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井戸の底にいる人

作者: 秋乃時雨

 夏になると池は干上がって井戸が現れる。

 近づいて見てみたいかったけど、まだ地面がぬかるんでいたから、遠くで見ていることしかできなかった。

 おじいさんから、ここにある井戸の話を何度も聞いている。

 おじいさんがまだ子供だった頃、この井戸は少しの間だけ村を支えていた。

 水道が通ると同時に、井戸は使われなくなり池の中へ消えた。

 夏になる度に井戸を見に行った。

 中々井戸は姿を現さないが、夏休みの中頃を過ぎると姿を現す。

 でも、近づくことは出来ない。

 何年たっても、何年たっても近づくことは出来なかった。

 小学校最後の夏休みは酷い猛暑に襲われた。

 次々とダムが干上がっていった。

 池も泥濘一つなく干上がり、井戸に近づくことが出来た。

 高鳴る思いに任せて井戸に近づく。

 真っ暗で底が見えなかった、でも干上がって水はないと思う。

 バシャ

 と、水の中で何かが動く音がした。

 まだ底の方に水が残っているのかもしれない。

 バシャ

 また何かが動いた。

 誰かいる。でも誰が?

 真っ暗な井戸の底を見る、でも何も見えない。

 バシャ

 得体の知れない不安に襲われた。

 急いで井戸のそばから離れる。

 池から上がって井戸を見る。

 井戸から水の中で何かが動く音はしない。

 誰かがいた。

 深い深い井戸の底に誰かいた。

 暗い暗い井戸の底に誰かいた。

 誰かがいて動いていた。

 踵を返して走って池から離れる、もうあの井戸に近づくことはない。

 バシャ





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