表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

1.Ballade for You Ⅴ


--暗闇の中で。

人の気配が、遠ざかってゆく。

どうやら来客のようである。

あんなに無理やり押し込めなくたっていいじゃない--アリシアは、心の中で悪態をついた。

だが、しかし。

よく考えてみれば、もしこの来客が、皇室の、もしくはその周辺の人間であれば...?

アリシアは間違いなく連れ戻される。

そして一晩中、お説教である。


--もしかしてあたしのこと、守ってくれようとしたの...?


しかしアリシアは、そんな甘い考えをすぐに頭から吹き消した。

だって--第一皇女を部屋に連れこんだなんてことになれば、一番困るのはあいつだもの。


それよりも、目下彼女にとって重要なのは、例のピアニストのことである。

早く、早くもう一度聞きたいのに...!

こんなところで、他人のベッド--それは彼女自身が普段使っているものよりも格段に堅い--にくるまって、ああだこうだと一人会議している暇は、ないのだ。


突如として、静寂が訪れる。

ああ、来訪者はもう帰るんだわ、そんな淡い期待を抱いた、その時だった。


静まり返った部屋の中に、響き渡る、ピアノの音色。

暗闇の中で、アリシアは思わず目を見開いた。

それは--その甘美な音色は、彼女の双耳(そうじ)を愛撫し、そして、まるで血液と同じように、身体じゅうを駆け巡る。

やがてそれは彼女の思考に、甘やかな、それでいて心地良い痺れをもたらすのだ。

目で見なくとも、分かった。

これは--これは『あの人』が弾いているのだ、と。

それも先程の晩餐会とは、異なる旋律--


そこでアリシアは、一つの疑問に思い当たった。

--今これを弾いているのは誰なのか、と。

今この部屋にいるのは、アリシアと、ジェイドと、そして来訪者の--おそらくは三人。

もちろんアリシアではないので、考えられるとしたら--

しかしアリシアは、一つの可能性をすぐに頭の中からかき消した。

...まさか。あんな小憎たらしい男が、『あの人』なわけ、ないわ。


しかしアリシアがその音色に酔いしれられたのは、ほんの僅かな時間のことであった。

ぷつり、と途絶えた旋律。

それと同時に、誰かの、手を叩く音。

--そして、感嘆の言葉。


「いやあ、素晴らしかったよ!流石だな、ジェイド!

この続きも、期待しているぞ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ