落し物
幼児というものはなにか大人にはないなにかを持っている。
時折、そう感じてしまう。加えて、子供は褒められようとして、行動する生き物だと思う。
きっと、私のような子持ちの母親などはもちろん、多くの人がこの考えには共感するのではないか。
そう、息子の警察官がでてくるヒーローものの番組を見始めたのは去年頃だろうか。ハキハキと喋れるようになって、かわいい顔立ちをして、ちょっぴり生意気で人懐っこい幼稚園児だと思った。そして、私に言うのだ。
「お巡りさんは、どんな仕事をしているの?」
「どんな悪い人がいるの?」
「事件の捜査をしないの?」
「拳銃触っていい?」
質問攻めばかりで、うっとおしいと感じることもしばしばだが、キラキラした目で真っ直ぐこちらの目を見つめられるととても怒る気になれない。時間が許す限り、私へ疑問を投げかけ続ける。そして終わりにこう言うのだ。
「僕に何かできることある?」
「そうだなぁ・・・落し物を拾ってみるとか、いいんじゃないかな?」
うん!と息子は大きくうづいく。そんな小さな体からはみ出るほどの正義漢を持つ坊やに私は一層好感をもった。
それから、しばらくして息子は私の助言通り落し物を私に頻繁に届けるようになった。幼稚園にとっては善行以外の何者でもないが、持ってくるものはほとんどガラクタとしか表現できないものばかり。私はそのつど苦笑して、ありがとう。と言う他なかった。
最初はそれで満足していたのだろう。しかし、子どもの成長とは早いものだ。回数を重ねるごとに私の顔色から気持ちを察していることができるようだ。私の少しうっとおしいと思っている気持ちを。
それを気遣ってか、坊やは段々と持ってくるもののグレードが上がっていった。私もそうなる度、得意げな我が息子を褒める。その繰り返しが続いていく毎日だった。
そして、ある日。坊やはいつものように私のもとにやってきた。
「今日は何を持ってきたのかな?」
「これだよ」
「これは・・・」
渡してきたのは財布だった。しかも、中がぎっしり詰まったもの。
「すごいじゃない。よくやったね。」
「当然さ。僕はヒーローなんだもの」
えっへんと胸をはる息子をよそにパンパンに膨らんだ財布の中身を確認した。万札が1、2枚どころではない。諭吉は何十人もいるようだった。わが子の活躍よりも札束の厚さに私はニンマリとした。これなら何枚かとってもバレないだろう。いや、半分ぐらいでも・・・
私は結局、翌日に半分の中身の財布を息子と一緒に交番に届けに行った。半分と言っても相当な額だ。警官はあたふたした後に息子を褒めちぎった。
息子は私や警官を含めた周りの人間が自分を激励してくれることをとても嬉しかったのだろう。どんどん落し物を持ってくるペースが多くなった。そして、中身があればいいと勘違いしたようだ。何か中身が入っている落し物が増えた。
「ママ、今日も拾ってきたよ」
「今日は何かなぁ?」
私はまた財布を期待した。
「手袋だよ」
私は少しがっくりした。
「そっかー、お巡りさんにまた届けないとね。」
「ママ、まだあるよ。」
「えっ。なになに?」
「靴下だよ。」
「・・・・・・へぇ。偉いねー、いっぱい拾ってきてくれたんだね。」
「うん。とっても重かったんだよ。」
「なんで?」
息子はニッコリと私に褒めて欲しいように笑いかける。
「どっちも中身が詰まっているんだもん。」
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