プロローグ 2
「あれれ?私自分の名前をあなたに名乗ったっけ?」
焔木は俺の呟きを聞き不思議そうに首をかしげた。
「...いや、実は今日新聞で見たんだよ。ノーベル賞三枚目の受賞って記事を」
俺は少し戸惑いながらそう言った。
「あーあ~!なるほど~!」
焔木は俺の回答に、正確には俺が焔木を知っていた理由を知って満足したのかニコニコと笑顔で頷いた。
「え!?」
俺は、焔木のその笑顔を見て驚いた。
「ん?何?どうかした?」
俺のその反応が不自然だったのか焔木は俺の顔に自分の顔をぐいっと近づけて問いかけてきた。
お互いの距離は数センチしか空いてなく身体を少し前に倒せばキスをしてしまうような近さだった。
「いや、焔木ってそんな風に笑えるんだなって思ってさ。ほら、あの写真のお前は笑ってなかったからさ、てっきり笑えないのかと思ってたんだよ」
俺は慌てて焔木から顔を逸らしつつ、そう答えた。
コイツ、今日初めて会った俺にどんだけ近づいてくるんだよ......。それで俺が恋に落ちたら、どう責任を取るつもりなんだよ!俺は今日失恋(?)したばかりだからコロッと落ちやすいんだぞ!?...まさかそれを知っていたのか!?そんなことはありえない!いや、コイツはノーベル三枚取るほどの頭脳を持っているんだ。ここまで計算していてもおかしくない......。焔木舞......何て恐ろしいやつなんだ。
完全に被害妄想である。
「あの?あなた急にどうしたの?大丈夫?」
不意に聞こえた焔木の声で俺は現実に引き戻された。
因みに俺はテレパシーは使えないので焔木は恐らく俺の表情を見て心配してくれたんだと思う。『深く考えてる時は表情がものすごく変化する』と、昔祖父にも言われたことがあった。自分では表情を変えてるつもりは微塵もないが他人から見れば表情が変わっているのだろうと思う。
「あ、ああ大丈夫だ」
俺はそう返事をして、慌てて話を戻そうと会話の続きの記憶を遡ろうとしたが俺が記憶を遡る前に焔木はニコリと笑って話を始めた。
「じゃあ、あなたに聞くね?あなたは野球が好きです。逆にサッカーは嫌いです。しかし、あなたは親にサッカーをやるように義務付けられました。嫌いなサッカーでしたがあなたは見事MVPに輝きました。嬉しいですか?」
「は?」
こんな話してたっけ?という疑問が頭の中をぐるぐると回る。
記憶を遡る前に話されたためどんな話をしていたかは不明だが焔木が突然意味不明なことを言う訳がない。きっとこんな流れになるようなことを話していたんだろう。
俺は真面目に焔木の問いかけに答えることにした。
「俺は......喜ぶかな」
「ほう...。それはなんでかな?」
俺の回答が予想外だったのか本人は平然を保っているつもりだろうが眉を少し上に上がっていた。
「いや、深い理由なんてないんだが......だってMVPに選ばれたってことは相当上手いってことだろ?だったらプロからの誘いが来るかもしれないだろ?そしたら貧乏生活から脱出だ!わーい!!!」
話している途中にだんだんテンションが上がってきて最終的には万歳を決めてしまう俺。
そんな俺を可哀想なものを見る目で焔木は見つめていた。