今日もまた、私は“仲良し”のふりを重ねる
翌日、教室は昨日と同じように賑やかで、でも私はどこか心がざわついていた。
ちぐさは、私の横に座るといつも通り笑顔を浮かべた。
「おはよう、さな!」
その声に、私は小さく頷く。笑顔は忘れない。演技だから。
でも、胸の奥は重く、息が詰まる。
ちぐさが楽しそうに話すたび、私の中の冷たさが少しずつ広がる。
彼女は、無邪気に私だけを見てくる。
その視線が、昨日よりもずっと鋭く感じるのは気のせいじゃない。
授業が始まっても、ちぐさは私に絡み続ける。
私がノートに目を落としても、手を叩いて話しかけてくる。
「さな、昨日の放課後、何してたん?」
その質問に、私は表情を変えずに答える。
「家で勉強してた」
――本当は、何もしていなかったのに。
でも、こんな些細なことに嘘をつくのはもう慣れっこだ。
休み時間になると、ちぐさは私の机の前に座り込み、ぺたっと顔を近づけて笑う。
「さな、ほんまに私のこと好き?」
――馬鹿みたいな質問だ。
心の中で軽くため息をつく。
「もちろんやで」
口に出すと、ちぐさの目が輝く。
私の中で、少しだけ罪悪感が生まれる。
でも、その罪悪感はすぐに冷める。
だって、私は本当に彼女のことなんて好きじゃない。
大嫌いで、面倒で、息が詰まる相手だ。
それでも、表面上は“仲良し”を演じ続けなければならない。
放課後になると、二人きりの廊下。
ちぐさはまだ、私の腕を軽く引っ張る。
「さな、もうちょっと一緒におられへん?」
笑顔は無邪気で、私を縛る鎖みたいに重い。
――もう限界や。
でも、まだ言えない。
私は微笑む。嘘の微笑みを浮かべて、彼女の腕をそっと振りほどく。
ちぐさは少し不満そうに目を逸らす。
でも、それ以上は言わない。
――その微妙な沈黙が、二人の距離をますます縮めることも、広げることもなく、ただモヤモヤと空気に溶けていく。
今日もまた、私は“仲良し”のふりを重ねる。
胸の奥で、ざわつく苛立ちを押し殺しながら。




