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しつこい男

 人間なら年に一回の記念日、誕生日。当人は一日中祝いの言葉をかけられたり、またそれを密かに期待し続ける。


 そのことはつい昨日海外から帰国した男にも例外は無い。男は一日後起床して誕生日を迎えた。と言っても時差ボケのせいでもう午後9時を回っているが。チラッと携帯電話を目にやる。着信はない様だ。具合が悪くて家に残った妻は遅くなります。と書置きを残している。


 男は携帯電話の電話帳から電話を掛けた。親友とも言える人物に。しばらくしてコール音が止む。

 「ああ、お前か。どうしたなんかあったか」

 男はお誕生日おめでとうって聞いてないんだけど。というような内容を言った。電話の向こうは昨日言ったぞ。とぶっきらぼうに返事した。

 「はぁ?聞いてないけど」

 男は少し大きな声で言うと相手も不快感を示した。


 「昨日お前に会ってプレンゼントの腕時計を渡したよ。まさか、またくれとか言うんじゃないだろうな。あれは一万円もしたんだぞ」


 男は自分の腕や狭い室内を見回したがそれらしきものは見当たらない。男はそんなもの貰ってない、早くプレンゼントをくれないか?と笑うと、


 「しつこいな。君がそんながめつい人間だったは思わなかったよ。」


 そう残して通話は切られた。


 男は首をかしげながら一人暮らしの父の番号に電話した。いつもなら万が一、遅れることを考えて、誕生日の一日前には必ず現金書留をよこす筈なのに。

 

 親なのに息子の誕生日くらい覚えておいてくれよ。と伝えると、父は怒りを含めた声でおめでとう。と発声した。男はありがとう。と言う前になんかあったの?と聞いた。

 「なんかあったの?だと。お前は自分の言っていることがわからんのか」

 と怒鳴り声。男はびっくりして、何が?と質問した。

 「いつもどおり今年も一日前に現金5万円を送って、昨日届いたと報告があったから例の一つでも言ってくれるのかと思ったら・・・お前はこんなはした金じゃ足らんからもっとくれと抜かしやがる。」


 男は郵便受けや財布を覗いたが、影も形も見当たらない。納得行かない男はつい、親父、金が用意できない理由にしちゃあお粗末だな。嫌味を吐いた。


 「しつこいぞ。そんな金に汚い息子に育てた覚えはない。」


 受話器はもう父親の声を拾わない。


 男は少し気が立ってきた。何かおかしい。と。

 今度はかわいがっている会社の後輩の電話番号にカーソルを合わせ、ボタンを押した。3回ほどかけ直してからだろうか。向こうはやっと電話に応じた。こちらがなにか言う前に、

 「もう電話掛けてこないでください。」

 と言われたんものだから男は声を荒らげて、

 「どういうことだ。説明しろ。」

 「説明も何も無いですよ。先輩とはもう飲みに行きたくありません。」

 「・・・昨日のことか?」

 

 男はなんとなくそんな気がして言ったら、案の定予想は当たった。それ以外何があるんですか。に続けて、

 「昨日、先輩に昼間から酒場に連れ出されてこっちは翌日出張だって言うのに・・・」

 そんな訳がない。昨日まで俺は海外に行っていたんだ。と主張するがとりあってくれない。


 「言い訳はいいですよ。しつこいですね。」


 またも電話はツーツーとしか音がしない。


 時計はもう11時を示している。男は妻の帰りが異常に遅いことが気になり始めた。一体どこに言ったのだろうか見当もつかない。大体、あいつも夫の誕生日を祝ってくれたっていいじゃないか。妻の携帯電話に掛けてみたが、なかなかコール音が途切れない。

 男は溜まっていたものが臨界点に迫ってきた。妻が何事もなかったように電話に出ると、男は抑えが効かなくなって何時だと思っているんだ。早く帰ってこい。と叫んだ。


 妻も負けじとうるさいわね。と怒鳴る。

 「昨日のことを直ぐ謝ったら許してやろうと思ったけど、切れるとはね」

 昨日、俺が何をしたと問いただすと、一瞬の無音。そして、聞こえたのは妻のすすり泣く音。さすがに、どうした。聞いたが返事がない。それでも妻の名前を呼んで昨日の話を誘導しようとするが、


 「しつこいわね。・・・もうそっちへ戻らないから」


 書類はあとで送るからサインしてね。最後にそれだけ行って一方的に妻は電話を切った。


 男にとっては訳がわからない。昨日はほぼ一日中飛行機の中にいて、携帯電話は使ってない。ましてや、こっちの国の人間に会えるわけがない。俺の影武者でもいたのだろうか。

 そんなはずはないだろう。じゃあ何だって言うんだ。


 男は一人で考えていた。多分人生で一番思考していたのだろう。熟慮して一杯いっぱいのようだった。


 そうか。サプライズなのかもしれない。皆裏で俺が何かした演技をしているに違いない。そして、俺を怒らせてからどっきりだと伝え、笑っていつもの雰囲気に戻した後、改めて祝ってくれるんだろう。


 だが、もう時計の二つの針が真上を向いて重なるまで数分だ。余程俺の度肝抜かせたいのか。親まで巻き込んで。


 まったくしつこい奴らだ。

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