自殺の美学 Ⅱ
前回の続編です。
「服、脱いでください。」
私は固まった。さっきまでの寒さはもうどこかへ旅だったようだ。顔を中心に体温が上がっていくのが分かる。何を行っていいのか見当もつかない。私が手間取っていると、彼は素早く私の服を剥ぎ取った。
彼は私の躰をまるで上から下までゆっくり品定めしているようにみる。そして、軽く頷いて、私に近づいてきた。私は反射的に目をつむる。
「凍死で行きましょう。」
彼はそう言うと、服、着てもらって結構ですよ。と、あまり間隔を開けないで、自分が今立てた計画を早口でまくし立て始めた。私は自分が出せる最高のスピードで着替えながら彼の話を聞いた。
そのため正確に聞き取れなかったが、彼の計画の概要をまとめると、私に裸で冬山に入って死んでほしい。というものらしい。
彼は自分の崇高な凍死体の在り方について一通り説明した後、決行は明日です。と私が口を挟む間もなく締めた。
翌日。少しまた車を飛ばし、雪化粧した美しい山に到着した。彼は曇天の空を仰いで、うん。いい天気だ。と呟いた。私は服のボタンに手を掛けようとすると・・・
「何やってんですか。もっと上まで登りますよ。」
私は薄着のまま登山して体の芯まで冷えたが、道中彼に手を取られていたため、なぜか、そこまで不満はあまり感じなかった。
「ここでいいでしょう。」
彼は早く早くと言わんばかりのテンションで私を雪の上に寝かした。
「また、下見とか言うんじゃないでしょうね。」
「大丈夫ですよ。今回の小生のプランに迷いはありません。」
なんだろう、この光景は。冬山に一糸まとわない姿で横たわる女とその直ぐ近くで彼らを手に取り写真を撮る男。なんとも理解しがたいコントだ。
私がもう痛みもあまり感じなくなった頃だろうか。雲の隙間から太陽が顔をのぞかせた。
意識が遠のく私の腕を彼は思いっ切り引っ張って私の体を起こした。
「計画中止です。日光があっては作品としては二流です。」
ふざけるな。と言いたいとこだったが、こっちは凍死しかけているので、声をあげられない。彼の車に乗せられると、私はまぶたの重さに耐えられず、目を閉じた。
どれくらいたった分からない。彼のアトリエで目が覚めた。それに気づいて彼は珍しく私に話しかける。彼にとっては気を使ったほうなんだろう。
「また、中止になるのは流石に嫌でしょうから、凍死もやめにしましょうか。そうだな、やっぱりあなたの希望通り首吊りにしましょう。そうすると制作日は来年の秋ですね。」
笑って言う彼に私は堪忍袋の緒が切れそうだった。何回自殺をさせようとしてそれを邪魔するんだ。それにこんな茶番に付き合っているのだって・・・
私の中にあった彼へのなにかしらの感情は全て憎しみに変わった。ゆっくり立ち上がり大きく立派な花瓶を持ち上げ、ありったけの力で彼の後頭部に殴りつけた。
少し彼は激痛でじたばたしていたが、多分即死だろう。良い気味だ。彼だってきっとこんなにも早く自分も「作品」になると思っていなかっただろう。
私は彼の死体を俯瞰した。飛び散った血。粉々になった花瓶。ぐしゃぐしゃの花々。そして、彼の苦悶の表情。なんだろうこの湧き上がる感情は・・・
美しい。
別にこれ手直しすればひとつにできるな・・・
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