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暖かい雨  作者: 浮世
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二話

記憶喪失の最中、街を駆ける。

一息に落ち着いた僕は当たりの様子を確認しようと思って、

なるたけ明るい方へ歩いた。

理由のわからない孤独感や寂寥感というのは

人を「明かり」とか「熱の集合体」へ押し出す力があるらしい。

ゴミ溜めで目覚めたにしては反射のいい軽やかな足取り。昔、僕は運動でも習っていたのだろうか。




ふと横目に見た時計の針はすでに0時を回っていたし、

目つきの悪い危なげな男も目に付いた。

多少廃棄物の汚さは目立つものの、閑静な住宅街には相応似つかわしくない風体の男である。

今その男がよく分からない口調で誰かを怒鳴りつけている。

電柱に下がっている標識には″ホシノマチ六チョウメ″と書かれていた。



自分で言うのも何だが結構な美形のようで

(くすんだ窓ガラスで確認したので大衆が思うような美形との整合性は否めないが)

五体満足のいっぱしの青年と言っていい。しかも長身。単に目立つ。

それにしても自分の顔を見て他人事とは。

次誰かに会った時はおかしな発言をしない様言動には気を付ける事にしようと思う。



と、ここまで逡巡して気付いたのだが僕は身分を証明する物を何一つ持っていない。

(ちなみに皮財布はポケットに突っ込んであった。なんていい加減なんだ…)

いよいよ僕が路傍に投げ出されていた事実にすら後ろ暗さを感じなくはない。

後立ち止った時の異臭が思った以上に凄まじいので、早くここから離れたいのが本音だ。


ここまで冷静ぶって散策してみても僕とこの町ホシノマチに接点に成り得るものは見当たらない。

道行く人に心配される事も無かったし、いくら歩いてみてもこの町に親近感のわく光景は見当たらない。

余談だが、どうやら「ホシノマチ」という町の由来は不景気な景観に反した街灯の数らしく

吸い込まれそうな程の夜の暗闇に浮かぶ「灯たち」という事で「ホシノマチ」だそうだ。


「はぁ…」

ふと我に返って、色とりどりのパンジーが咲き乱れる花壇に腰を降ろしてみるが、

深夜の静かな高揚感に浸れる訳もなく。

「八方ふさがり」とか言う縁起の悪い字面が脳裏を過る始末だ。無能もいい所である。



少しばかり諦観して目が慣れてきた所で

何とも形容しがたい綺麗な町だな、とさえ思った。

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