プロローグ 10
◇
「さて、そろそろお薬の時間ですよ」
「そんな、医者が小さい子に言うような言い方をするな」
「私の中では『薬を嫌がる』=『小さい子』なんですよ。よってあなたは小さい子ってことになります」
どんな理屈だよ!
「大体、命の危険がある薬を服用するなんて小さい子じゃなくても嫌がるだろ」
「はぁ。早く覚悟を決めてくださいよ。さっきまであんなにやる気だったじゃないですか...」
うるせぇ。さっきと今じゃ全然違うんだよ。いざやろうとすると足がすくむっていうあれだよ。あれなんだよ!
時間が進むのは早いことでコンピュータールームを出てから早一時間。俺は中々薬の服用をする覚悟に成れないでいた。
「このチキンめ!」
「うっせぇ恥女!」
バチバチと火花が散る(実際には散ってないのだが)
「早く飲めよこのチキン」
「お前が先に飲みやがれ恥女」
売り言葉に買い言葉ではなく売り言葉に売り言葉を返す俺。
「え?私は飲まないよ」
「は?」
何言ってんだこいつ?
「だって、私が飲むとか言ってないでしょ?どうしてそんな勘違いをしたのか逆に気になるのだけど」
「はぁ?だって、錠剤二つあるじゃねぇか!それに普通に考えてお前も飲むべきだろ!俺だけがリスクありでお前がノーリスクなんて俺が許さねぇ!」
つくづく俺はクズだった。
「あのねぇ、この薬は二つ飲まないと意味がないんだよ。その辺ご存じで?」
「知るかボケ!だったらもう一組持ってこればいいじゃねぇか!」
二つ飲まないと意味がないなんて聞いてもないのに分かるはずがないだろ。
「......あなた、過去に戻ることができる薬を作るのにどれだけの費用と時間がかかったか分かってる?もう一組作ろうと思ったら最低でもあと五年はかかるよ?」
「なら俺も五年待ってやる」
「...何故そこまでするの?」
「俺だけが地獄に落ちるのは気に入らねぇんだよ!」
うん。俺はきっとクズの中のクズ。KING OF KINGみたくKUZU OF KUZUと呼ばれるだろう。
「あなたの反論は大体わかったわ」
焔木は頭に手を置き、やれやれといった感じで言った。
「つまり、私もあなたが負うリスクと同等の何かをすればいいってことでしょ?」
大体合ってる。
「そうだなぁ......あなたが負っているリスクは死。だから私はこうするね」
焔木は座っていたソファーから立ち上がり部屋の段ボールから何かを取り出した。
ジャキッ。
俺はその『何か』を見た瞬間背筋に冷たいものが走るのを感じた。呼吸が荒れる。呼吸を整えたくても身体が硬直して言うことを聞かない。
焔木はそんな俺に構わず『何か』を頭に当て笑顔でこう言った。
「先に失礼するね」
「おいやめろよ!」
悲鳴混じりの大声を出すと同時に身体の硬直が解けた。俺は焔木に手を伸ばす。焔木の持っている物に手を伸ばした。あと少しで届く。
「あなたはきっと私を助けてくれると信じてるよ」
「!?」
瞬間、部屋に銃声が響き渡る。
赤い鮮血が飛び散る。真っ黒だった部屋はあっという間に赤い色で染め上げられた。錆びた鉄のような臭いが漂う。
間に合わなかった。
「...なにしてんだよ」
静かになった部屋に俺の呟きだけが残った。




