プロローグ 7
「人生を...やり直す?」
「はい。そうです」
「...何を馬鹿げたことを言ってるんだ?研究のやりすぎで頭がイカれたんじゃないか?」
「何か言われるとは思っていたけど、実際に言われるとムカつくなぁ」
焔木はにこやかに笑いながらそう言った。
笑いながらムカつくと言われると怒った顔で言われるよりもずっと怖いんですけど。
「...大体、どうやって人生をやり直させるつもりなんだよ」
「じゃーん」
焔木が部屋の隅から何かを掴んで、それを俺の目前まで近づける。
それは袋だった。中に何かが入っているのだろう。袋の表面には何やら説明が書いてあった。
えっと、何々?『この薬物は大変危険です』?...説明は見なかったことにしよう。
俺は説明を見るのをやめ、袋をゆっくりと開けた。中には透明の小さな真空パックに包まれた粉が入っていた。真空パックには文字が書いてあった。恐らく他の薬物と混ざらないように配慮したのだろう。
『青酸カリ』
「殺す気かっ!!!!」
おいおい、もしかして、もしかしなくても人生をやり直させるって新たな人生をってことだよな。つまりこの人生をさっさと棄てろってことか!?で、生まれ変われるように祈ってろってことなのか!?
「あっ。間違えた」
「紛らわしいわ!」
ツッコミの代わりにビタンっと袋を床に叩きつけた。
しかし、焔木は気にした様子も見せず新たな袋を持って俺に渡した。袋にはさっきと同じように説明が書いてあった。
今度は何だ?『この薬物は大変危険です』。
「変わってねぇじゃねぇか!」
「せめて中身見てから言って!?」
やれやれ。どうせ中身は青酸カリだろ。まぁ、一応違う可能性もあるし見てやるか。
『青酸カリ』
「もうはっきりと言えよ!死んでほしいならはっきりとそう告げろよ!」
「あっ...また間違えた。きっとこの袋に違いない」
袋を叩きつけると同時に渡される第三の袋。
『この薬物は大変危険です』
「お前やっぱ、おれを殺そうとしてるだろ」
「そういうのは中身を見てから言ってよね!」
「仏の顔も三度まで。これで違ったらもうお前のことは信じないからな」
そう言って袋を開ける俺。
「ボソッ...仏って笑える顔してるよね。自分が笑える顔だって遠回しに言ってるのかな」
袋を開ける最中聞こえた声はきっと俺の気のせいに違いない。