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われこそは主人公

初投稿です!!宜しかったら感想を頂けるとありがたいです!

 警察官の仕事は日々激務である。それは新米警察官の彼も入る前から重々承知の上だった。

 

 交通整理やパトロール、道案内や拾得物の受付、更には地域のお年寄りの見回りなど多忙の割には月に支払われる月給は雀の涙だ。

 

 そして、今日は冬の夜勤である。やはり「映画に憧れて」などと不純な動機で始めたのが悪かったのだろうか、これからもこんな退屈な仕事こんな過疎化した町でを続けていくのかと思うと20代中盤なのに彼の雰囲気は疲れ果てた老人の様に老けてしまった。

 転職を考えたが何となく腰が上がらない。そんなことを考えながら怠け者の警察官は帽子を苛めてただ時間を浪費した。そんな時だ。叫び声が聞こえたのは。

 

 「お巡り・・・さん・・・お巡りさん!!」

 そんな少年の助けの声にも彼は机に突っ伏したまま「んー・・・」と情けない返事をした。

 「お巡りさん!!お巡りさんってば!!」

 少年が彼の不恰好な制服を揺すりながら大声に呼びかけると流石に木偶(でく)の坊もやれやれといった感じで少年に目を向けた。


 彼が目に入った映像に真っ先に疑問に感じたことは時刻は静寂に包まれた深夜だというのに訪問者のまだ少年が7,8歳ぐらいの小学校低学年だからでも、真冬なのに半袖半ズボンの服装だからでもない。

 

 少年は血まみれだった。

 

 彼は絶句した。警官生活の中では勿論、これまでの人生で血まみれの人間なんて液晶の中の世界でしか見たことがない。彼が戸惑いの色を見せると少年は叫んだ。

 「お母さんが・・・殺人犯に・・・っ・・お母さんが・・・」

 少年は言い終わると赤ん坊のように泣き出した。もはや、彼は少年を慰めることすらできなかった。いや、別の思考に囚われていたのである。

 

 これはいい機会かもしれない。

 

 もし、自分が殺人犯を見事捕まえ、少年とその母親を助けることができたら・・・

 同じ時間帯に勤務している先輩はパトロール中で交番にいるのは自分ひとりだから・・・

 多分、手柄は独り占め・・・

 昇進するのではないか?新聞に載って讃えられのではないか?

 地域住民に崇められるのではないか?

 上司を含む、自分を馬鹿にしたアイツらの鼻を明かせるのではないか?

 風俗のお姉ちゃんにモテるのではないか?

 

 そして、なにより・・・この退屈な生活から脱出できるのではないか?

 

 彼は制服のシワを正し、帽子をかぶりなおした。そして、泣きじゃくる少年をこちら向き直させ、

 「大丈夫だ・・・お巡りさんがお母さんを助けてあげるから。」

 キリっとした表情に悲しみと怒りを混ぜながら、低い声で(なだ)める。すると、少年は少し泣き顔から戻って彼を尊敬の眼差しで見つめる。

 彼は少年に背を向け家はどこだい?と質問した。少年によると川を浜辺を通って約800メートルのところにあると返事。続けて少年に、走れるかい?と聞いた。少年は力強く「うん!!」と答えた。

 少年はもう泣き止んでいた。


 家へ向かう途中彼は少年に

 「お巡りさんってカッコイイね!!」

 言われ、

 「これがお兄さんの仕事だからね・・・」

 と少年を見ずに返した。


 ――――――計画通り


 彼はニヤニヤと口元を緩めた。俺、すげえ。このまま母子を助ければきっと少年は俺の素晴らしい功績を色々な人間に広めるだろう。そうすりゃ俺の昇進も・・・

 

 海から朝日が顔を出し暗闇が世界から逃げようとしていた。彼は何故かその風景に気分が高揚した。

 

 だが、浜辺を抜けたとき少年は息を切らし座り込んでしまった。どうやら疲れてしまったようだ。無理も無いだろう。幼いながら命からがら殺人犯を知らせに走って警官を呼び、息つく間もなく引き返しているのだから。少年はか細い声でおぶってくれと彼に要求した。


 ――――――ふざけるな。


 彼は少年に見えないように顔を(しか)めた。脳内再生していた刑事ドラマのBGMが止んだ。

 あと目的地まで多分200メートルあるかないかだ。早くしないと母親は息絶えるかもしれない。犯人に逃げられてしまうかもしれない。

 そうしたらどうする。俺様の出世はどうなるんだ。お前は俺様に偉業を伝えるために存在している。それにこいつは血まみれだ。その血が制服についたらどうしてくれる。俺様の体を汚すな。クリーニング代だって勿体無い。

 

 そんな台詞を飲み込んで彼は言葉遣いこそ丁寧だが荒々しく少年の血が付いていない手を引いた。少年はぐったりしていたが、目の前のヒーローの期待に応えようと家への道を示した。

 ここか・・・と彼はほくそ笑んだ。なるほど普通の二階建ての一軒家だが、人が少ない田舎だからか見るからに防犯と呼べるものは窓と玄関のちゃちぃ鍵だけだ。周りにはほとんど民家がない。忍び込むのは簡単そうだ。なにも、強盗に入る価値がある家だとは思わないが。

 

 彼は深呼吸をして鍵のかかってないドアをわざわざ蹴破った。そして、映画やドラマの真似をして腰を低く、固めをつぶり「警察だァ!!」と言い放って銃を懐から素早く構えた。

 

 ――――――決まった。

 

 彼の中でひとつの見せ場を終え、一つ息をつき、彼は家の探索を始めた。すると、物が散乱していたリビングに血まみれの死骸が横たわっていた。

 「お父さん・・・」

 少年の呟きを聞いて彼は死体が父親なのが少し引っかかったが、わざとらしく「遅かったか」と吐き捨てた。

 リビングと一体化したキッチンから包丁がないことに彼は気づいた。冴えている、まるで刑事ドラマやなんかの主人公のように。と彼が自分に心酔しているその刹那。


 階段の方から人がゆっくり下りてくる音が聞こえた。

 彼は今更自分の身が心配になってきた。犯人の凶器は拳銃でなく包丁だということは幸いだが、如何せんあっちは殺人鬼だ。何が起こるか分からない。

 生け捕りしようとして返り討ちにされるのは真っ平御免だ。正当防衛で犯人は殺しても大丈夫だろうが、このガキは死んだら困るな。証人はいたほうがいい。犯人を逮捕するという予定はやめだ。階段から犯人が降りた瞬間に仕留めるか。

 とん、とんと犯人は一段ずつ足音が聞こえる。

 とん、とん、張り詰める空気。

 とん、とん、流れる汗。

 とん、とん、震える手。

 とん。今だ。

 「お母さん」

 彼はその言葉に少年の方を向いてしまった。少年は確かに犯人を真っ直ぐ見つめていた。振り向いたときにはもう腹に冷たい痛みが走っていた。無様にのたうちまわる警官をよそに母親は優しい顔で返り血を浴びた手で少年の頭を撫でている。

 何故だと彼は息を切らしながら問うと母親はゆっくりと彼の方を向き、穏やかな声で言った。

 「私、常日頃から人を殺したい衝動に駆られていましたの。ついに今日夫を殺してしまったんですが、・・・なんか物足りなくてこの子に人を呼んでこさせたんです。」

 愛する我が子を殺さないで済みましたし。と恍惚した表情で母親は愛おしそうな目でわが子を見つめる。彼の声にならない抗議をよそに最後の楽しみを取っておいたかのように母親は、

 「ありがとうございます。これで満足しました。」

 と御礼の言葉を述べて包丁を振りかぶった。


 彼はきっと新聞に載るに違いない。惨劇事件の主人公として。そして、彼の人生が平凡でありふれたものだという人はいないだろう。

小説って難しいですね・・・これ書くのに6・7時間かかりました・・

これからも稚拙ながら小説を書いていきたいです。

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