1.Ballade for You IV
--信じらんない!何なのよこの男は!
アリシアの心に、もう恐怖の色はなかった。
ただ--何か言ってやらないと、気が済まない。
アリシアには、皇室としての絶対条件と言っても過言ではないだろう、おしとやかさ、などというものが完全に欠落していた。
持ち前の気の強さと行動の速さから、城内のみならず国民にも、彼女はこう呼ばれている--
『おてんば姫』、と。
「あんた、ねえ...!
あんたが帰るな、って言ったんでしょう!
それなのに今度は、とっとと出ていけ、ですって?
自分勝手もいい加減にしなさいよ!」
「--先に、勝手に人の部屋に侵入したのは貴様の方ではなかったのか?」
「なっ...!」
痛いところを突かれ、絶句するアリシア。
--そうだった。感情的になるあまり、それを忘れてしまっていた。
それでもアリシアは、小憎たらしい物言いのこの男に、素直に謝る気になどなれなかった。
--と、そこでアリシアは、本来の目的を思い出す。
「あー、えっとあたしはね、今日の晩餐会でピアノ弾いてた人を探しに来たのよ。
それでこの部屋だって教えられたんだけど、どうやら間違いだったみたいね。
あの衛兵、後でぶっ飛ばしてやるんだから...!
ところで、あんた---」
言い終わらぬ間に--アリシアは、彼の大きな手で口を塞がれていた。
そしてそれと同時に、世界が、百八十度姿を変える。
柔らかいベッド。
そして目の前には、銀髪の青年。
あまりに突然の、それも一瞬の出来事に、アリシアの思考回路は完全にショートしてしまっていた。
「黙ってここにいろ。一言も声を出すな。...いいな?」
男は--ジェイドはアリシアの耳元でそう囁くと、アリシアに頭から布団をかぶせた。