第二話 ピンチの後の大ピンチ。 2
はぁっっと、特大のため息を付いた後。かくかくしかじかと、私はことの成り行きを包み隠さず話して聞かせた。そして。
『何、それ? 三年付き合った彼女に向かって、不感症だぁ?』
電話の向こう側で、親友殿は、怒り心頭に発しているご様子だ。
まるで、自分のことのように憤ってくれる彼女の反応が、とても嬉しい。
『あんたのナニとテクニックがお粗末なんじゃないの? くらい言ってやったんでしょうね?』
「あ、あははは……」
忘れてた。
おケイは、外見はセクシー美人だけど、性格は私以上に男前だったんだっけ。『ったく、そんな男、別れて正解よ。とにかく、いきさつは分ったから。今からお金を届けるね』
「うん。ほんっと、助かるよ。ありがとう、おケイ」
ああ、持つべきものはやっぱり、困ったときに頼りになる友達だ。
男なんて、もうたくさん。
今日からは、仕事と友情に生きてやる。
そんな決意を胸に、電話の向こう側の優しい友人に、心からのお礼を言った。
『そうね。今の時間帯ならそのホテルまで、二十……三十分くらいで行けるかな』
「うん」
『着いたら、部屋のドアを三回ノックするから、それ以外は開けちゃだめよ? ほら、色々と物騒だからね』
今、新聞紙面やワイドショーを騒がしているホテルの利用客を狙った押し込み強盗。従業員を装い、部屋に入り込むのが犯行パターンで、金品を奪うだけじゃなく、女性が暴行を受けるという、痛ましいものだった。その記事を思い出して、思わずゾクリとしてしまう。
「う、うん、分った。悪いけど、お願いね」
『了解』
ぷつり、と電話を切れば、いよいよ増大する、言いようのない不安感。それを消そうと、両手で自分をかき抱く。
こう言う場所に一人で居ることがこんなに心細いものだと、初めて感じた。
今までは、いつだって『彼』が、一緒だったのに。もう、二人で訪れることはないんだ。
不意に、鼻の奥に、ツンと熱いものが込み上げてきてしまう。
ええい、もうっ!
自分の弱さを振り払うように、頭をブルブルと振る。
何、センチメンタルになってるのよ。
じめっとしたのは、性に合わない。
弱気になってどうするの。
あんたは、元気なのが取り柄でしょうが、菜々葉。
おケイが来たとき、しょぼくれた顔を見せて、心配を掛けるわけにはいかない。
気を紛らわそうと、ソファに座り、テレビの電源を入れたとたんだった。
『あっ……。あ、あ~~ん』と。
どこから出しているのかと思うような女の甘い嬌声と共に、クンズホグレツしている、あられもない男女の姿が、テレビの画面に大写しになった。




