プロローグ 5
「痛ってぇ」
俺は殴られた右頬を擦った。
殴られてから結構経つのにまだズキンズキンと痛みやがる。あの右、世界を狙えるぜ......。
「ゴメンゴメン」
そんな俺を見ながら焔木は微妙な表情で謝ってきた。
微妙な表情というのは、少しやり過ぎたかなという後悔の気持ちと、下着を見られたという羞恥の気持ちが混ざりあっていて呆れ顔なのに顔が真っ赤という表情だった。
て言うか、下着を見られたぐらいでこんなに動揺するとかホントに俺と同い年か!?
昔俺の家があるとき遊びに来てたお姉さんは下着見られても恥ずかしがる様子はなかったぞ......あぁ。その頃は俺が小さかったからか。でも、それでも今の反応は23歳とはとても思えないほど初だったぞ。もしやこの人、付き合ったことがないのか?
......っと、これ以上人の過去に詮索をするのは止めておこう。
「で、話を続けてもいいかな?」
「ああ」
話は確か......焔木が恥女だったというところで終わっていたな。
「実のところ、私に圧力を加えたのは国家なんだ」
「ゴメン、ちょっと待って。いきなり何の話!?」
どうも話が繋がらない。いつの間にか話題が変わったのだろうか。
「ん?さっきの話の続きだよ」
「は?さっきの話はお前が恥女だったってカミングアウトしたところで中断されたはずだろ!?」
「いきなり何の話!?私がいつそんなことカミングアウトしたの!?」
あ、あれ?
「......はぁ。あなたと話してると話が全く進まないんだけど、真面目に聞いてくれる?」
焔木はため息をつくと、あたかも話が進まないのは俺のせいだと言うように問いかけてきた。
俺は思わず俺の台詞だと叫ぼうと思ったがそれをするとまた話が脱線しそうだったので止めておいた。
「で話を戻すけど、私に圧力を加えたのは国家だったの」
「なるほど」
先ほどの話はよく覚えてないが、とりあえず相づちを打っておく。
「ホントはあんな事やりたくなかったんだけど無理矢理やらされて......」
なるほど、ようやく話が繋がった。
「それで恥女になっというわけか」
「あなたもう息をしないで?」
話さないでではなく息をするなと言われてしまった。しかも笑顔で。
だが俺は生憎呼吸をしなければ死んでしまう生物なので焔木の要求には従うことは出来ないためブルブルと顔を横に振った。
「いや、冗談なんだけど......そんなに怯えた顔で見られるとさすがの私も傷つくわけで。
......で、やらされた結果、賞を取ってしまったという訳なの」
焔木は途中まで先ほどの死刑宣告は冗談だと語っていたが一向に顔から怯えをなくさない俺を見て時間の無駄だと考えたのかすぐに話を戻した。
「そんな状況で写真とられて...あなただったら笑える?」
「......無理かもしれないな」
実際それが俺だったら「ガハハ天下取ったなりっ!」と笑えたかもしれないが、話を聞く限りでは笑えるとは思えなかった。