第二話 ピンチの後の大ピンチ。 3
うげっ。
なんで、いきなりアダルトビデオ!?
『あ、あん……社長、もっとぉ』
舞台は、会社の会議室のような場所だった。
事務服を身にまとい、というより、身体の端に引っ掛け状態で肌を露にして、身も世もなく乱れる女性はOL風。
一方、若干、恰幅のいい年かさの男性は、社長さんという設定らしい。
いわゆる、オフィス・ラブものだ。
『あ、やんっ、そんなことぉ』
うひゃーっ。
なんかすごすぎ。
見てはイケナイものを見てしまった気がして、恥ずかしさで頬にぶわっと血がのぼる。
ハッと、我に返り、慌ててチャンネルを変えようとして、ふと、彼に言われた言葉が脳裏を掠め、手が止まった。
『人形を抱いてるみたいで虚しい』と、
そう、彼は言った。
確かに、今、画面の中で繰り広げられているモノに比べたら、私の反応など、 人形みたいに思えるだろう。
だけど、私にだって、言い分はある。
私にすれば彼が初めての恋人で、有体に言えば『初めての男』。経験豊富とは言えないのだから、その辺は大目に見て欲しい。
おケイの言い草じゃないけれど、彼にだって責任の一端はあるって思う。
なんて、逃げるしか出来なかった弱虫が、主張できることじゃないわよね。
もはや、コミカルにすら思えるビデオの世界を見るともなしに目に映しながら、つらつらと考えてみる。
この女優のように、演技でもすればよかったのかなぁ。
チラリと、頭の片隅で想像して、全身全霊を込めてその想像という名の妄想をかき消した。
ムリ、ムリ、ムリっ!
そんなこっ恥ずかしいこと、絶対ムリだ。
どう考えても、コメディにしかならない。
それにしても、何だか、今日は疲れたなぁ。
お金を借りられる目処がつき、テンパっていた気持ちが緩んだせいだろうか。忘れていた疲労感と倦怠感が、タッグを組んで襲ってきた。
それに、あまりに、色々なことが一度に起き過ぎだ。
短時間で気持ちのアップダウンが激しかったことも相まって、脳細胞がオーバーヒートしている。
ぐわっと、闇に引き込まれるみたいに、猛烈な睡魔に襲われた。
アダルトビデオの音声が、まるで子守唄のように、遠くで聞こえる。
眠っ……。
でも、おケイが来てくれるんだから、起きてなくっちゃ……。
と思ったのが最後。
すうっと意識が途切れ。
――コン、コン、コン。
上がったドアのノック音に、再び現実に引き戻された。
ギョッとして腕時計に視線を落とせば、既に四十分経過。
うわ、寝ちゃった!
あたふたと立ち上がるが、まだ目覚めきってない脳細胞が不平をならして、動きがおぼつかない。
――コン、コン、コン。
間を置いて、きっかり三連打。
再び上がったノック音にせかされて、寝惚け眼を擦り擦り、部屋の入り口によろよろと歩み寄る。
二、三十分で着くと言ってたから、大分待たせちゃったかも。
「ごめーん! うとうとしちゃって……」
謝りざま、カチャリと、ドアを開けた次の瞬間、私は、ギクリと動きをとめた。




