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狐火編 第一譚 秋祭


うたが、きこえる。


遠い


『あかねのねいろのそのむこう』


懐かしい


『あかねのとりいのそのむこう』


もう、取り戻せない音色


『せかいのあわいのゆめうつつ』


        ・ 

        ・ 

        ・ 


「結羅ッ!おい、大丈夫かよ!?ボケッとしやがって・・・危ねーじゃねぇか!!」

「あ、ごめんね紅蓮」

肩に乗っている小動物に怒鳴られて目が覚める。正確に言えば小動物ではなくて、妖狐なのだが。

「流石にこんな所で立ちながら寝るのはやめろよ。」

どうやら私は境内の御神木にもたれかかって寝ていたらしい。

だって昨日は紅蓮がお祭りに連れて行ってくれるって言うから楽しみで寝られなかったんだもん。なんて口には出さないけど。

「うん・・・そういえば紅蓮、お祭りで何食べたい?」

「たこ焼き!!」

たこ焼きかぁ、、、食べたことないけど紅蓮が即答するくらいなら、きっと美味しいんだろうなぁ

「うん、じゃあお祭りでたこ焼き食べよっか!」

「ああ、決まりだな!」



      * * *


じゅわぁぁぁぁっと「たこ焼き」が焼けている。

「へぇ~たこ焼きってこうやって作るんだ」

「そーだよ!すげぇだろ!?いいだろたこ焼き!!」

紅蓮がこんなに楽しそうに話すなんて…めずらしい…

「お姉さん、買うの?買わないの?」

店の前で話していたら、店のおじさんに怪訝そうな顔をされた。無理もない。ただの人から見れば、紅蓮は普通の狐に見える。だから私は店の前で一人でぺらぺらと喋っている変なひとに見られる。

「あ、えっと1パックください」

「はい、400円ね~」

お金を払うと先程焼いたばかりのたこ焼きが詰まったパックを渡される。

「あ、あの、、、ありがとうございます」

「まいど~!」

初めて一人で買い物が出来た。感動だ。

「お買い物出来たね~紅蓮!」

「よっし早く食うぞ結羅!」

パックを開けると美味しそうな香りが漂ってくる。

「はい、紅蓮あーん」

「んっ!熱ッあっつ!!うまっ!」

「紅蓮、美味しい?」

「おうっ!うめぇんだから結羅も食えっ!!」

「はいはい・・・それにしても、驚いたなぁ。人ってこんなに沢山いたんだね。」

「・・・神社の外にはな。」

紅蓮が遠い目をして答える。

そっか。私神社の外なんか行ったこと無いからね。

「・・・紅蓮、連れてきてくれてありがと。お祭り、本当に来られるなんて思わなかった。」

紅蓮が溜め息交じりに答える。

「なぁに言ってんだ水くせぇ。ずーっと神社に閉じこもってちゃ病気になっちまうぜ?『掟』は大事だけどお前はもっと遊んだっていーんだよ!」

紅蓮がふわふわした尻尾で頬を撫でてくれる。

「見てみろ人々を」

「人々・・・?」

「そ!なんかノーテンキそうに遊んでんだろ。あんな感じでさ」

紅蓮が前足で示す方を見てみると、人々が集まって、何やら雑談をしている。

「う~ん・・・よく分かんないなぁ。ああいう風に集まってるのが楽しいのかな?」

「友達同士で遊ぶっつうのがいいんじゃねぇの?」

「トモダチ・・・?ふぅん・・・」

「?何だよ。」

「じゃあ人々とトモダチになって教えてもらおっか。」

そうじゃん。それがいい。名案だ。

「・・・は!?ちょっと待て。なんでそーなる。」

紅蓮が慌てたように言う。

「紅蓮が言ったじゃん。人々みたいに遊べって。」

「それとこれとは・・・」

「ちがくありません~」

「やだぞおれは!結羅ッ!」

むぅ~そんなに頑なに反対しなくても良いのに。

「できたら面白いと思うんだけどなぁ。神社の外の人々のトモダチ。」

「絶対反対!!」

「え~?・・・わ・・・」

通路の脇に、沢山の朱の風車が飾られている。

「すごい・・・風車だ。こんなにいっぱい。すごいね紅蓮!」

「あ・・・あぁ」

もう少し奥へ行ってみる。

「あ」

「ん?どした?」

そこには濃紺のブレザーを着て、ネクタイをし、首にはマフラーを巻き、その上からヘッドホンをつけた若い男の人が立っている。

・・・なんでだろう。この人、知ってる気がする。

「・・・なんかスゲー顔して風車睨んでるな。親の仇みてーだ。」

「・・・あ」

「結羅?」

「ねぇきみ、はい、これ落ちてたよ。」

彼の足元に落ちてあった風車を拾って差し出す。

「・・・俺んじゃねーよ。」

「あれ、そうなの?足元に落ちてたからてっきり。じゃあ私がもらっちゃお。綺麗だよね~これ。」

風車に息を吹きかけると、カラカラと音をたてて回り始める。

「・・・・・・」

「嫌いなの?風車。さっきからずっと睨んでるよね。」

「・・・別に・・・つかなんだよあんた。」

「私?私はね、結羅。」

「は?『ユラ』?名前?」

「うん、名前。きみは?」

私の問いかけに、一瞬困った顔をする。

「・・・空木だけど・・・」

「・・・うつき・・・」

「なに?」

「ううん、なんでも。よろしくうつき!」

「・・・よろしくって言われてもな・・・もういい?用事あるから早く帰りたいんだけど。」

「あ、うん。ごめんね。」

私が答えると、うつきは踵を返して帰ろうとする。

「・・・うつき!」

私の呼び掛けに、こちらを振り返る。

「ありがとう。またね。」

「・・・・・・」

彼は私の方を一瞥すると、また踵を返し、今度は足早に立ち去って行く。

「・・・行っちゃった」

「結羅」

紅蓮が風車の方を見て言う。

「お前はこの祭りのモチーフが紅葉だって知ってたか?」

「え?」

「この祭りは主様のために沢山の紅葉を咲かせるためのものなんだ。だからそれを模した、朱い風車や燈籠や提灯をいっぱい飾るんだよ。」

「へ~そうなんだ。じゃあこれ全部紅葉?」

「ああ、そういうこと・・・」

刹那。

ダダダダダッと音がしたと思うと、すごい勢いで誰かがぶつかってきた。

「「いったたたた・・・」」

うぅ~

起き上がりながら紅蓮に声をかける。

「紅蓮、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。つーか何が起こったんだ?」

「人が・・・すごい勢いでぶつかってきた。」

「なるほど。」

すると、ぶつかってきた人に怪訝な顔をされる。

「一人で何を話している?」

「え?ああ、なんでも。」

改めて、ぶつかってきた人を見る。

さっき会ったうつきよりもかなり背が高く、眼鏡をかけている男性だ。

「お前、そこで何をしていた?」

えぇー・・・この人いきなり何言ってるんだろ

「・・・別に何も・・・」

「嘘をつけ!!・・・・・ふぇくしっ!へくしょっ!」

なんだろこの人・・・ちょっと面白い・・・

「・・・あの、大丈夫・・?」

「おい結羅ッ関わりあいになるなっ」

「だ・・・大丈夫だ・・・構わなくていい。」

大丈夫そうな気はしないが。

「おい結羅行こうぜ。あんま人に構うなって・・・それになんかアイツ変だし」

紅蓮がひそひそと話しかけてくる。

「でも・・・」

「?また一人で何を喋っている?」

「ううん、何でもない。えーっと君は?」

「俺の名を知ってどうする。そんなことよりここで何をしていたと聞いているだろう!」

「え~別に・・・てゆうか君、さっき全力でぶつかってきたこと揉み消そうとしてない?」

そう言うと、紅蓮が肩から飛び降りた。

「うざってぇな!しょうがねえ、ちょっと撒いてやるか」

「紅蓮?」

すると紅蓮はすたっと彼の肩に飛び乗り、かけていた眼鏡をくわえて走って行く。

「結羅はどっかで待ってろ!ちゃんとにおいで見付けてやるから!」

紅蓮が走って行くと、彼も紅蓮を追いかけて走って行く。

「おい!眼鏡を返せ小動物!!」

・・・行っちゃった・・・

どうしようかな。どっかで待ってろって言われても・・・

初めて来るところだしどこに何があるのか分かんないよ。

人がいっぱいいるところには行かない方がいいかなぁ。その方が見付けてもらえそうだし。

そういえば、さっき会ったうつきや眼鏡の人、他の人々と違う感じがした。あの二人だけ・・・何でだろ?

特別な人なのかな?それなら、もしかしたらトモダチになれるのかな?


・・・?

鈴や太鼓の音が聞こえる。

前を見ると、何かの行列が神社の方へ歩いて行く。

なんだろあれ・・・

うた・・・?

「あかねのねいろのそのむこうー」

「あかねのとりいのそのむこうー」


・・・この歌・・・


「あかねのねいろのそのむこうー」

「あかねのとりいのそのむこうー」


知ってる・・・?


「こいしやかのこえかのなまえー」

「かそけきみなものわらべうたー」


        ・   

        ・

        ・


「おい結羅ッ!」

「あれ・・・紅蓮・・・」

どうやら私はまた寝ていたらしい。

私が起き上がると紅蓮はほっとした顔になる。

「あ、人バージョンだ。どしたの?」

紅蓮は普段、白い狐の姿をとっているが、彼の気まぐれでたまに人の姿をとるときがある。

「どうしたじゃねーバカッ!具合悪かったなら言えよもー!!」

「あれ?そういえば私なんで神社で寝てるの?紅蓮が運んでくれたの?」

「知らねーよ!アイツ撒いてお前のにおい辿ってきたらもうここで倒れてたんだ。痛いとことかねーか?」

「痛いとこは無いけど・・・なんか不思議な夢見ちゃった。」

「は?呑気だなぁーこっちは心臓無くしかけたっつーの」

「うぅ・・・ごめん・・・あ。紅蓮、今何時?」

紅蓮は私の質問に、ぴくっと体を動かし、それから動きを止める。

「あ゛ーーーー!!」


  * * *


「はぁ・・・いつかしでかすとは思っていましたが・・・まさか祭りの日を選ぶとは・・・お前たちらしいといえばらしいですが」

重い溜め息を吐き、渋い顔をする眼鏡をかけた初老の男性は、御榊[ミサカキ]さんである。彼はこの街の神社・桜麗[ユスラ]神社に棲まう主である神の右腕的存在の人物だ。

「も・・・申し訳ございませんでした御榊様!」

紅蓮が頭を下げる。

「御榊さん、ごめんなさい・・・」

勿論言い付けを破った私も謝る。

「結羅さん、君はまだ山を降りることを、主から許されていない。勝手に抜け出したからには相応の罰を・・・」

「御榊様!!悪いのは俺です。罰は俺が全部受けます!!」

「ちょっと紅蓮何勝手なこと言ってんの?行きたいって言ったのは私だよ?」

「バカ言え誘ったのは俺だ!!行けないお前に一方的に祭りの話して・・・」

「私だってお祭りに行って楽しかったんたから私が悪いん・・・」

「バカ結羅ッお前は悪くないんだから黙って見てろ!!」

紅蓮がポカポカ殴ってくる。

御榊さんはおやおやとそれを見ている。

「こら二人とも・・・困りましたね」

「ははは・・・本当におぬし達は仲が良いのう。」

「彩輝様!」

私達がもめていると、狩衣を纏い、烏帽子を身に着けた男性が現れた。神社の主である神・彩輝[サイキ]様だ。

「ぬ・・・主様・・・!」

紅蓮が慌てて頭を下げる。

「初めての下界は楽しかったか?結羅。」

彩輝様が笑顔で問うてくる。

「彩輝様・・・」

彩輝様は笑顔で続ける。

「今日は特別な祭りの夜じゃ。明々の光に誘われるのも仕方がないと言うもの。のう御榊。」

彩輝様の言葉に、御榊さんは戸惑った顔をする。

「随分と甘いことを・・・これでは示しがつきませぬが?」

御榊さんの言葉に、今度は真面目な顔をして答える。

「・・・確かに、言い付けを破るのは良くない。」

うぅ・・・

「・・・だがまあ、おぬし達も十分わかっているようじゃからのう。」

彩輝様は元の笑顔で締める。

ふぅ。

「紅蓮、なんか助かっちゃったみたいだね。」

こそっと囁いてみる。

「うう・・・マジで尻尾抜かれると思った・・・」

しおしおとした様子で紅蓮が言葉を返す。

そんな私達を見て、彩輝様は楽しそうに笑う。

「楽しかったようじゃのぅ。」

この言葉に今度は自信を持って笑顔で答える。

「はい、とても!」

だが御榊さんは、渋い顔をして溜め息を吐く。が、気にしない。

「・・・どうせなら、彩輝様とも一緒に行きたかったなぁ」

私の呟きに、彩輝様は一瞬きょとんとする。

「む?そうじゃのう。先に教えておいてくれればわしも一緒に抜け出したんじゃが。」

「じゃあ次は先に誘いますから忘れないでくださいね~」

こんな私達のやり取りを見て、御榊さんは先程より重い溜め息を吐く。

「ハァ・・・」

それを見て、紅蓮は苦笑する。

「すごい溜め息重いですよ御榊様。」

「まったく彩輝様は結羅さんに甘くて困る・・・」

「・・・御榊様もじゅーぶんかと。」

「何か言いましたか?」

「いえー」


「あ、そういえばこれ」

そう言って、私は彩輝様に祭りで拾った風車を差し出す。

「・・・風車?」

「祭りで拾ったんです。良かったら彩輝様、貰ってくれませんか?これ、彩輝様の好きな紅葉だって聞いたから。拾ったやつで、申し訳ないんですけど・・・」

私の言葉を聞くと、彩輝様は嬉しそうな顔をする。

「いや、構わぬ。綺麗じゃ。ありがとう結羅。大事にするぞ」

彩輝様に風車を手渡した後、ふと気になったことを聞いてみる。

「・・・そういえば、この風車を拾ったときに不思議な人に会いました。」

「ふしぎ・・・?」

「はい。他の人々とは違ったって言うか・・・すごく知ってる気がして。」

「・・・ほう。」

彩輝様が薄く口元に笑みを浮かべる。

「あ、あともう一人いたな。そっちはなんだかすごくヘンな人で、でもなんだか気になるかもっていう・・・」

「そうか結羅、見付けたか。」

「え・・・?」

「・・・これは存外良い機会だったのかもしれぬな。」

「あの、彩輝様、それってどういう・・・」

「のう結羅、その二人にもう一度会いたいか?」

「え・・・」

「もう一度山を降りて、その者達と再び会いたいと、そう思うか?」

風車に息を吹きかけながら、彩輝様が訊ねてくる。

「・・・はい、会いたいです。」

「・・・そうか。ならば結羅、その者達と仲良うなれ。・・・そして此処へ連れて来い。・・・お前にとってその二人が本当に特別なら、いずれお前はその者達を必要とするじゃろう。そのときの為に、準備をしようではないか。」

「準備・・・?一体あの人達に会って何の準備をするのですか?」

今度は御榊さんと紅蓮の方を向いて言葉続ける。

「良いな、御榊、紅蓮。」

「御榊さん、紅蓮、どういうこと?」

「致し方ありませぬな。」

「・・・ま、そんな気はしてたんだよ俺は。」

再び質問をする間を与えずに、彩輝様が口を開く。

そして、荘厳に言葉を紡ぐ。

「結羅、お前に命ず。山を降り、人々の街へ行き『宴』の支度をするように。」

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