表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第二話 ピンチの後の大ピンチ。 6


「さ、榊くん!?」

 榊耕平さかきこうへい

 二十五歳。

 私の同期入社の同僚で、男性社員では一番仲がいい、気の置けない男友達。

『な、なんで、榊くんがここに居るの?』と、出しかけたその言葉は、一際高く上がった女のあえぎ声で、喉の奥に引っ込んでしまった。

『あ、あんっ、いやややぁんっ』

 もちろん、私が上げたものじゃない。

 例の、アダルトビデオだ。

 付けっぱなしで寝てしまって、そのままだったことに、ようやく気付く。

 最初に見たものとは違う作品らしく、今度のカップルは、SMが趣味らしかった。

 赤いしめ縄で身体を縛られた女と、ロウソクを片手に黒い鞭をふるう男のカップルが、怪しげな世界を繰り広げている。

 げ。

 げげっ。

 なんぞ、これっ!?

「あああ、あのっ、そのっ、これはねっ!」

 しどろもどろで弁解を試みるけど、何をどう弁解すればいいのか分からない。

 だって、この状況は誰が見ても、『二十三歳女子、ホテルの一室で、深夜のアダルトビデオ鑑賞の図』以外の、なにものでもない。

「その、誤解しないで……ほしいな……なんて。アハハハ」

「……」

 ごにょごにょごにょと、尻つぼみになる私の言い訳に、榊くんは答えず、ちろり、と伺い見れば、先刻と同じ、険しい表情のまま、テレビの画面に見入っている。

「あ、あの、榊くん?」

「……」

 ちょっと、キミ。

 仮にも、女子を組み敷いたこの体制で、AVに見入ることはないでしょうが!

 と、普段なら、文句をいう所だけど、

 さすがに、この訳の分からない状況では言い出しかねた。

 恐る恐るの体で、

「あの……」

 と、口を開こうとしたとたん、ジロリと鋭い視線を向けられて、すくみ上がる。

 な、なんで、睨むのよー。

 パーツ自体は整っているだけに、これだけ至近距離で眼光鋭く睨まれると、かなり怖い。

 普段はニコニコと愛想が良い彼の、その見慣れぬ表情のせいで、いつものように気安く言葉が出てこなかった。

 もしかして、怒ってるの?

 さんざん殴る蹴るしたから?

 で、でも、それは、あの場合、不可抗力でしょうが。

 第一、なんで榊くんが、ここにいるのよ!

 と、言葉にすることも出来ずに、どきどき悶々としていたら、

「ふうん、市村って、意外な趣味もってんだな。いやー、新発見新発見」

 と、感心したような間の抜けた声が降ってきて、肩の力がすうっと抜けてしまった。

 顔にも、いつもの愛想の良い、ニコニコスマイルが浮かんでいる。

 なんだ。いつもの榊くんだ。

 「違う違う。そんな趣味、これっぽっちもないから!」

とりあえず、

「重いから、どいて?」

 ほっとして、やっといつものように言葉が出てくる。

「ん? ああ、悪い、ほら手」

 ワンアクションで、身軽にひょいと起き上がった榊くんは、スカートがめくれ上がってジタバタともがいている私の手を取り、引き起こしてくれた。

 そうそう。

 愛想が良くて、何気に優しくて。

 これが、いつもの『榊耕平』だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ