プロローグ 21
引っ越し。その言葉を聞いて俺はハッと顔を上げた。
盲点だった。
俺がこの時代に来た理由と共に、どうしても潜り抜けなければならない門の一つ。
『親の死』
それは俺が小学三年に上がったときに起きた事件だった。犯人は不明━━━と以前行っていたが、俺は焔木のコンピュータールームで宝くじの当選番号と共に犯人の名前を調べていた。犯人は長谷川隆司、三十五歳。犯行動機は誰でもいいから殺したかったとのこと。要するに通り魔殺人ってやつだ。普段の俺なら『通り魔とか死ねよ』と思うのだが、今は違った。むしろ計画的な犯行じゃない分、ホッとしている。なぜなら、犯行が計画的立った場合は親を殺させない手段がほとんど無かった。警察にそのことを相談しても鼻で笑われるだけだっただろう。また、俺が護衛として親に付いていても相手は大人だ。小学生の俺なんてすぐに殺られてしまうだろう。よって対処方法は無かった。
しかし、それが突発的な犯行だとしたら対処方法は簡単だ。その時間帯に親に外を出歩かせなければいい。だが、俺は確実に親を家に閉じ込めておけるのか不安だった。しかし引っ越しをするなら話は別だ。引っ越しは家が変わる。つまり住んでいる住所が変わるってことだ。計画的な犯行だとしたらこれでも犯人は追いかけてくるだろうが、今回の犯人は突発的な犯行のため追いかけてはこず、別の誰かを犠牲とすることだろう。それはそれで酷い話だったが、生憎今の俺は他人の身まで心配できるほど余裕がない。残念だが、犠牲者には必ず葬式に行くってことで手を打って貰いたいものだ。
「━━━で赤羽はどう思うんだ、引っ越しのこと?」
「もちろん賛成ですよね!ね?」
「新川ちゃん、それは強要だからね?」
三者に迫られる決断。普通なら少しは考えることだろうが、メリットがある以上肯定しないわけにはいかない。
「俺も引っ越ししたい!」