なんという神ポジション 1
また、2話構成です。すみませんm(__)m
私は長期休暇を利用して旅行に出ることにした。都会で息苦しい生活を忘れたかったため、独りで全く名前を耳にしたことがない村に行った。観光には物足りない所だが、交通機関すらあまり通ってないせいか、自然は豊かで、静かだ。その点に付いては私はとても満足している。
しかしだ。どうにも視線を感じる。それも一人ではない。まるで村人全員から私が奇異の目を向けられてるようだ。私は平凡な男の容姿をしているし、無論、ここに来るのは初めてである。ここの住民たちの恨みを買った覚えはない。
宿舎についても不愉快な視線に私は苛立った。皆を私を見てはこそこそとなにか囁いている。たとえ、自分の部屋にこもっても私の心は安らがない。堪りかねた私は仲居に
「なにか私の存在は特殊なのかね。この村についてから常に見られている気がするんだが。」
嘘でもいいから、お客さまの気のせいでしょう。とか言ってくれればいいのに仲居は驚いた表情を見せた後直ぐに、何も言わず口を押さえて出ていってしまった。
ますます、私のこの村への不信感は募る一方だった。仲居に出された料理もうまくのどを通らない。そんな時だっただろうか。
「失礼します。」
旅館の主人だろうか。口髭を生やした男がドアを開けて私の部屋に入ってきた。礼儀をわきまえたつもりだっただろうが、どうにも私にジロジロと目線を送る。
「何か用ですか。」
「先ほどうちのものが無礼を働いたお詫びを申し上げようと・・・」
「・・・あんただって私のことが気に入らないみたいだが」
「めっ、滅相もございません。どうか・・どうかお許しを」
主人は頭を畳に打ち付ける勢いで土下座を何回もした。異様な光景に私はあっけにとられる。
「顔を上げてください。別にそこまで求めてませんよ。」
「お許しいただけるのでしょうか。ありがたや、ありがたや・・・」
また主人は頭をさげることを止めない。先ほどと違うことといえば謝罪の言葉が感謝の意に変わっただけだ。私を嫌ってはないようだが、なんとも気持ち悪い。
「どうして私に度を越した対応をするのですか。」
「いや、それは・・・」
主人が口ごもったその時だった。
「神子様、神子様ぁぁぁ」
突然大人数の人々が私の部屋の前で叫び始めた。
「な、なんですか。これは。」
「すみません。すみません。今黙らせますから、どうかお許しを・・・」
主人は泣きださんばかりだった。何度か誤ると、戸を勢い良く開け、
「じゃかぁしいぃぃいい。神子様は貴様らがやかましゅうてご立腹だ。静かにせぇえ。」
「お許しください神子様、お許しください神子様ぁ」
との向こうで先ほど主人のように村人たちは平伏した。一人の例外もなく。主人は戸をぴっしゃと閉め、私の方に向き直った。私は一番疑問に思ったことを主人に率直に投げかけた。
「神子様とは、私のことでしょうか。」
「ええ。そうでございます。この村に伝わる守り神、馬屋神子様にあなた様はそっくりでございます。」
「冗談はよしてくれ。人違いだろう。この村に来たのも初めてなんだから。」
「いやいや、この村の伝承によると、神子様は予言の年にこの村に立ち寄ると言われております。へんぴな田舎でございますから、この村に尋ねてくる人はあまり居りません。人違いということはあり得ません。」
「だからと言ってもなぁ」
「神子様はひょっとすると、風に誘われてといいますか、なんとなくここへいらっしゃったのでは・・・」
「まあ、そんなところでしょう。」
「やはり、そうでございましょう。地図にも名前が書いてあるか定かでない土地に目的があってくるとは思いません。運命ですよ。運命。それがあなた様をここへ導いたのでございます。」
「残念ながら納得のいく説明とは思いませんねぇ。」
「今年が先ほど申し上げた予言の年でございます。あなた様が神子様に間違いございません。」
主人は興奮した面持ちで力説する。そうはいってもなぁ。全然そんなこと親からも聞かされたこと無いし。この人達の強烈な思い込みだろうけど、ここまで激しいと反論しても私が神子様と言ういかがわしいものだろうと信じて疑わないだろう。弱ったな。頭を掻きながら不意に窓の外を見ると、私は目を疑った。
村人たちがこちらに向かってまるで大地に接吻するかのように一面に敷き詰められている。
違う言葉で表現しようとするとイスラム教徒の集団礼拝のそれと同じだ。どこで人が途切れているのか検討がつかない所を見ると、多分村人総出でやっているのだろう。
「神子様信じてください。私共は本気でございます。」
私は観念するしかなかった。
でも、まあ、いいだろう。私がこの村に滞在するのは明日と明後日。明後日は朝早くにここをでるから、実質明日までだ。今回は運がなかったということにしておこう。
「で、結局私は何をしたらいいのかね」
主人はおおと歓声を上げた後に色んなことを次々に口に出したので、私はうんざりして、
「今日は疲れた。もう寝る。神事とやらは明日でいいだろう。」
「お、おやすみさいませ。神子様。」
「うるさい。」
「すみません。すみません。」
「もういい。下がれ。」
こうして旅行一日目の夜は更けていった。
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