プロローグ 3
「あー、うん。あなたにも色々あったみたいだね」
「出来れば忘れてほしいのだが」
「じゃあ話の続きといこうか」
「今あからさまに話題を逸らしたよなっ!?」
「...ところで、そろそろ立ち話はやめない?足が疲れてきたよ」
どうやら焔木には今のを忘れる気は無いようだった。こうやって話を逸らしているのが論より証拠だ。
まぁ、俺としても話を掘り返されるよりは幾分かマシなので話を焔木に合わせることにした。
「どこに座る場所があるんだよ?」
「逆に座る場所が無い家の方が珍しいと思うんだけどな。誰も椅子に座ろうとも言ってないわけだし...床に座るという発想はなかったのかな?」
『家』その単語を聞いて、そういえば、『ここがどこ』なのか、『どうして俺がここにいるのか』といったテンプレな質問をしていなかったことにようやく気づいた俺。
どうやら、ここは焔木の家だったらしい。おそらく俺がここにいるのは偶然、クリスマスに倒れていた人を見つけたから介護したという理由だろう。
まぁ、いちいち確かめる話でもないのでスルーしておくことにしよう。えっと、今はどこまで話したっけ。俺は記憶を遡る。
「...客人を床に座らせるやつがいることに驚きだよ」
記憶を遡り話を戻した俺はそう言いつつも確かに足に疲労が来てたので素直に床に座った。
「え......?ホントにそこに座るの?」
どうやら冗談だったらしい。
「お前の冗談は分かりにくいんだよ!」
俺は素早く床から立ち上がった。
顔が怒りで赤く染まっていくのが分かる。もう完全に焔木のペースに乗せられていた。
「あはは。ゴメンゴメン。じゃあ、付いておいで」
そんな俺を見ても焔木は悪びれない様子で笑い暗い部屋を出た。
そのあとを俺は大人しく従いながら付いていった。
部屋の外は廊下だった。そこはさっきまでの暗さが嘘みたいにシャンデリアや金の装飾品等がキラキラと輝き、明るいというより眩しい場所だった。
廊下の無駄なゴージャス感にも驚きだったが何より驚いたのは廊下の長さだった。端が見えない、そんな廊下を見たのは初めてだった。
「なんだここ。頭おかしいだろ...」
「そう?普通じゃない?あっ、こっちだよ」
廊下を先行して歩いていた焔木が一つの扉の前で歩みを止めた。
「ホントは応接間とかで迎えたかったんだけど生憎今使える部屋はこことさっきの実験室だけなんだ...汚いけど我慢してね」
焔木は俺に忠告とも取れる言葉を話した後扉を開けた。
部屋の中は真っ暗で先ほどの部屋と対して変わらない印象だった。
「これ、部屋変えた意味あるのか?」
「もちろん!確かこの辺に......あった!」
瞬間、パチッと電気がついた。
「実はさっきの部屋には電気が通ってないんだよね。だから部屋を変えたのさ!お分かり?」
「お、おう」
今時電気が通ってない部屋があるのかと思いながらもニコニコと笑いながら顔を近づけてくる焔木の迫力に何も言えなくなる俺。
「分かってくれたなら何よりだ!じゃあそろそろ座ろうか」
そう言いつつ部屋の真ん中にあったソファーに向かう焔木。
俺はこの部屋をサッと見渡した。
ホントすっきりしてるな......。
この部屋にはソファー以外に家具と言える物は置いてなかった。て言うか、ソファーと写真しかこの部屋にはなかった。
ん?
ソファーに向かう途中、壁に貼ってあった数ある写真の一枚が目に入った。
それは七人の男女の集合写真だった。よく見れば焔木らしき人物も写っていたため、多分焔木の昔の友達なんだろうと思った。
「あぁ。その写真は五年前、高三の時に撮った写真だよ。その時は卒業アルバムに載せれればなと思って撮ったんだよ」
俺の視線に気づいたのか焔木はそう言って、続けた。
「今となっては遺影なんだけどね」
「五年前、高三?てことはまさか、俺と同い年......って遺影!?」