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チートな四人組がなにやら大暴れするそうですよ?  作者: 国広 仙戯


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《反逆児は昨日を生きない》 2




 例え〝操り人形〟で矛先を変えたところで、〝バルーダー〟の途方もない威力はそれだけで無視できない影響を周囲に及ぼす。それも狭い室内ならなおさらだ。急激な気温の変化によって爆風が起こり、圧倒的な光が壁と天井をどん欲に食い尽くす。


 真横に放たれた光の柱を純がとっさに真上へと飛ばしたが、それだけで無事に済むはずがないことは誰にでもわかる。だからだろう、珍しく浮が動いたのは。


 長い腕を伸ばして昂と純の首根っこをひっつかむと、その時にはすでに麟が浮の服の裾を掴んでいる。確認するまでもなく麟が自分の意図を読んでくれていて、浮は少し、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべた。


 瞬間移動する。


 〝バルーダー〟に巻き込まれずに済む最低限の距離の移動だったが、ファーブルを逃すには十分すぎた。今から元の場所へ戻っても、間違いなく彼女の影も踏めないだろう。


 四人の現在位置は地上。元は元帥府ビルだった瓦礫の山に囲まれた、廃墟の一角である。そこから三十メートルほど南の空に、太い光の柱が立っていた。


 四人は呆然と、光の柱が消え去るのを見送る他なかった。光が消えた後も、しばらく誰も口をきかなかったのは、四人の少年がこれまで『敗北感』というものをほとんど感じたことが無かったからだろう。瞬間湯沸かし器の昂ですら、感情が口を衝いて出るまで数秒を要した。


「──おいおいおいおいおいおい! 一体なんだってんだ! 反則だぞありゃあ!? つうかアイツのどこが『か弱い美少女』だってんだ! ああくそっ!」


 傍にあった瓦礫の山を蹴り飛ばして地団駄を踏む昂を、純がくすくすと笑う。


「いらついてますねぇ、昂君。っていうか結構こだわってますね、『か弱い美少女』って所に。そんなに気にいらなかったんですか?」


 ぎらり、と抜き身の刀身のごとく、赤い瞳が殺気に輝く。


「当たり前だこの野郎! 俺はテメエでテメエのことを『可愛い』とかほざく女は死ぬほど嫌いなんだよ!」


「昂殿、純殿。論点がずれている。悔しがるなら彼女を逃してしまったことを悔しがれ」


「そういう麟君は本当に悔しそうですね?」


「当然だ。自分の開発した物にしてやられたのだからな」


 苦虫を噛みつぶしたように麟は吐き捨てる。すると隣に立つ浮の手が伸びて、その頭を優しく撫でた。


「……浮殿?」


 浮は、麟の頭に大きな手を乗せたまま無言。麟は数秒、不思議そうに浮を見上げていたが、やおら口元に微笑を浮かべ、


「そうだな、イライラしていても埒はあかない。まずは落ち着かねばな。ありがとう、浮殿」


 わかればいい、と言いたげに浮が頷くと、思い出したように純が重大な一言を放った。


「あ、そういえば、蜜姫嬢の身体は?」


 沈黙が落ちた。


 全員が瞬時にして声の出し方を忘れてしまったかのような時間が流れる。互いの顔を見合わせ、誰一人として『事態があまりに切迫していたためすっかり巫桜院蜜姫のことを忘れていた』ことを確認しあう。純と浮は平然としているが、昂と麟の顔色は潮が引くように蒼くなっていく。


 あの〝バルーダー〟である。超然とした浮ですら危険を感じて避難するほどの威力である。実際、今でもかすかな振動が足下に伝わってきている。地下で内部崩壊が起こっているのだ。


 無事であるわけがない。


「……やべえ。洒落になってねえぞ」


「うむ……」


「任務失敗、ですかね? でも、ただじゃ帰れませんよねー」


「聖子が処刑される」


 わかりきったことを口にすることにより、その事実は鉛のような重みをもって四人の肩にのしかかってくる。


「どうします?」


 何故こいつはこんな状況でも微笑みを絶やさずにいられるのか、と昂と麟が憮然とするほど楽観的な声で問いかける純に、


「捜すしかあるまい」


 と、溜息混じりに答えたのは麟である。


 四人の任務は『龍日と安全保障条約を結んでいるヴァイツェンに拉致されたと思われる二三宗家の令嬢、その生存確認および救出』である。生存どころかアトレイユタイプのアンドロイドであることまで確認しておきながら、救出はできませんでした、では話にならない。


「この際、彼女がアンドロイドであったことが逆に幸いしたな。死んだ人間を蘇らせることは出来ないが、壊れたアンドロイドなら修復することができる」


「修復できんのかよ? AタイプはBタイプとは全然違うんだぜ?」


「私を甘く見るなよ、昂殿。その程度のことなら何とかしてみせる」


 先程ファーブルの前で外したミラーシェードをかけながら、麟は強い口調で言い切った。昂は、おもしれえ、と鼻で笑い、


「任せてやろうじゃねえか。んじゃ、捜し物も二つに増えたことだしな。また別行動すっか?」


 おそらくはバトライザーが握っているであろう、蜜姫の心臓である『星石』。その『星石』の入れ物である巫桜院蜜姫の身体。四人もいて、一つ一つを仲良く一緒に捜す必要はどこにもない。


「では、僕と昂君で『星石』の方を。麟君と浮君で蜜姫嬢の身体を、という感じでいきましょうか」


 ここで昂は渋面で麟を指さし、こう言いつける。


「ああ、あとついでにあのバカ女も捜しておけよな」


「うむ。私と浮殿は蜜姫嬢の身体とファーブル殿を捜し出し、安全な場所へと確保しよう。……すまないな、危険な方を任せてしまって」


「遠慮してんじゃねえよチビスケ。テメエにしろ浮にしろ性格が荒事向きじゃねえんだ。ドンパチは俺と純に任せとけ」


「……そうだな。荒事は馬鹿な野蛮人に任せるとしよう。頭を使う作業が向いていない昂殿には特にうってつけだ」


「……誰が馬鹿な野蛮人だコラ?」


「誰がチビスケだ?」


 険悪な雰囲気を剣山のように尖らせ、不毛な睨み合いを始めた二人の間に、レフェリーのごとく純が割って入る。


「はいはい、ケンカはいけませんよ? では昂君、僕達はとりあえず情報収集に出掛けましょうか。バトライザー元帥がどこにいるのか、蜜姫嬢の『星石』がどこにあるのか、さっぱり見当がつきませんし」


「つうか、この瓦礫のどっかで死んでるかもしんねーけどな」


「あははは、それはそれで楽ですねー。『星石』を捜すのが面倒ですけど」


「いや、残念ながらここに『星石』はない。あるならば屋上で〝知恵の輪〟を使用した際に気付いているはずだからな」


「んじゃ、バトライザーの奴はどうなんだよ?」


「それはわからん。というよりも、正直どうでもよかろう。我々の目的は、突き詰めれば一体のアンドロイドを正常な状態で連れて帰ることだ。この国の元帥が何を考えていようが関係はない。パンゲルニアと戦争がしたいのならば、させておけばいいのだ。もう死んでいるならなおのことどうでも良い」


 バトライザー本人が聞けば眉間の皺を五本は増やしただろう台詞を吐いて、麟は再び浮の服の裾を掴んだ。


「浮殿、我々は一度、先程の場所へ戻るとしよう。蜜姫嬢の身体を探さねばならない。ところで、合流はどうする?」


 前半は浮、後半は昂と純に向けての言葉である。口調は厳めしいが、小柄な少年が巨漢の服を掴んでいるという姿は、見ていて実に微笑ましいものがある。純はくすくすと笑いながら、


「では蜜姫嬢の身体を確保して修復が済み次第、そちらから浮君のテレパスで連絡をください。こちらが先に終わっても僕達は適当に時間を潰しておきますので」


「? ああ、了解した……?」


 純の笑い方に微妙な違和感を感じた麟だったが、彼が笑っているのはいつものことだったので気にしないことにした。だがそのすぐ隣で、くっくっくっ、と昂が笑っているのは納得がいかない。


 その昂が、


「おい麟、必要以上に女に悪戯すんなよ?」


 と言った途端、麟の顔に火がついた。瞬間湯沸かし器というあだ名は、実は麟にこそうってつけなのかもしれない。彼は全身をわなわなさせ、


「だ、誰がするものか! 貴殿と一緒にするな!」


 恥ずかしさのあまりか、その声は完全に裏返っていた。今にも如意宝珠を取り出して昂に飛びかかりそうな麟の頭を、浮の大きな手が抑える。純は口元に手を当てて控えめに、昂はしてやったりという顔をしてケラケラと笑う。


「顔を真っ赤にして可愛いですねー、麟君は。でもダメですよ? 蜜姫嬢へ最初に悪戯をするのは僕なんですから」


 などと実にくだらないことを純が言った瞬間、笑っていた昂も赤面していた麟も一転して無表情の仮面をかぶり、


「「黙れ変態男」」


 と声を重ねたのだった。


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