』


 基地司令の命令を受けて、サグロアの滑走路に待機していた戦闘機が次々と離陸していく。それらの名は「F−3」、通称「烈風(Super Gale)」と呼ばれる、航空自衛隊で最新の戦闘機であった。

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