プロローグ 8
「......おいなんだこれ」
「ん?どうしましたか?そんなに額に青筋浮かべて、まるで怒ってるように見えますよ?」
「怒ってんだよ!」
中から出てきたのは、またしても真空パックだった。真空パックには錠剤が二錠入っていた。ただし真空パックには赤ペンで大きく『禁忌━使用者の命の保証無し』と書かれていた。
うん、きっと焔木はここで俺を殺すつもりなのだろう。これ以上焔木のペースに振り回されるのは危険だ。適当に別れの言葉を告げて帰るとしよう。
「悪いが俺はそ━━━」
「さぁ、飲んでみてください」
「嫌だ死ね」
間を開けずにの即答だった。こんなに早く言葉を返せるなんて自分でも驚きだ。
「なんで!?」
「お前にはこの字が見えんのか!『命の保証無し』って書いてあるだろうが!」
この文字が見えないとか眼科行った方がいいだろ。
「あっ、それ私が書いたやつ」
お前が書いたんかい。
「なら余計心配だな。お前が危険だって分かってるからこういう風に書いたんだろ?」
「え?あっ、別にそういうのじゃないよ?あれだよあれ。危険って書いてあると人って使ってみたくなるもんじゃん?ほら、パンドラが開けた箱とか良い例じゃん。だから危険って書いてあった方が使用しやすいのかなぁって思って書いたんだよ」
うん、余計なお世話だ。人間が誰もがパンドラとおんなじ思考を持ってると思うなよ。
「...じゃあこれには危険が無いってことで良いのか?」
「使用したことはないけど大丈夫な筈だよ...ボソッ多分...」
............多分って聞こえたのは気のせいだ。気のせいに決まってる。気のせいだと信じよう。
「まぁ、私の計算だと危険は無いから安心してね」
安心できるか!
敵対中の国から『絶対に毒が入っていないので食べてみてください』ってご飯を渡された気分だよ!いや絶対入ってるから......毒。
「ところでこれを飲めばどうなるんだ?」
「過去に戻るよ」
「それはタイムマシン的な感じでか?」
「うーん。どちからと言うとタイム風呂敷的な感じかなぁ」
どう違うんだろう。全然わからない。
「んーっと、説明すると難しいんだけど。タイムマシンだとこのままの姿でその時代に行くじゃん?」
行くじゃん?って言われても知らねぇよ?
「けどこの薬はちょっと違うんだよね。過去に戻るって点では同じなんだけど、戻る時に身体も同じように戻っていくの。時が逆戻りするって感じで」
「なるほど...。しかし、身体が戻るなら記憶も戻る、つまり今の記憶も無くなるんじゃないか?」
「その辺は大丈夫。使用者の記憶はその錠剤に含まれた成分でカバーされるようになってるの、ていうかしたの。まぁ、使用者以外の人の記憶は無くなるけどね」
つまり、使用者の俺。そして恐らく俺と同じように使用するであろう焔木の記憶は無くならないということか。
「てことは......薬を飲む前に調べたいことがあるんだがパソコンを貸してくれないか?」
「何を調べるの?」
決まってるだろ。俺は白い歯を見せるように、ニッと笑った。