自殺の美学 Ⅰ
長くなりそうなので、前後編に分けさせていただきます。スミマセンm(__)m
全部一編にまとめるつもりだったんですけどね・・・
もう未練はない。
そう思って、山林の中、用意したロープを首まで通して・・・
「美しくない。」
突然、背後から声をかけられた。一旦、首をロープから開放し、声の主を顧みる。
話しかけてきた男は見たところ20代で、長髪。暗い感じをまとっていて、正直近寄り難い。まあ、自殺しようとしている私に言えることではないが。
「勿体無い。君は美しい女性なのに・・・」
そう言って、彼は私の顔を見た。意外にもその彼の顔は整っていた。なぜか、私は縄を手から離し、彼の話を聞く体勢になっていた。さっきまで首を吊ろうとしていたので心臓の鼓動が大きく、早い。
「やめるべきだ・・・美しい人がこんな時に首吊りなんて・・・」
「え・・・」
「首吊りの僕の意見としてはこんな夏の昼間じゃなく、秋の夕暮れがいいと思うんだよね。」
「はい・・・?」
彼は残念なイケメンだった。
自分の首吊りに関しての論を展開していく彼をただ呆然と私は眺めた。
「・・・これらのことを考えに入れると、やはり、秋の夕暮れが思考と言える・・・」
「あの・・・あなたは?」
彼は思い出したかのように、あっ。声を出した後に
「失礼しました。小生はこういう者です。」
一人称が小生の男が手渡したのは一枚の名刺。職業欄には、
「死体芸術家?」
「ええ。人間の一生はその人にとっての創作物です。小生はそれの美しい飾り付けをする者です。」
どの点においても、人間の死骸が一番です。と語る彼には悪寒が走った。
なんかこのままだとめんどくさい事になりそうだ。と感じた私は、足音をひそめてその場を立ち去ろうとするが、彼の、待って下さい。の一言に捕まった。
「あなたはまた死ぬ気ですか?」
「ええ。」
「だったら・・・」
「だったら小生の作品になってくれませんか。幾らかのお金と休むところはこちらで用意します。僕の指示に従ってくれれば、目的を遂行して構わないですから。」
彼の雰囲気に似つかわしくない瞳に見つめられてお願いされて、なぜか、私は彼の誘いその場の勢いで受けてしまった。
「そういえば、聞いてませんけど、作品って何ですか?」
「自殺ですよ。」
え?と。私が聞き返すと、
「僕があなたの自殺をプロデュースするのです。」
彼は筋金入りの変態らしい。それからしばらく、私は彼のアトリエで暮らすことになった。何もしなくていいのか。と聞くと、
「夏に自殺は似合いませんよ。冬まで待ってください。」
と言い、私が野菜ばかり出る食事に不満を言うと、
「死体は痩せていたほうがいい。」
と答える。彼は私といても、死体の話かそれ以外は睡眠か食事だ。
私はこの生活に不満を持っていたが、いざ、出て行くという旨を伝えようと彼の前に立つと、なぜか、そんな気は収まる。
結局、私は冬がくるまで待った。ある日男は、この服に着替えて車に乗ってください。と言って、白が基調の服を手渡した。私は今日が旅立つ日か。と覚悟を決めようとした。
「どこに行くんですか?」
「湖に行こうかと。」
私は顔をしかめた。こんな寒い時に入水自殺なんて、それなら夏でいいじゃないか。彼は私がそう思ったのを察してか、
「冬の雪景色に白い服を着た、白い肌の女性が冷たい水の中に入るからいいんですよ。夏じゃそうはいきませんからね。」
と言った。
ここです。と彼は私を案内した。湖は大きくない。また、田舎の辺境にあるため、水が澄んでいて、人影も全く見えない。きっと邪魔をする人は現れないんだろう。
彼に促されて私は湖の水の中に入った。湖水は予想以上より冷たく、私は早く事を終わらせようとした。しかし、
「駄目ですよ。そんなに早く入ったら。しかも、位置が違う。小生の言うとおりにしてください。」
彼は大真面目に指図した。私はなぜか、彼の言う事を聞いてしまった。彼はレンズ越しに私を見る。あーでもない、こーでもない。と彼が思案している間に渡しは凍えそうだった。大声で、死にそうだ。と叫ぶと、今までちっとも私の話に耳を傾けなかった彼は、
「困りますよ。今死んでもなんの価値もありません。」
と焦った様子で私を引き上げた。
「まだ、下見ですから。」
呆れてものも言えない私を隣で彼はブツブツ独り言を呟いている。私は寒さに耐えながらも、なぜか、彼の横顔を見つめた。
その日彼が用意した山小屋に泊まって、翌日も湖畔で彼は―――彼曰く「美しい最期の飾り付け」―――をずっと考えている。いきなり、彼は私に水に浸からせた。そして、一言。
「やめにしましょう。」
はぁ?と抗議する私を無視して彼はそそくさと山小屋に戻った。一体なんだろうか。突然やめると言い出して。だいたい、中止するなら私を湖に入らせた意味は?私が再度文句をつけようとすると、
「すいません。やっぱり入水自殺あなたには合いませんから。水に入れさせたのは、確認のためですよ。」
そう一方的にはぐらかす彼を私はなぜか、許してしまった。
日はもう暮れていたが、彼は新たな思案を練っていた。すると、例によって急に彼は渡しに言った。
「服、脱いでください。」
後編は、早めに上げるつもりです。
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